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違和感

「……ええと、何の話をしとったかのう……。

 そうじゃそうじゃ。袋の話じゃな。

 実際の大きさ以上に物が入る袋は、あるにはあるが、かなり貴重なものでのう。とある人物の作ったものしか残されていない、とされているのじゃ」


 ……やっぱりそうか。

 然しそれを作った人物は一人しかいない、と言うことは、その、作った人物がかなり優秀だ。ということの証明になるよな?他の人でも作れるような物なら、とっくの昔に普及してるはずだし。


 でも、性格がいいか?と聞かれるとそうでもないような気がする。

 もしも製作者の性格が良かったなら、その技術をいろんな人に広めている気がする。そして今頃、袋はこの世界に流通していたことだろう。

 それがない、と言うことは、技術を独占したかったのかもしれない。そうなると、優しいというよりは守銭奴、と言った印象が強くなるわけで。まあ、他に理由があったのかもしれないけれど。


「開発者は、その技術を広めなかったんですか?」


 あんまり勝手な妄想をするのもよくない、と聞いてみる。

 俺の声色に非難の色が混ざっていることを感じ取ったのであろう、ラルゴさんは難しそうな表情をする。


「その方はあまり人と関わるのが、好きではなかったらしいからのう」


 何とも言いにくそうに、その開発者を庇うような言動をする。もしかして、知り合いなのだろうか?

 ……まあ、何にせよ、人と関わるのが嫌なら、ケチという訳ではなく、ただコミュ障だっただけなのだろう。それに関しては、俺もあんまり人のことは言えないけど。


「では実際やってみるかの」


 よっこいしょ、と掛け声を上げながら、立ち上がり、周りにある棚をがさがさと漁りだす。

「おお、あった」

 という声とともに出てきたのは、何の変哲もないただの袋だ。


「ではこれに魔法をかけてもらおうかの」


 俺がこくりと頷くと、ラルゴさんは俺に袋を渡してきた。


「ではわしに続いて言うのじゃ

 清らかなる女がm「ちょっと待ってください」」


 すべてを言いきる前に、止めた。

 我ながら大した反応速度だったと思う。それだけ、女神が嫌だったという事に他ならないけれど。


「お主もか」

「……できれば」


 やれやれ、と首を振るラルゴさんに、申し訳ない気持ちが沸いてくる。

 いや、でも断られるのが嫌なら、初めから別の呪文を用意してくれれば良かったんじゃないか?と思わなくもない。あれだけ、女神のことを嫌がってる会話もしたことだしね。


「しかし、お主も唱えられない可能性はあるからの?」


 あまり期待しすぎるな、と案に伝えてくる。勿論、その辺りは、ちゃんと承知している。でも、少しの可能性にでも賭けたいと思うのが人と言うものだろう。宝くじも買わなきゃ当たらない、って言うし。あれは買ったからと言って当たるわけでもないけど。


「では、行くぞ……


 大いなる世界の力よ

 その世界を持ってして

 空間を広げたまえ」


 ……違う。

 違う?なにが……?

 良く分からないけれど、あの詠唱に違和感を覚える。

 しかし、何故この世界に来たばかりの俺に、呪文の真偽が分かるのだろうか?と言うか、この違和感が正しいかどうかすら、怪しい。ただの、気の所為かもしれないし。

 違う、と言うなら、正しい呪文があるはずだ。然しその呪文すらわか……、いや、うん。何となくだけどしっくりきそうなの、思いついたかもしれない。……一回、試してみようか。減るものでもないし。ダメだったら、ラルゴさんの真似をしよう。


「空間よ

 我が魔力で

 広がれ」


 言うと同時に、魔力を込める。


「何故、わしの真似をしなかったのじゃ」


 ズカズカと、ラルゴさんが近寄ってくる。これは、怒ってる、よな?……申し訳ない。


「すいません……なんとなく違う気がしたので……」

「そんな何となく、で、やっていい事じゃないんじゃぞ……?もし、暴発でもしたら、今頃、大変なことになっておった」


 あ。

 そういえば、言ってたっけ。危険な呪文だから、暴発する可能性があるって。

 聞いていなかったわけでも、忘れていたわけでもない。ただ、暴発って言っても大したことないんじゃないか。と思い込んでいた。

 涙目になっているラルゴさんを見た、今ならわかる。俺は考えなしすぎた。見通しが甘かった。

 せめて、ラルゴさんに、聞くべきだった。


「すいませんでした」


 俺が頭を下げると、ラルゴさんの視線が突き刺さるのが頭越しにもわかる。

 そして、俺が頭を上げると、ラルゴさんは優しく微笑んでいた。


「何はともあれ無事でよかったわい」


 その安堵の笑みで、どれだけ彼が俺のことを心配してくれたかが、分かって……、もう二度と、安易なことはしない、と心に決めた。


「てか、これやべえな」


 声の方を見ると、八束が袋の中に手を突っ込んでいた。どうやらいつの間にか、袋を取られていたらしい。


「何がヤバいのかの?」


 ラルゴさんの口から、ヤバいと言う言葉が出るのは、ちょっとした違和感だ。翻訳の効果で、こうなっているだけで、実際に、言っているわけではないのだろうけど。

 そう分かっていても、クスリ、と来てしまう。


 ……これって、態とやっているんだとしたら、翻訳にユーモアがあることにならないだろうか?ユーモアがあっるってことは、感情が理解できるって事であって……ってそんなこと、ある訳ないよな。きっと、たまたまだろう。


「いや、結構広いんだなあ、と思って」

「は?」


 ラルゴさんは慌てて八束に駆け寄ると、袋を奪い取った。そして、恐る恐る、手を突っ込み、腕を動かしている。


「ちょ、急に取らないでくださいよ。そんなに慌てなくても、言えば渡したのに……」


 いやいや、元はラルゴさんのものなんだから、八束が偉そうに、言うことではないだろうに。急に、袋が欲しくなることだって、あるかもしれないし。

 確かに、いきなりだとびっくりする気持ちは、分かるけども。


「こ、これは……、魔法が発動しておる……」


 え?

