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メイドさんと仲良くなりました

「「ふぅ」」

 二人同時にため息が出る。

 なんだかよく分からないが凄い緊張した。というかクラスメイトにすら嘘を吐く俺達って相当やばいんじゃないか……思ったものの、割としょっぱなから嘘つく気満々だったわ俺。いや、俺が悪いんじゃない。職業が悪いんだ。

 っていうか。八束に一つ物申したいことがあった。


「俺が何かすると不幸なことが起こるってなんだよ!」

「何って……別にいいだろ?納得してもらえたし」

「じゃあ聞くけど、不幸な鑑定士ってなんだよ」

「いやあ、それは……」

 目をこちらから逸らし、泳がせる八束。

 だがキッとこちらを睨む。

「俺別に設定考えるの得意でもなんでもないし。お前の方がそういうの得意なんじゃないのか?そもそも、自分の事だろ!自分で考えろよ!」

「設定考えるの得意でも大人数の所にいると、思考回路がショートするんだよ。っていうか?別に代わりに話して欲しいなんて一言も頼んでないし?」

「なんだと……!?お前が話すの嫌だと思ってわざわざ助けてやったのに、それをお前という奴は……!」

「それを余計なお世話って言うんだよ」


 はぁはぁ、と二人揃って肩で息をする。

 興奮して立ってしまったようだ。とりあえず座る。疲れた。


「まあ、まず、落ち着こう。過ぎてしまったものは仕方がない。変な設定つけて悪かったな」

「いや、こちらこそ、酷いことを言った。ごめん」

 互いに頭を下げる。

 くすり、と小さな笑い声が聞こえた。俺達ではない。

 ギギギと効果音が付きそうな程ゆっくり、ぎこちなく首を動かす。

 そこにはアンジェラさんがいた……。彼女の存在をすっかり忘れていた。


「失礼しました。つい……」


 しまった。聞かれていた。って言うかいるの忘れて普通に話してしまった。

 俺達は何を話した?

 すると、ゲームの過去ログのように今までの会話文が文字で現れた。便利だ……。


 これを読む限り、まだ俺の職業は鑑定士ではないとは言ってない。確実に明言してしまったことは、スキル、不幸が嘘、その嘘をクラスメイトについた、ということぐらいだ。これならまだ、彼女に嘘がついたことはばれていない……のか?笑ってるし……。嘘を吐かれてる、と気付いているなら、気付いた時点で何らかの反応を起こすなり、何か思い悩んだりするものではないだろうか。彼女の主である王様は、勇者の能力をある程度、把握しておきたい訳だし。


 アンジェラさんを窺うと、目が合った。ニコリと笑いかけられる。

 これは大丈夫そうだと目を離したら、次は八束と目が合う。八束は我が意を得たりと言いたげに深く何度も頷いている。

 本当に同じ考えなのか……?と心の中を読んでみるが、大体同じことを思っているようだった。

 疑ってすまん……。というかこれ、八束の心は覗かない方がいい気がしてきた。罪悪感酷いし……。心の中見るってことは信用してないってことになるんだろうし……。それは宜しくない。

 然し、然し、だ。どうしても、気になり読んでしまう。見ようと思うだけで簡単に見られるところがこの能力の悪いことなんだよな……とか言いつつ、情報を見るのに何らかの手段が必要なら必要で不便だ。とボヤいていたんだろうけど。


「それにしても、嘘だったんですね……職業」

 さらりと、アンジェラさんが言った。それこそ、たわいない世間話をするかのように。

 あまりにもあっさりと言われたので、一瞬理解ができなかった。

 数秒後、正常に動き出した思考でどう切り返すか考え始めるが言葉が見つからない。


「嘘ついてすいませんでした……」

 八束が謝った。俺は驚いて八束を見るが、目を閉じゆっくりと首を横に振る。誤魔化すのはやめようという意味だろう。

「ごめんなさい」

 ぺこりと俺も頭を下げる。


 こんな世界に来てしまい、便利な能力を得て、少し調子に乗ってしまったのかもしれない。なんでも自分の思い通りになる、と思い込んでいたのかもしれない。俺みたいな餓鬼の嘘なんて、すぐバレて大変なことになるだけだろうに……。


 王様には確実にバレてしまうだろう。それならまだいい。しかしそれだけではなく、クラスメイトにもバレてしまうかもしれない。そしたら嘘ついた分だけ悪い印象を持たれてしまう……。ああ、面倒臭い。初めから素直に言っておけば……いや、でも何回過去に戻ったところで俺はクラスメイトに対して職業を隠そうとしただろう。そこは自信を持っていえる。

 ならばこうなってしまうのも仕方が無い……のかもしれない。


「頭を上げてください。……別に怒ってませんから」

 と予想外にも穏やかな声が掛けられる。

 恐る恐る顔を上げてみると、ニコリと微笑んでいるアンジェラさんが目に映った。確かに怒っているようには見えない。

「それにお二人が嘘を吐くのも無理はないと思います。まだ出会ったばかりで私たちの間には信頼関係もありません。そんな相手に自分たちの情報を渡したくない気持ちは分かります」


 どうやら納得してくれているらしい。別に、そういう理由で嘘を吐いた訳ではないんだけど。

 でも、確かに自分の能力を安易に他の人に言うのは危機感が足りないよなあ。例え言ったのが、信頼出来る相手だったとしても、壁に耳あり障子に目ありなんて言葉があるくらいだ。誰に聞かれてるか分からない。もし敵に自分の能力を知られていたら……勝率は低くなってしまうだろう。


 言い訳をする訳では無いけども、こういう発想は今まで平和に生きてきた俺達ではあまり出てこないものだと思う。

 この世界は物騒だからそういう危機感を持たざるを得ないのだろう。

 これが、異世界ギャップ……?


