魔力を会得するための方法
「この世界の人間なら生活する中で、少しずつ魔力に触れていって、自然と魔力を感じられるようになる。
それを神への祈りやら、修行やらでより魔力を精密にコントロール出来るようにしていく……んだが、お前らは魔力がない世界からやってきた。
だからこそ、まずは魔力の存在そのものを体に認知させなきゃならねえ。
一番いいのはこの世界の住民と同じように、自然と魔力を感知できるまで待つ事だ。……が、」
そう言って、ネーロさんはこちらを見た。
慌てて俺は、そんなの待ってらんねーよみたいな感じの不満顔をしてみる。なってるかどうかは知らないけど。
俺の顔を見て、ネーロさんは、はぁ。とため息をついた。どうやら企みは成功したらしい。
ネーロさんに気付かれないように、小さくホッと息を吐いて気付く。
普段、ため息なんてつかれたら、何か相手に不快な気持ちになるようなこと言ったっけ……?と不安になるけれど、今はその真逆で、かなり安心した。
……何とも不思議な状況だ。
「さっさと覚えたそうな奴がいるから、今回はこの方法はとらない。次に女神様に祈るって方法もあるにはあるが……これは俺が気に食わないから、パスな」
「女神……様?に祈ったら、魔力が感知できるようになるんですか?」
おずおずと影井が尋ねる。確かに、自然に魔力を感知できるようになるまで待つよりも、祈るだけでいいなら、そっちの方がいい。
楽そうだし、時間短縮にも繋がる。
まあ、いくら効率が良くても、俺はやらないけど。
そりゃ効率的なのは魅力的だ。しかし、女神ってところがなあ……。女神への印象が悪くてあまり気が進まない。八束も同じ気持ちだと思う。
そんな偏見のない影井の目は、期待に満ちている……ようにも見えなくはない。
「そうだな。と言うか女神に頼めば基本的に何でも出来る……可能性がある」
「え、じゃあ、女神様に頼めば僕も強くなれるって事ですか?」
「女神様の気が向けばな」
「……え?気が向いたら?気が向いたらってどういう事なんですか?」
影井は訳が分からなかったのか、目を大きく瞬かせる。
「どういうこともなにも、そのままの意味だ。信仰深い神父が死にかけの子供を思い、どれだけ必死に願っても、子供は回復しなかった。しかしその隣で祈った、悪人の下種な願いはかなった。……どう考えても可笑しいだろう?」
ネーロさんは鼻で笑う。それは、何処にいるともしれない女神に向けられているように思えた。
「それって、どこかで聞いた話なんですか?」
「あー。まあ、そんなところだ」
あれ?なんだか、歯切れが悪い。何かあるのだろうか……?
口ぶりからしても、誰かに聞いた話、にしては感情が篭りすぎていた……気がしなくもない。
……もしかして、彼が経験した話だった、のかな……?
だとするなら、辻褄が合う。
彼は嘘をつくのが苦手そうだし、だからこそ歯切れが悪くなった……と。まったく同じ内容だとは限らないけど、似たようなことを経験した可能性は高い。うん。
彼自身が、ただ言い伝えを聞いただけで、女神をここまで嫌うように思えないってのも含めて。
まあ、間違ってるかもしれないけど、答えあわせをしようって気にはなれないかな。確かに気にはなるけど、それだけだ。
ただの好奇心で、人の過去を探る……なんてことはしたくない。それが嫌な過去で、本人が隠そうとしてるなら尚更。
そこまで知りたいことでもないしね。
と言うか、仲良くなれば、そのうち教えてくれるだろうし。
「それじゃあ、他の方法はどんなものなんですか?」
何かを思い出すように、黙り込んでしまったネーロさんをこちらを引き戻すように、八束が遠慮がちに手を上げながら、言う。
「最後の方法が、気合いだ」
「え?(は?)」
俺たちは、いきなり出てきた精神論に、思わず、揃って声を上げた。
「気合いと言っても、気合いだけで魔力を得る訳では無い。ただ、他の方法よりも、気合いが必要な方法だ、ということだな」
ネーロさんは不敵にニヤリ、と笑う。
え、なにそれ。そんなにやばい方法なのか……。
思わず、ひくり、と眉を動かしてしまう。隣を見てみると、影井なんかは、今から自らを襲いかかるであろう出来事を想像して、両手で自分の体を抱きしめていた。
対する八束は通常運転だったけれど、それでも少し、顔が引き攣っているのが分かる。俺じゃなきゃ気が付かなかったね。
二人の様子を見て、少し落ち着いた気がした。まあ、大丈夫だろう。二人もいることだし。
そもそもここでやめる、という選択肢がない以上はやるしかないのだ。
「それで、その方法というのは……?」
俺が尋ねると、誰かが、ゴクリ、と唾を飲み込む音が聞こえた気がした。影井か、八束か……いや、もしかしたら、自覚がなかっただけで、俺だったのかもしれない。
よく聞いてくれた、と言いたげな表情で頷くネーロさん。
「方法は簡単だ。純粋な魔力を体に浴び続ければいい」
魔力を浴びる……なんだか嫌な予感がしてきた。影井なんかは、あからさまにほっとした顔をしているが、そこで気を抜いていいとは到底思えない、俺の方が間違っているのだろうか?