 俺は、ラルゴさん……いや、袋に近寄る。


「マジっすか」

「マジじゃ」


 ラルゴさんの口から出たら、聞きなれない言葉、part2だ。と言うかさっきの『やばい』よりも聞きなれない感じが強くて、なんだか面白いな、となんとなく思った。


 ……。

 いや、あ、いや、よくよく考えてみれば、別に驚くことなんて何もないじゃないか。俺が正しいと思った呪文が。実際正しかっただけで、何もおかしいことなんてない。うん。


 ……で?その呪文はどっから出てきたんだ?


 ……。


 ……あ、これが勇者の恩恵ってやつ?……だったりしないだろうか?それなら納得できる、と言うか、勇者の能力、と言われれば、大概の現象は納得できそうだけど。


 然しそれだと、八束が呪文を唱えられなかった、という謎が残る。

 ……こうは考えられないだろうか?


 俺と八束の違いと言うと、魔法使いか、そうでないか、だ。

 厳密に言うなら、俺は魔法使い……?って感じだし、八束も、俺と契約して、辛うじて前衛になった感じだけど、それはさておき。


 魔法使いの俺は、勿論魔法を多用するから、魔法に関するスキルや、技術を所得する。逆に、魔法使えない、八束はそんなの持っていても、メモリの無駄遣い♥になってしまう。覚えられるスキルの数は無限、ってこともないだろうしね。

 だから、この差は、あって当然のものだろう。


 そう思うと、結構納得できて、ほっとした。


「しかし、大きい空間じゃの……」


 ぼそり、とラルゴさんが呟く。

 そんなに大きかったんだろうか?自分では良く分からない。大体どのくらいの空間になったかどうかは、そりゃ分かるんだけど、それが大きいのか小さいのか、と聞かれてもなあ。

 多分、広げる空間大きさは、消費魔力と比例するだろうし、まだまだ魔力に余裕はあったから、大したことないものだと勝手に思ってたけど。

 ……ああ、でも、たかが空間を広げるだけの魔法に、自分の全魔力を注ぐ馬鹿はいないよなあ。他に魔法を発動することを考えると……魔力を込めるのはもっと少なくて良かったのかもしれない。そういう意味では、結構使っちゃったのかも。


「これで、どれくらいの魔力を消費したのじゃ?」

「二十分の一くらいですね……」


 調子に乗って魔力を使いすぎたことが恥ずかしくて、身を縮こまらせる。


「なんと……」


 えっ。何か驚くような要素があったのだろうか?

 確かに魔力は使いすぎたかもしれないけど、全部使いきった訳じゃないから、そこは大目に見てほしい。なんせこっちは、つい最近まで、魔法のまの字も知らなかったんだから。いや、魔法自体は知ってるけど、実在するなんて思ってないし。寧ろ、実在すると思っていたら、それはヤバい奴なわけで。

 大半、言い訳みたいになってしまったけど、異世界から来たてホヤホヤ、ラルゴさんにご教授頂いてから、たった二日、いや、昨日はネタばらしだけで終わったから、実質一日。そんな俺が、魔力を使いすぎただけで、こんなに飽きられるとは思わない。思いたくない。

 だから、魔力の使い過ぎで驚かれたってのは、違うと思う。


 じゃあ、何に驚いているか?と聞かれると、それはそれでわからない。

 うーん。何か、新たな発見があった、とか?

 ……そんなの予測しようがないわ。

 ってこれ、考え出したらキリがないよな?突飛なことは予想できないし。

 やめやめ。考えるだけ無駄だから、やーめた。


 俺が思考を停止させると、ラルゴさんがこちらをマジマジと、眺めてきているのに気が付いた。


「お主の魔力量、凄いのう……」


 ぽつり、と内側の声が漏れ出てしまったかのような呟き。

 ん?と思わず我が耳を疑った。

 魔力量が凄い……って、少なく過ぎて……って意味じゃないよね?まあ、その可能性は否定できない、けども……。……勇者だし、一応、魔力を使う職業っぽいし、あんまり考えてなかったけど。

 ……え?俺魔力低いの?


 居ても立っても居られなくなり、ラルゴさんをじっと見る。

 えっと、何々……?魔力量は、562……か。


 勝手に覗いて悪いとは思うけど、聞きにくかったんだから、仕方ない。

 仮に、魔力が低くて驚かれているとしよう。その場合、僕の魔力が低いから驚いたんですか?とでも聞いてみろ。『え?当たり前だろ(笑)逆にそれ以外、何だと思ったの(笑)』と思われるかもしれない。……いや、ラルゴさんがそんなことを思う、人間だとは思えないけども、そう思われてそう、と俺が思うのが問題なのだ。

 それにしても、思う、多すぎ。



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