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好意

「んー。そうか……。でも俺は、神谷の事、見直したけど。意外と考えてんだなあって」

「そう言われると、お前の今までの神谷の印象が、考えなしだった、みたいだぞ」

「いや、そこまでは言ってない」

「全否定はしないんだな……」

「うっ……」


 痛い所をつかれる。

 実際、あんまり、深く行動してないのかなあ……とは思ってた。頭も顔も、運動神経もよくない奴の、僻みだと思われるかもしれないけど。

 まあ、それも勘違いだった訳だし。


「俺から言わせてもらえば、今回ので気がつけなかったら、本当に救いようがない……と思っていたがな」

「わお……。手厳しい」

「実際そうだろ。寧ろ、そっちが、神谷への評価が低すぎて、見る目が甘くなってるんじゃねーの?」


 ぬ。その可能性は、否定できないけど……。いや、そんなに、神谷を低く見てたわけじゃないよ?ただ、今までの行動が、俺と真逆すぎて、少しでも、気の合った行動をされると、それだけで『もしかして、意外と神谷と気が合うのでは……?』と思う現象に陥っている可能性があるかも。言うなれば、映画版ジャイアンの法則に近い。


「アンジェラさんはどう思いますか?」


 かと言って、八束の意見も鵜呑みにできない。彼は彼で、神谷嫌い嫌いバイアスが、かかっている可能性が、高いからだ。ならば、何のバイアスもなさそうな、第三者に聞いてみようと、アンジェラさんの方を見る。


「私……ですか?」


 急に話題を振られたからだろう。先ほどまでは、微笑ましいような表情をしていたアンジェラさんは、ほんのり、戸惑いを顔に浮かべる。

 やれやれ、と、呆れ顔ではあったが、八束もアンジェラさんに注目した。その甲斐あってか、アンジェラさんは、口を開く。


「そうですね……私の印象としましては、甘いと思いました」


「ほら見ろ」と勝ち誇ったように、こちらを見てくる八束。なぜこうも、八束と言う人間は、腹の立つ顔ができるのだろうか?いや、俺が八束と仲がいいから、そう思ってしまうだけ、かもしれないが。


「ですが、私はそういう方、嫌いではありませんよ」


 ふわり、と優雅に微笑むアンジェラさん。

 流石。できるメイドは、フォローも忘れない。


 その言葉を聞いて、八束はどこか不満そうだったが、すぐに、勝ち誇ったような顔に戻る。


「でも結論は、神谷はやっぱ甘いって事だろ?じゃあ、俺の意見が正しかった、って事じゃね?」

「それは……まあ……」


 つまりは、俺は自分で墓穴を掘ってしまった。とそういう事らしい。八束の態度の所為か、多少悔しくはあったが、俺の所為だからなあ……。と自分を戒める。


「ところで、そんな神谷の事、姫様は気に入ってるみたいだけど、そこんとこどう思うのよ?」


 相変わらず、あくどい笑みを浮かべている。ここまでくると、まるで悪役みたいだ。


「そうですね。現状、恋心……までは行っていないようですが、そうなるのも、時間の問題でしょう」

「あー。やっぱ、姫様は、神谷が好きなのかー」


 誰がどう見ても、それだけは分かるよなー。分かりやすいもん。姫様。

 俺たち三人は、自然と顔を見合わせる。


「大変そうだなー」

「ですね……」

「だよね」


 神谷、って良い奴なんだけど、〝皆にとっていい奴〟は、〝彼女にとっていい彼氏〟にはならない。寧ろ、その逆になるケースが、多いようにも思う。ましてや、彼、女の子の心の機微には、疎そうだからなあ……。かなりモテるだろうし。いろんな意味で、根っからの主人公体質、っていうの?本人からしたら、良いかもしんないけど、付き合ってる彼女からしたら、最明の事故物件、だよなあ。


 アンジェラさんは、姫様のこれからを思ってか、深い、深いため息を吐いた。元、専属メイドだったら、そんな反応にもなるよな。ドンマイだ。


「と言うか、業が深いと言えば、適当抜かしてた三芳、中禅寺さんが、気になってたみたい……だったけど」

「は?まじか」


 八束が、珍しく、身を乗り出してきた。

 お?珍しい。気が付いてなかったのか。


「た、多分?」


 あまりの剣幕に、思わず目を逸らす。


「って、事は、心を読んだわけじゃないんだな」


 すごすごと、元の位置に戻る八束。確定事項ではなくなったことで、少し冷静さを取り戻したのだろう。しかしそんな八束に追い打ちをかけるように、アンジェラさんの援護射撃。


「私も同じような感想を抱きましたが」


 八束は、ピタリ、と動きを、止めたかと思うと、髪を掻きむしり始めた。おいおい。禿げるぞー?


