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交友関係

 悲しいのは勿論。

 それだけではなく、悲しさが天元突破したせいで、脳が可笑しくなったのか、何故かイライラしてきた。

 先程までは、反論できない、なんて思っていた癖に、今では、すらすらと、八束を責めるような文言が、浮かんでくる始末。

 それでもしばらくは、口をつぐんでいた。反論したって、負け惜しみとか、逆切れとか、もしくはそれらに類似するような……俺に正当性のない物に、なってしまうと思ったからね。実際その通りなんだけど。

 けれども、やっぱり我慢できなくなって、つい、口にしてしまう。


「お前だっていないだろ?!」


 まさかここで反論が来ると思っていなかったのか、八束は眉を動かす。


「いや、居ない訳じゃないが、八束とは、どーも、相性が悪そうでなあ……」

「そんなの、居ないのと同じじゃないか!」

「んな、暴論な」


 暴論である。

 しかし、そんなことは、今の俺には関係ない。

 ……頭の片隅では、滅茶苦茶なことを言ってる自覚はある。でも、思考の大半は、自分が正しいと思っていて、それらに体が乗っ取られているような……まあ、それすらも思い込みって言うか、冷静な方の自分が、主導権を渡しちゃったから、こうなっている訳なんだけども。


「俺にだって少なくない数の……友達って言えるかは知らんが、友達になってやれ、ってお願いできるくらいの仲の奴はいるよ?ただ、全員が全員なあ……」

「因みに何人くらい?」

「男子の三分の一くらい?」

「……」


 俺たちは黙り込む。

 今まで、カっとなっていた俺だったが、流石に黙らざるを得なかった。

 多分、八束も同じことを思っているだろう。


 ……いや、でも、なんというか、責任転嫁している気がしなくもないし、第一、友達のことを悪く言いたくはない。八束?奴は別だよ。あいつは別にけちょんけちょんに言っても問題ないから。


 そんなふうに俺は躊躇していたが、八束は容赦なく口に出した。


「影井が悪いんじゃね?」


 ……。

 肯定は出来ない。でも、強く否定することも出来なかった。

 強く否定出来ないってことは、やっぱり、俺の中でも、影井が悪いと思ってる節があるんだろうな……。まあ、分かりきっていたことではあるんだけど、改めて気付かされると、何とも言えない気持ちになる。


「いや、だって俺、結構交友関係広い方だよな?」


 俺の反応を見て怯んだのか、八束は困ったような顔をして、聞いてきた。

 そこは別に否定するところでもないので、頷く。


「で、その俺が友達紹介できないってことは、影井の方に原因があるんじゃね?メイドの子とも上手くいってないみたいだし」


 ぐう正論。

 いや、てか、そんなことは知ってるよ。分かってるよ。ただ、感情がその結論を受け入れてくれないだけで気付いてないわけじゃないから。


「い、いや、八束が派手なヤツばっかりとつるんでるから、悪いんじゃない?」


 無理矢理出した反論だったが、悪くない気がした。全部が全部、反論の通りとは思わないけど、一部は正しいんじゃないか?

 だってどう頑張っても、八束の知り合いって、友達になれないような陽気な奴らばっかりだもんなあ。友達になる所か、話すのもちょっと嫌だわ……。俺ですら、そうなんだから、影井が彼らと話してみろ、彼らに馬鹿にされる未来しか見えない。

 それが友達……?いやいや、無理無理。


 せめて、八束にもう少し大人しい……それか、優しい友達がいたらなあ……。いや、友達のとの字すら居ない、俺の言えることでは、ないんだけども。


「む……」

 八束が黙り込んでしまった。


 効いたのか……?

 悪さで言ったら、俺や影井の方が遥かに上で、八束にはほとんど落ち度がないというのに……?