「因みに、純粋な魔力……というのは?」
影井と違い、未だ顔を引き締めたまま、とりあえず、と言うように、ジャブのような質問をする八束。
三人中、二人が警戒を解いていないのだから、多分警戒を解かないのが普通なのだろう。
検証するのが、たったの三人だと、断定するには証拠不足だが、ここには三人しかいないし。
今すぐ結論が出したい、となると、今回の結果を信じるしかない。
つまり、俺の感覚はおかしくない、という事だ。
そもそも、影井と八束だと、ちょっと天然で、変なところがある影井よりも、しっかりしている八束のほうが、常識人枠だし。
そうなると心配なのが、影井だ。警戒心が弱すぎて、誰かになにかされそうで怖い。
ここは友人として、しっかりと彼のことを見守る必要がありそうだ。
「魔力というのは大概、体外に出る際、他の物に変換していることが多い。
例えば、火の玉ならそのまま、火に。回復魔法なら、癒しの力に。……と、言うようにな。
しかしそれらを幾ら受けても、魔力を感じることは出来ない。まあ、当然だわな。火の玉を当てられても火傷して、回復魔法を受けたら傷がなくなるだけだ。しかし、純粋な、ただの魔力を受ける。そうすれば、魔力のまの字も知らないお前らも、ちっとは、なにか感じられるだろう。ってこった」
「それって、上手くいった前例は、勿論あるんですよね?」
八束が胡散臭げな目をネーロさんに向ける。
教えてもらう立場なのに、その態度は、なかなか失礼な気がするが、確かに、確認の必要があることではある。ネーロさんの言っていた〝気合が必要〟の意味が、成功するかも分からない方法で訓練を行うこと。だとしたら目も当てられないからね……。実験台になる気はさらさらない。
「勿論、前例はある。どれだけ時間が掛かるかは、個人差だが、いつかは必ず、魔力を得ることが出来るようになる。それだけは断言しよう」
俺が、ほっと息を吐くと、じろり、と、ネーロさんに見られた。まだ話は終わっていないぞ、と言うかのように。なんとなく、八束のほうを見ると、飽きれた顔をされた。
あれ、これってもしかして、さっき、俺が影井に思ったこと、そのまま、八束が俺に対して思われてない?
少し力を込めて、八束を見る。
〝コイツのことは俺が面倒見てやらないとな……〟
うわ。やっぱ思われてた。てか、聞くんじゃなかった。凄い恥ずかしい。五歳児の少年が、生まれたばかりの弟に対してお兄さんぶってる……みたいな感じになってるじゃん。俺。あー、恥ずかしい。
思わず顔を覆ってしまったけれど、傍から見たら可笑しな奴に見えるな……。そっと、手を外すと、ネーロさんが見えた。どうも、不審には思われていないようだ。
そのまま、さも、目がかゆくて擦っていたかのように、手をもぞもぞと動かす。
……ふう。今後は軽率な行動をしないようにしよう。無闇矢鱈と人の心を覗かない。これ、本当大事。気を抜いて、ふと疑問を覚えると、すぐに能力が出しゃばってくるからなあ。気を抜いてなければ、そんなことはないのだけれど。
まだ、この能力になれていない所為か、すぐ気を抜いてしまうからなあ……。
小さい頃からこの能力があり、慣れていたらいたで、能力の性質的に、人間不信になってそうだけど。それに比べたら、今の方がいいか。
「しかし、魔力と言うのは人それぞれ……いや、それこそ、この世に存在する、ありとあらゆる魔力を持つもの、それぞれが違う、と言われているんだ。魔力の形に何一つとして同じ物はない……というのは有名な言葉だな。無論それに対する反論もあるが、俺は、この説を信じている」
「それは何故でしょう?」
間髪を入れずに質問をすると、ネーロさんは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに、満足そうに頷いた。
「そうじゃないと説明がつかないからだ。結論から言わせてもらうと、他人から純粋な魔力を与えられた者は、激痛を伴う。これは、合わない魔力を無理矢理、体内に取り込んだからだ、と俺は思っている。……とまあこの辺はどうでもいいか。何が言いたいかというと、魔力を流し込まれるのは、とんでもなく痛いって事だな」
「え?どれくらい痛いんですか?」