「まじかー。気付いてなかったの俺だけかよー」


 そう悔しそうな声を上げる。そこまで、落ち込まなくても……と思わなくはないが、女性が恐怖の対象であり、恋愛なんてもっての外!な、彼からしてみれば、女性の恋心に気づけないのは、死活問題なのかもしれない。


「に、しても意外だなー。まさか、あの中禅寺さんが。俺とおんなじタイプだと思ってたのに……」

「と、言っても、まだ確定で、好きって訳じゃないからね。なんかちょっと、好意抱いてそう。程度だから」


 と、フォローを入れてもなお、不服そうだった八束だが、突如、ピン、と背筋を伸ばし、腕を組む。


「しっかし、そうなると、中禅寺さんが、使い物にならなくなる、可能性が出てくるわけだな」

「中禅寺さんに限って、それはないと思うけど」

「わっかんないぜ?恋は人を狂わせるって言うしなあ……」


 そう、ぶるり、と身を震わせた。

 ……流石、餌食になった人間の言う言葉には、重みがある。

 それに、先程、中禅寺さんへの信頼感?偏見?の所為で、彼女の心情が分からなかったことも、関係しているのだろう。今度は同じ轍を踏まないように、と。


「裏三芳がどの程度、頭回るか分かんないけど、確かに、中禅寺さんいなかったら、厳しそうではある」


 白井さんは勿論、謀なんて向いてないし、神谷も論外。姫様は多少は分かりそうだけど、あの人の好さだと、ちょっと、心もとない。……となると、頼みの綱は、中禅寺さんしか、いない訳で。

 表の三芳が、あの中で一番謀が向いていない、と考えると、今までの中禅寺さんの苦労が、知れる気がする。無意味に目立つ集団なだけに、色々と大変そうだ。なぜ彼女が、あの輪の中にいるのかも、不明だが。


「だろ?」


「どーすんのかなー」と背中が地面につく、すれすれの姿勢のまま、ぼやく。腹筋を酷使してそうだけど、辛くないのだろうか?……辛くないのだろうなあ……。


「……そういえば、やけに親身だね?八束のことだから、笑ってみてると思ってたけど」

「そうしたいのは、山々なんだが……、影響力を考えると、そうもいかんだろ」


 影響力、とな?神谷たちって、そんな影響力があるもんなのだろうか?だって俺達もう、高校生なんだよ?自分のことは、自分で考えられるだろうし、仮に、皆が、神谷の言うことを聞いても、それでどうこう、ならないんでは……?


「そもそもが、今まで、神谷がしてきた不可解な行動が、全部、三芳の所為だった。なんてことも考えられる。そして今回の件で、奴らは更に力をつけた。オマケに、姫さんまで、ついてきてるんだ。何でもし放題なんじゃないか?」

「姫様は、民衆からも人気ですしね」


 アンジェラさんも、うんうんと頷いている。マジか……。ただの高校生たちの、いざこざが、国家レベルの争いになり兼ねん……ってこと?


「って言うか、俺たち一人一人が、国を揺るがせられるレベルには、脅威なんじゃないか?なあ、アンジェラさん」

「その通りでございます。流石、八束様」

「つまり、俺たち一人一人が、気を付けていかなきゃなんねーって事。それとは別に、神谷らの影響力は、我らがクラスでは、半端ねーし、ぶっちゃけると、三芳が神谷洗脳したら、やりたい放題なんでは?」


 うえっ。そんなに神谷って人気なのか。知らんかった。


「えっ。なんで皆、そんなに神谷のこと好きなの?」


 思わず。口に出てしまう。


「カリスマ性……じゃないでしょうか?」


 アンジェラさんが一言。

 なんだそのカリスマ性ってのは……。俺には全く見えないんだけど。

 しかし、八束が否定しない所を見るに、間違っていないのだろう。


「イケメンが、優しいってだけで、男女問わずから、モテモテだもんな」


 と、イケメンが宣う。


「それは経験談か?」

「そうそう」


 嫌味を含んで、言ってやったのに、満面の笑みで返された。これだから、イケメンは……。


「なーんて、うじうじ、なんか言ってても、俺達にはどーしようもないんだがな」


 ついに、床にねっ転がる八束。あーあ。いや、アンジェラさんが、掃除してるから、汚くはないんだろうけど。あ、でも、アンジェラさんは、汚そうな目で見てるから、やっぱ汚いのか?


「って言うか、それを動かないことの免罪符にしてない?」


 俺が、八束に、胡散臭い物を見る目を向けると、ニカッと、さわやかな笑みを向けられる。


「お前の能力って、ほんと便利だよなー」


 ……やはりそうか。あくまでも高みの見物を、押し通すらしい、このあくどい友人に、呆れる反面。こいつがいるから、俺もこんなに気楽でいられるんだろーな。と思った。

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