神谷グループ
「ところでよ」
俺が考え込んでいるうちに、復活をしたらしい八束は、こちらに向かってくる。
「お前の能力って、離れたところの景色とか、見えねーの?」
「み……れるんじゃないかな……因みに何が見たいの」
「神谷かな」
ニンマリと良い笑顔を、浮かべてらっしゃる。
「神谷って……あいつらの事、嫌いだったんじゃないの?」
まあ、俺もあんまり好きじゃないけど。と心の中で付け加えておく。
「あいつらと関わるのは嫌いだが、あいつらと何の関係もない場所で、あいつらの行動を監視するのは面白い」
ええ……。 結構、エグイこと言ってない?しかも何か、心なしか、楽しそうだし。
この能力、俺より、八束が持ってた方が良かったんじゃないか?
「それに。今後大きく動くなら、神谷と影井。それから、あって池和田、藤堂くらいだろ」
ん。それは確かに一理あるな。彼らを見ておいて、損はないという事だろう。まあ、何かに気が付いても、何もできないんだけど。
俺は、何も言わずに、リモコンを拾った。
それから、目を瞑って、神谷のことが『見たい』と強く思う。
……すると、俺の眼前に、俺の部屋と同じような景色が広がる。視点は……天井から見下ろすような……所謂、神様目線って奴だ。視点は変えられそうだけど、取り敢えずは、このままにしておく。これが一番見やすそうだからね。
室内には、五人……いや、メイドさんを入れて、六人がいた。誰か?なんてのは言わずもがな。
三芳、白井、中禅寺の三人に+ルイーザ姫である。
「また、ルイーザ姫がいるな。もしかして、神谷グループに、仲間入りでもしたのか?」
八束の声だ。目を開けると、じっとテレビを見ている、二人の姿が映った。
ピクリ、とアンジェラさんが、体を動かす。
そういえば、アンジェラさんは前、ルイーザ姫に仕えていたんだっけな。
「もしかして、映さない方が、良かったかな?」
「問題ありません。今の主は、カシオカ様ですので。命令していただければ、外で待機いたしますし」
ん?
もしかして、俺がアンジェラさんの事、裏切るかもしれない、と心配してると思われてる?いや、そうじゃないんだけど……。
アンジェラさんが、ルイーザ姫にチクる可能性は、全く考えてなかった。そういう心配をするのは、何と言うか、今更である。って言うか、チクられた時は、それくらい覗きをするのが、嫌だったんだなあ。とルイーザ姫を覗いた俺に原因がある。と思ってそう。半分くらいは、八束の所為にしてるだろうけど。
ただ、そっちを気にするってことは、そこまで、ルイーザ姫を覗くことに、抵抗はないって事なのだろう。まあ、ルイーザ姫の部屋を、覗いたわけじゃないしね。神谷の部屋覗いたら、ついてきただけなので、どんな角度から見ても、セーフと見做されたのかも。
「あ、それはいいです」
そういった瞬間、明らかにピリッとした空気が、緩んだのが分かった。アンジェラさんの表情は、変わってないけどね。
何の心配をしたかどうか、は、自分から説明すると、何だか押しつけがましい気がしたので、聞かれない限りはしないつもりだ。
因みに、今の俺の視界の状況は、と言うと、左半分が、俺の元の視界で、右半分が神谷の部屋……と言うように仕切られている。例えるなら、テレビで2ch同時に見ようとした感じ。音はちゃんと、両方のが、聞こえてるけどね。
意識して、神谷の部屋の方だけ、テレビに映るようにしてみる。
「お、見やすくなったな」
成功のようだ。
こうやって、いちいち、反応してくれるのは、嬉しい。画面を見なくても、大まかな状況が、把握できるのは勿論の事、純粋に、自分がやったことで、反応もらえるというだけで、良い。
否定意見を言われるのは、確かに良い気分ではないが、何も言われないよりは、マシだと思うんだよな。まあ、一概には言えないと思うけど。
『やはり、戦闘用のスキルの持たない方に、無理に戦闘はさせない方がいいと思うのです……』
ルイーザ姫の声だ。気になって、彼女の方を見ると、視界が切り替わった。
そこには、眉を八の字にして、上目遣いの姫様が、ドアップで画面にドーン!
可愛いけど、我ながらビックリしてしまった。いや、可愛いけど。うん。可愛い。
俺がビックリした、ってことは、他の二人もさぞかし、ビックリしてただろうなあ。と二人を見るが、彼らに動きはない。
いや、八束はものっそい不愉快そうな顔をしている。
いや、ええ……。
あんなにも可愛らしくて、美しい顔を、表情を見て、何故そんな顔が出来るのか、分からない。理解に苦しむ。
……まあ、八束の立場になれば、分からなくはないのだが、何と言うか、ある種の病気なんじゃないだろうか。と思うほどである。言わないけど。
「あーえっと、ごめん?」
「猛省せよ」
低い声で、一言。それだけ、言う。
え……ええー。反省でもなく、猛省、だと?