 これはチャンスだ。なんだかよく分からないが、八束が血迷っている。今の内に全て責任を押し付けてしまおう。


「それに、友達が殆ど居ないやつに、友達を作らせるより、元より友達の多い奴に、新しい友達を作らせる方が簡単だろ!だって後者は元から、人と話すのが得意なんだから。人には向き不向きがある。不向きな奴に責任を押し付けるなんて、情けないことだとは思わない?」


 もう、何を言っているのか、自分でも良く分からなかった。

 でもそれでもいい。だって、こういう時に大事なのは、中身じゃなくて、勢いなのだから。

 多少、意味の分からないことを言っていても、勢いで流してしまえば、押し切れることは多々ある。

 八束が血迷っているなら、尚更だ。

 自分の言ったことを、よくよく考えてみると、物凄く、自分を貶めているような気がする……が、気にしたら負けだ。余計なことは後から考えればいいのだから……。


 俺はじっと、八束を見つめた。ダメ押しだ。

 すると、奴は見るからに、たじろぐ。


「ま、まあ確かにな……?」


 全てに納得していない……何か引っかかる事でもあるのだろう。煮え切らない表情と返事である。

 きっと今が引き時だ。これ以上、深く考えさせてはならない。


「だろ?じゃあ、今回の件は八束が悪かったってことで、お前には反省してもらいたい。これからは、大人しい友人も作るように」

「お、おう……?」


 何かを言いたげな八束。彼が口を開いた、まさにその時を狙って、俺は話しかけた。


「しかし、そうなると、現状維持するしかないのかなあ」


 この一言に、開きかけていた口を閉じ、うむ。と考え込む。


「まあ、この状況を劇的に打破できる案は、特にないな」

「そりゃそっか。何事も、問題をガラッと解決してくれる案なんて、そうそうないよね。地道に少しずつ変えてくしかないかー」

「そゆことだな」


 どうやら、思惑通り、注意を逸らせたようだ。八束に気が付かれないように、そっと息を吐く。後は、ミスさえしなければ、上手くいくだろう。だからと言って気を抜くことは出来ない。最後こそ慎重に、だ。


「じゃあ、基本は現状維持。その内、八束が、影井と気の合いそうな、大人しい友達を連れてきてくれるってことで」

「それだけじゃなくて、お前はお前で、影井が友達を作れるように、何らかのアクションは起こしといてくれよ」


 む。

 流石に、全責任を八束に、擦り付けることは出来ないか。


「へーい」


 自分が思ったよりも、叱られた子供のような、不貞腐れた声が出た。

 八束に呆れたような目を向けられ、少し恥ずかしくなる。その恥ずかしさを打ち消すように、そして八束に言い訳するように、言う。


「いや、うん。分かってるよ。俺がどうにかしなきゃいけない、って事くらい」

「いや、そう言う訳でもないんだが……」


 少しばつが悪くなったのか、もごもごと呟く。

 確かに、俺が解決しなきゃいけない、って訳でもないんだろう。でも、解決したいのは、八束じゃなくて、俺なのだから、八束だけが頑張るのは、どう考えても、おかしい。

 俺が精いっぱい頑張って、その上で、八束に助けてもらう。そうあるべきだろう。


 今までのは、別に本気で言ってた訳じゃない。

 だから、何と言うか、うん。ふざけ過ぎたな、って事。


「協力してくれて、ありがと。俺は俺なりに頑張ってみる」


 目を瞑り、うむうむ。と頷いていた八束が、ピタリ、と固まる。


「ん?ちょっと聞こえなかった。もう一回言ってくれないか?」


 声色は真剣だ。声色は。

 ただ、表情はにやにやしていて、からかっているのが、一目瞭然だった。

 どうせなら、完璧に騙してくれればいいのに……。いや、これ、態と分かるようにしてるな?


 俺は、大きく、大きく息を吐いた。これ見よがしに。

 そんなことしても堪えないだろうけど、せめてもの抵抗だ。


「残念でした。大事な事は一度しかいいません」

「ってことは大事なことを言ったんだな?」


 さらににやにやした顔を、こちらにグッと、近づけてくる。ああ、ああ言えば、こう言う奴だな。


「いいや、大事じゃなくても、一回しか言いません」

「でも文法……」

「はいはい、作戦会議終了ですー!アンジェラさん、訓練お願いしますー」


 八束の言葉を遮り、アンジェラさんの方を向くと、彼女は、了承した、と言うようにお辞儀をした。

 八束はきっと悔しそうな表情をしていることだろう。

 今日くらいは、部屋で八束が扱かれている所を、優雅にお茶でも飲んで、鑑賞するのも悪くはないな。そんなことを考えながら、ソファに座りなおした。


 ……アンジェラさんの方から、微笑ましいものを見るような視線を感じたが、きっと気のせいだろう。うん。

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