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召喚魔法

 ラルゴさんは柔らかに微笑んだ。

 まあ、どれだけ説得したところで、ラルゴさんの罪悪感が、なくなることは、ないのだろう。もしも、俺がラルゴさんの立場だったら、罪の意識でどうにかなっていただろうし、誰かに何かを言われたところで、その罪悪感は、無くならなかったに違いない。


 これが当事者と第三者の感じ方の違い、と言うものなのかも。絶対に、ラルゴさんは悪くないと思うんだけどなあ。……ああ、でも、他の奴らも同じように思うか?と聞かれると何とも言えない。八束とか、影井とか、先生なんかは、大丈夫だと思うけど。

 それ以外の奴が、ラルゴさんを責めないとも、言いきれない。だから他の奴には、なるべく、このことは話さない方がいいかも。一番初めの授業の時に、眠りの呪文を唱えていた件も併せると、かなり印象は悪くなるだろうからね。まだバレてないから、今のところ何もないけど。


 まあ、そんな話を大して親しくもない同級生ともしないだろうし、そもそも、話すきっかけがない。いきなり、名前知ってるくらいの仲の奴が、「俺たちを召喚した原因は、あのじじいが作ったんだってよ」なーんていったって、怪しさしかないでしょ。

 まあそりゃ、同級生の好で、多少は信じてもらえる……かもしれないけれど。俺はそんな不審者には、なるつもりがないし。そう考えると、人に話す……と言うか、聞かれるような状況が思い浮かばない。だから大丈夫だろう。


「あ、そういえば」

「ん?何かの?」


 俺の声色から、慰めの色が消えたことを、感じ取ったのだろう。ラルゴさんも、さっきまでの、落ち込んでいたことなんて、初めから無かったかのような、態度を見せる。

 本当は罪悪感で胸がいっぱいだろうに、それを俺に見せると、心配するだろうから、と、わざわざ、平静を装ってくれているのだろう。

 流石おじいちゃんである。


 俺はその気持ちを、ありがたく受け取った上で、知らない風を装う。


「異世界から、の召喚って、他には何が召喚できるんですか?」

「む?」


 何故そんなことを質問したのか?と不思議そうな顔をするも、すぐに納得するように頷く。好奇心によるものだ、と判断したのかもしれない。


「そうじゃのう……悪魔や、天使が代表的じゃの。ただ、天使は呼び出しても滅多に出てこぬらしい。悪魔は……出ては来るものの、願いを叶える代償に、何かを奪われるとか……。まあ、余程のことがない限り、悪魔とは契約せんのう。教会からも悪魔召喚は、異端とされているしの」


 天使の方はさておき、悪魔の方は予想通り、と言うか、イメージ通りだったな。

 まあ、悪魔を召喚したい人なんていないだろうし、まあ、教会からしたら、論外な手段だろう。天使も……天使はそもそも来ないならなあ。……いや、待てよ。


「教会が天使を呼び出した事例ってあるんですか?」

「もちろん存在するのう」

「……結果は?」

「……」


 ラルゴさんは俺から、あからさまに、目を逸らした。

 あ、これは駄目だった奴だ……。


「かなりの回数、呼び出したらしいのじゃが、それに天使が応答した回数は、数えるほどしか、なかったらしいのう」


 うん。まあ、一回失敗しただけじゃ引き下がらないよね。教会の中で、天使がどれくらいの立ち位置にいるか、知らないけど、神の次くらいに神聖なものだとしたら、成功するまで呼び出してもおかしくはない。

 その所為で、成功率が低いことが、分かってしまったのは、災難だけど。教会の信用度にも、悪影響を及ぼす案件なんじゃないだろうか?


 というか天使も天使である。折角、自分たちを信仰してくれているのに、出てこないって……。教会が見放さないのが、不思議なくらいだ。

 天使って言うと、凄い優しくて、可愛らしい。みたいなイメージだけど、この世界では、そうじゃないのかも。あー。そうか、あの女神の部下、みたいなもんだからなあ。性格が腐ってそうな感じがするわ。


 つまり天使もダメ、と。


「他に呼び出せるような人?物?はいないんですか?」

「精霊……やら、妖精やらの世界もあるらしいが、呪文自体、見つかっとらんからのう……伝説の域を出ぬのじゃ」


 ……そっか。

 じゃあ、俺たちを呼び出すしか、手がなかった、ってことなんだろう。がっかりしたような、安心したような、複雑な気持ちだ。

 うん。でもまあ、これですっきりした。

 今回のことは、仕方なく起きた事故だったってことで。だからって、教会を許したわけじゃないけど、少しは情状酌量の余地があるかなって。


 人を憎むのは何も考えなくていいから、楽かもしれない。けれど、それはやっぱり、つらい。俺の心の奥の方で、ずっと尋ねてくるんだ。『本当にそれでいいのか?』って。

 多分、俺は人を憎んだり、嫌ったりするのに向いてないんだろうなあ。まあ、それでも、嫌なものは嫌なんだけど。


「ありがとうございました」

「ふ、ふむ?まあ、何かの助けになったなら、良かったのじゃ」


 ラルゴさんは、いまいち、しっくり来ないような、表情をしていたが、何も聞かなかった。もし、聞かれていても、はぐらかしていただろうけど。


「ところで、お主、彼は放置でいいのかの?」


 ラルゴさんの視線の先には、体操座りで下を向いている八束がいた。

 うわ。すっかり忘れていた。……と言うか、そんな律義に、ずっと座ってなくてもいいだろうに。


 ん?よく見てみると、ちらちらと目だけで、こちらを見ている。さては、やめるタイミングを見失ったな……?その縋るような視線を受け、俺は大きなため息をついて、立ち上がった。