てか猛省なんて使うやつ、いたんだ。普通に日常会話で、使う場面ないだろ。じゃあ、どこで使うのか?と聞かれても困るけど。
しかも、凄い端的なお言葉。まるで、上司と部下みたいじゃないか。
上司も部下も体験したことはないんだけれど、それはさておき。
聞いて咄嗟に沸いた感情は、怒りよりも、驚きの方が、大きかった。怒るタイミングを、逃したともいう。
彼の心情としては、怒り半分。冗談半分。と言ったとこだろう。もう少し詳しく言うなら、『不愉快すぎて、腹が立つ。八つ当たりで、ちょっと、柏岡を困らせてみよう』……みたいな?
実際困っていて、八束の思い通りになっている。と考えると、腹が立ってきたが、何も言わないことにした。それが一番平和的な方法だ。
『そうか?』
三芳は、納得いかないのか、顔をしかめている。イケメンとはいえ、どちらかと言うと、厳つい系の顔をしている三芳が、不機嫌そうな顔をすると、相当な迫力である。ルイーザ姫が恐怖を感じていないか、心配だ。
『死んでしまうかも、しれないのですよ?』
予想と反して、姫はしっかりと三芳の目を見据え、凛としていた。
そんな、姫に三芳は、何を思ったのだろう。いや、多分何も思わなかったのだろうな。三芳の威嚇が、『意図的』な物だったら、怯まない彼女に、逆に、怯んでいたことだろう。然し、彼に、その気はなかった。だから、姫が、何の反応も示さなくても、何とも思わなかったのだ。
むしろ、姫が怯えていたら、三芳が混乱していたと思う。
なんというか、自覚がないって、恐ろしいな。今回の場合、相手のルイーザ姫は、何とも思ってないみたいだから、良かったけど。
『前も言ったけどよ。そうなったら、俺達が守りゃいいんだよ』
そう、不敵に笑うと、手をグッと握り込む。
「相変わらず、アホな事言ってんなあ……」
おいおい。アホて……。
流石に、アホは言いすぎにしろ、八束の言いたいことには、賛成である。三芳の意見が、良い物だとは思えない。
だって、スキルのない人を連れて行くんだろ……。それって、言い方悪いけど、足手まとい連れてるのと同じじゃん。
例えその人が、望んでいたとしても、連れていくのは微妙なのに、行きたくない人を説得する必要はあるのか?という。行きたくない人からしたら、迷惑な事、この上ないよなあ。
『なあ?』
同意を求めるように、白井さんの方を見た。
『えっ……と、私も、戦闘スキルがなくて、戦いたくない人を、無理に連れて行くのは、反対かな……。皆が傷つくのを、見たくないし……』
白井さんは、三芳に同意できない事を、心苦しく思ったのか、申し訳なさそうな顔をしている。
その言葉に不味いと思ったのか、三芳は慌てて、中禅寺さんの方を見る。
『中禅寺はどう思うよ?』
『私?私は反対よ。寧ろ、戦闘スキルがないなら、どんなにやる気があっても、ついて来なくていいと思ってるわ』
『何故だ?』
心の底から、疑問に思ってそうな顔をしている。何故も何も、そのままの意味だと思うんだけど。
多分、中禅寺さんの言うことが、予想外過ぎて、頭が回っていないのだろう。俺的には、中禅寺さんの言葉は、予想範囲内。つまり『ああ、言いそうだなあ』って感想だけど。
『何故って……戦う上で邪魔になるからよ』
『じゃ、邪魔って……』
中禅寺さんの放った過激な言葉に、たじろぐ三芳。
まあ、美しいご尊顔から、そんな手厳しい言葉が出たら、誰でもたじろぐわ。俺は、八束で慣れてるけど。そう考えると、中禅寺さんと八束って、性格似てる……?
『邪魔でしょ?最悪私たちが、死ぬかもしれないんだし』
中禅寺さんからは、強い意志を感じる。きっと何を言っても、無駄だろう。まあ、口調はあれだけど、言ってること自体は正しいしね。
三芳はこれで、この中の半数以上が、反対意見だと、気が付いてしまったのだ。最後の希望だ。と言わんばかりに、神谷の方を見る。
『僕は……』
今まで黙り込んでいた神谷が、三芳に応えるためか、口を開いた。神谷を見る、三芳の目には、期待がこもっているように見える。




