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俺の天職

「貴方の天職は観察者のようです」

「かん……?」

ミューさんは天職の話を始めた。特殊な能力について話すことで、落ち込んだ気を紛らわせられると思ったのだろうか?それともただ、時間が押しているだけなのか。


それにしてもどんな能力なのか、分かりにくい天職だ。そもそも観察者って職業なのか?覗き魔とかストーカーという言葉が連想されてしまうのだが……。大丈夫なのか?俺。

魔法使いとか、剣士とかもう少し分かりやすいのが良かったな、と思うのは我儘なのだろうか?


「スキルには〝プロビデンスの眼〟というものが存在するようですね。このスキルを使えば貴方に見えないものはないでしょう。

……分かりにくい言い方ですね。すいません。本当に何でも見えるので説明するのが難しいんです」

難しい、と言われてしまった。

世界の管理者をしても説明が難しいとは、俺の職業はどれだけ難解なんだ……。まあ確かにプロビ……?聞いたことも無い名前だ。なんだそれ。


「大丈夫ですよ、きっと使っていくうちに分かるでしょうし」

大丈夫ではない。今後の生命線になるかもしれない物なのだ。分からなければやっていける筈もない。

全くもって大丈夫ではない。

ではない。が、詰め寄ったところでいい説明は返ってこないだろう。

ならば能力の理解は諦め、いい印象になるよう努めてみる。


「そういってもらえると幸いです。でも、一つだけ断言できることがあります」

狙い通り、ミューさんはホッとしたように肩を撫でおろした後、ティーカップの表面を指でつるりと撫でた。


「それはなんでしょう?」

ためが合いの手を入れてほしそうなので入れてみた。涙目になった相原が脳裏によぎる。ああはならないとは思うが、空気を読むことは大切なのだ。今まで培ってきた日本人の得意能力。ここで生かさないでどこで生かすというのだ。


「見ることに関して言うならば、私をも凌駕してしまうという点です」

世界の管理者を超える……?彼女の能力がどれほどかは不明だがそれは物凄いことなのでは……?


然し、と目を伏せ彼女は続ける。

「その代償に……というべきでしょうか?厄介な効果もまた付与されていたのです。それは……」

「それは……?」

「世界に干渉できないようなのです」

「……はぁ」


世界に干渉できない、とはまたスケールの大きな話である。その、つまり、……どういうことだ?

何度も首を捻る俺に説明を加える。


「つまり、貴方がその能力で誰かが死ぬ未来を見たとしましょう。然し、貴方はその人を助けることが出来ない、とそういうことなのです」


……なるほど、わかったようなわからないような。


「それは、貴方が未来を見ようと見なかろうとその人を助けることが出来ません。また、その未来を誰かに話したとしましょう。そうすると、未来を知った人もその人を助けることは出来なくなります」

「もう少しわかりやすく説明お願いします……」


うーん、とミューさんは唸る。

「そうですね、例えば世界がひとつの物語だとしましょう。貴方はその本を読むことが出来る読者です。貴方はあくまでも読者ですから、その物語の大筋を変えることはできません。また、物語に出てくるキャラクターにこれはこんな物語なんだよ、と説明することは出来ますが、その説明を聞いたキャラクターも物語に関われなくなる……と言うような感じでしょうか……?」


なるほど。さっきよりはわかりやすい。

と、言うことは……?

「1つでも未来を知ったキャラクター?は俺のように今後一切、物語に関われなくなる、という認識でいいんでしょうか……?」


「いいえ、関われなくなるのは、あくまでも教えられた事柄に対して、のみですね」


なんだそれ。ものすごい差別だ。

でもこれ、知っても知らなくてもどうも出来ないなら知っておいた方がいい……よな?

世の中知らない方がいいこともあるんだよ、という言葉もある。

けど、知らないまま後悔するより知って後悔した方がいいと俺は思う。


大雑把な話しすぎて実感がわかないが、要するに世界から弾き物にされているというか、歯車の一員ではなくなっているというか、俺いてもいなくても同じ……?ってことか、これ。

なんだそれ。

……なんだそれ。

意味わかんねえ。


「それ、どうにかならないんですか?別に覗き魔能力とかなくていいので……」

「の、覗き魔……?」

おっと口が滑った。でも正直、なんでも見れても何も出来ないのなら、なんの意味無いじゃないか。本当に意味わかんねえ。


「……すいません、なんとかしようとは、思ったんですが、私の力ではどうにも出来なかったんです……」

「そうですか……因みに俺って死ぬんですか?」

「え?何を……死ぬに決まってるじゃないですか」


死ぬらしい。そうかー。世界の輪の中から外されてるなら死なないのかと思ったけどそうでも無いんだな。益々意味がわからない。なんだって俺にそんな能力が……、というか理不尽というか、なんというか……はぁ。


どうやら、ミューさんの話題の振り方はあまりよろしくないらしい。またもや、重苦しい空気になってしまった。

まあ、その空気を出しているのは俺なんだけども。

再び、抹茶を口に流し込む。苦味と一緒に辛いことも流れていく気がした。気の所為かもしれないけど。いつまでもイラついてるわけにもいかない。これから知らない世界に飛ばされるわけだしな。


「これから私たちが行く世界、というのはどんな世界なんですか?」

俺は気を取り直して、質疑応答を再開させる。

ミューさんは、背筋をピンと伸ばた。

これから大切な話をする、とでもいうように。


「日本のように、平和な世界ではありません。戦争はいつ起こってもおかしくない。貧富の差はとても激しく、奴隷制度も存在するようです。ああ、皆さんが無理矢理奴隷にされないように、対策はしてありますので、そこはご安心ください。あとは、魔物、というものが出るらしいです」

「その魔物、というのはファンタジーとかでよく出る物を想像すればいいんでしょうか?」

「ええ、恐らくは。知性のない魔力を持つ動物のようなものが襲い掛かってくる、と聞いていますので」

「なるほど……では私たちは何故呼び出されたんでしょう?」

「それは異世界についたら聞いてください。言葉はきちんと通じるように調整しましたから」

「そうですか。ありがとうございます。これ以上聞きたいことは、多分ないと思います」


俺は頭を下げると、ミューさんは慌てて頭を上げるよう、言った。もともとの原因は私にあるのだから、と。

やはり、管理者らしくない。彼女には途方もない力があるだろうに(多分)、こうも歪まずに正しくいられるなんて。それが管理者たる所以のなのか?

ミューさんは弛緩した空気を再度引き締めるよう、すう、と息を吸う。

ピリリと張り付くような空気は背筋は伸びるが、不快ではない。


「では最後に。貴方にはいう必要はないかもしれませんが。


異世界だからと言って、能力を得たからと言って、過信しすぎないようにしてください。貴方たちは転移しても現実で生きているのだ。ということをお忘れなく」


俺は、ミューさんの力のこもった言葉に、頷く。

きっとこの忠告に耳を傾けなかったり、従っているつもりでも実際は意識できていなかった、なんてことが起こるんだろうな、と思いつつ。

まあ、俺には関係のないことだ。

いや、関係ないわけではない。

俺にはどうしようもないことだ。


しかし、この世界の管理者というのは随分とお人よしのようだ。わざわざ一人一人に対して、忠告をしてみたり、能力を与えてみたり。

神のことは嫌いだけど、世界の管理者のことは……抹茶を飲み顔を顰めている姿を思い出し彼女にばれないよう、にやりと笑う。

好き……になったかもしれない。まあ、嫌いではないことは確かだ。

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[一言] 実現したい未来だけを告知するような使い方はありそうだけど、果たして。
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