「そろそろ、席に着いたら?」

「なんか冷たくね?」


 不満げな八束の顔が、なんだかむかついたので、無視して、体を持ち上げる。

 やっぱり、不満そうな八束だったが、抵抗を見せることはなく、すんなりと立ち上がった。

 ここで立ち上がろうとしなかったら、このまま放置してただろうなあ。つまり彼は、自分でも、知らず知らずのうちに、窮地を避けていた訳で……。今回は、運が良かったな。


「そもそもお前が言い出したんだろ……」とかなんとか、ぶつくさ言っているが、すべて無視をする。元はと言えば、悪いのは八束であって、俺はなーんにも、悪くないからね。


 八束が椅子に座ると、ラルゴさんが、

 パン

 と手を鳴らした。仕切り直し、と言う事だろう。


 俺たちは、顔を見合わせ、各々聞く姿勢をとった。


「まず火の魔法じゃが、代表的なのはファイヤーボールじゃな」


 あーよく聞く奴だ。それを使える魔法使いが、イキってる場面とか、多い気がする。「俺はファイヤーボールが使えるんだぞ」「「おぉ……(どよめき)」」みたいな。


「ファイヤーボールってどんな魔法なんすか?」


 字面から、大まかな予想は出来るだろうに……。まあ、念には念を入れて、聞いておくに越したことはないか。もしかしたら、想像してるのとは、全然違う魔法かもしれないし。


「文字通り、火の玉を出す魔法じゃな。火を生み出す操作と、火を操る操作が必要じゃと言われておる」


 あれ、いざ説明を聞いてみると、思ったよりは難しそう。代表的、ではあっても、初歩的な魔法、ではない。と言う事か。じゃあ、冒険者ギルドに行ったら、本当にファイヤーボールが出来るから、と、イキってる奴がいるかもしれない。そもそも、冒険者ギルドがあるかどうかすら、分からないけどね。


「そのファイヤーボールっての。発動させるのは難しいんですか?」


 お。

 丁度、俺も、そのことについて考えていたところだった。

 そんなに簡単な魔法ではない、と予測はしてみたものの、合っているかは分からないからね。聞いてくれるのは助かる。別に、自分で聞くのもいいんだけど、どうしても、無駄に考えてしまうからなあ。だから聞いてくれるのが一番だ。


「まあ、簡単ではない、かのう?ただ、この魔法が発動できないと、魔法使いとして生きていくのは難しい、と言われとるんじゃ」


 なるほど?初歩的、と言うよりは基本的な魔法らしい。自慢してたら、そいつの底が知れるから、冒険者ギルドには、いないかもしれない。逆に、魔法学校とかには、そういう輩がいそうだ。貴族の息子、とかな。


「まあ、操って、敵に命中させる、って大変そうだもんなあ。魔力使いすぎて、遠くの敵には使えなさそ」

「む?そんなことはないぞい。魔力を使うのは、火を発生させ、発射させる、初めの一瞬だけで、あとは何も必要ないからのう」

「え?そうなんすか」


 え?そうなのか。と言うか、あんま、その辺、深く考えてなかったけど、言ってることは分かる。

 俺の中でのファイヤーボールは、相手を追尾するような物ではなく、発射!被弾!みたいな感じの物だから、ラルゴさんが言っているものに、近いんだろう。


「では、八束が言ったみたいな、魔法はあるんでしょうか?」


 ふむ、と思考を整理するためか、斜め上を見るラルゴさん。


「そう言う魔法の呪文は存在しない、が、発動は出来ないこともないのう……」

「え?もしかして、新種の魔法、発見しちゃった系?」


 八束は、少し興奮気味に、身を乗り出す。しかし、ラルゴさんは非情にも、大きく首を横に振ったのだった。


「いや、他の者も同じような魔法は、考案しているだろう。ただ、使い勝手が悪いから、流行らなかったのじゃろうな……」


 その言葉を聞いて、八束は大袈裟すぎるほどに、大きく肩を落とした。がっくり、と言う効果音がぴったりだ。どうも、消費魔力量が多い、と言うのがネックなのだろう。例え、魔力量が多い人でも、魔力の無駄遣いはしたくないだろうし。他の強い魔法が、同じ魔力量で打てるなら、そっちを使うのが普通だろう。


「ただ、不意を打つ、と言う意味では有効かもしれぬな。場面によっては有効活用できるじゃろうし、悪くない発想じゃと思うぞい」


 褒められたのが、嬉しかったのか、ドヤ顔をこちらに見せてきた。鬱陶しいことこの上ない。そもそも、八束の考えた魔法、ではなく、ただの勘違い、なので、そんなに自慢げなのは、おかしいだろう。

 ……とは思うが、言っても、ラルゴさんには、「勘違いでも、立派な発想じゃ」とか言われそうだからなあ。すると、八束がさらに調子に乗ることは、目に見えているので、言えない。言いたくない。

 んー。歯がゆい所だ。

 何だか負けた気さえしてきた。なんか悔しい。

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