「ですが、私は出来る限りお二人のお役に立ちたいと思っております。何か困ったことがあれば、ぜひ言ってください」

「じゃあさ、こいつが職業のことは誰にも言わないでって言ったら、本当に誰にも言わないわけ?」

「言いません」

 アンジェラさんは顔色ひとつ変えずに答えた。


「あれ、王様には言わなくていいんですか?」

「私が仕えているのは国王陛下ではなく、カシオカ様ですので」

「でも柏岡のメイドになれって言ったのは王様だろ?」

「いえ、違います」

 八束はん?と顰め面をし、アンジェラさんは視線を落とした。


「私は元々、ルイーザ様の侍女でした。身寄りのなかった私は彼女に拾われたのです。彼女のおかげでそれまでの厳しい暮らしは一変しました。

 今までろくに取れなかった食事はお腹いっぱい食べられるようになり、ボロボロな布切れ同然の服は、綺麗で可愛い服に、何も知らなかった私は、色々なことを教えてもらいました。

 それに何より、ルイーザ様は私のようなものにも優しくしてくれました。それがとても嬉しかった。


 だから私は彼女に恩返しがしたかったのです。ですが彼女は、『恩返し……ですか?そんな大層なことはしてないと思いますが……ですが、そうですね、私に感謝をしているなら、その分他の人に優しくしてあげてください』と仰いました。

 それではルイーザ様に対する恩返しにはならないのではないでしょうか?と尋ねると、

『アンジェラが優しくした人もアンジェラに優しくされた分、ほかの人に優しくする。そうやって優しさの輪が広がっていくと世界は平和になると思いませんか?』

 ちょっと夢物語かもしれないけれど、と言ってはにかみました。

 確かに、そう上手くは行くとは到底思えません。ですが、私もルイーザ様と共に平和な世界を目指してみたい、とも思ったのです。


 その後、ルイーザ様が、無理矢理召喚される勇者様について心を痛めている、と知って……気付いた時には専属メイドに立候補していました。

 そして、突然召喚され戸惑う勇者様方を見ていると、何故か昔の私と重なって見えたのです。

 ならば、私は勇者様方にとってのルイーザ様になれるかもしれない、そう思いました。だから出来る限りのことは協力はしたいんです」


 嘘は言ってないようだ。

 うーん、なるほど。姫様に助けられた人だったのか……。

 確かにあの姫様なら孤児とか拾ってそうだし、拾われたアンジェラさんがそういう思考になるのは理解出来る。

 これはアンジェラさんなりの歩み寄りなのだろう。これから俺達と信頼関係を結ぶ為の。

 ならば俺だってそれに応えたい。アンジェラさんはきっと信用できる人だ。大丈夫だろう。


「私の本当の職業は観察者、と言うんです」

 俺の言葉にアンジェラさんは目を見開き、考え込んだ。

「観察者……?聞いたことの無い職業ですね……」

 やはり、この世界でも珍しい職業のようだ。とりあえず、ミューさんから聞いた説明をそのまま伝える。


「なんでも見えるかわりに、世界に干渉できない、と……なかなか大変な能力ですね」

「だから、できるだけ隠したかったんです」

「人間疚しいことの一つや二つはありますからね。それを知られるかもしれない、と皆様がカシオカ様を避ける可能性は確かにあります」


「アンジェラさんは気持ち悪いと思わないのか?」

 真実を言ったからか、少し嬉しそうな顔のアンジェラさんを八束はじっと見た。

「何故でしょう?」

 心底不思議そうに八束を見返す。その様子に八束は少し言いにくそうに口ごもった。

「いや、ほら、覗きとか……?」

「覗き……?ああ、なるほど。特には」

 俺が覗きをしないと信用していると言うよりは、覗かれてもなんとも思わない、と言うような口ぶりで言う。これはどういうことだろう……?と思ったが、心は読まない。

 八束は拍子抜けしたように、あ、そう。ならいいんだけど……と呟いた。



「っていうか、八束はいつ帰るの?」

 ふと思い浮かんだ疑問。

 フォルちゃんがあちこち探し回ってるのが容易に想像出来る。可哀想に……。


「あー、それなんだけど、俺今日からここにお邪魔するわ」

「なにゆえ」

 衝撃の事実を述べられ、謎に昔の言葉になる。


「メイドから逃げる為だ」

「いや、それは分かるけど……どうやって説明するんだよ」

「アンジェラさんの弟子入りしたってことにしておこう」

 いいよな?とアンジェラさんに聞く八束。

「ええと、イマイチ状況が飲み込めないのですが……」

 戸惑ったように、視線を移動させるアンジェラさん。


「俺のメイドが求婚してくるんだけど、それから逃げたいから、アンジェラさんに弟子入りしたってことにしてくれない?丁度、俺の職業執事だし……」

「なるほど。分かりました」

「いや、ちょっと待ってよ、え?そんなことって許されるの?」

「大丈夫だと思いますよ。もっといい扱いをしろ、と言っている訳ではありませんから」

 えー……?まあ、王国側からしたら、使える部屋がひとつ増えるし、メイドも1人浮くからむしろいい事なのか……。

「いや、でもそうなると、フォルちゃんはどうなるんですか?」

「彼女は今まで通り、この城で働いてもらうことになりますね」

 あ、別に解雇される訳では無いのか。ならいいのか?同じ城にいる訳だから、アタックするのも簡単だろうし。うん、分からん。まあ、いいだろ。


「じゃあよろしくお願いします。アンジェラさん。いや、師匠!」

「無理して敬語を使わなくてもいいんですよ……。あと師匠はやめてください」

 メイドから逃げられて、ご機嫌な八束と、苦笑いをするアンジェラさんは固い握手を交わした。

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