お見舞いという名の討伐勧誘
先生と入れ替わりでアンジェラさんが入室してきた。
ああ、そうか。
先生がアンジェラさんをチラチラと気にしていたのは、この国の願いと逆のことを俺達に勧めていたからか。
そりゃ自分の国が危機なのに、この国を助けないで。お願い。みたいな話してたら嫌だよな。
まあ先生が、生徒達に戦闘させるのを嫌がってることは周知の事実だと思うけど。それでもその場に立ち会ってしまうと気分がいいとは言えないだろう。
そう思うと素直に退出したアンジェラさんはあまり国への忠誠心?が高くないのかもしれない。いや、高くないというか、勇者に問題を解決させることを良いことだと思っていない?
その辺はよく分からない。
対物に関する情報や状況なら、いつでも、いつの物でも、知ることが出来るが、人の心は今思っていることから遡らないと過去のものを知ることは出来ないらしい。
面倒……というか訳の分からないシステムだ。
あ、一つ思いついたことがある。
アンジェラさんが勇者……つまり俺の玉の輿を狙っている場合だ。それならば、その場に留まるよりも、退室した方が俺からの印象はいいだろう。
いや、でもこれ確認するわけにもいかないよな。違ってた場合が気まずすぎる。なんか自意識過剰みたいで嫌だし。
「先生大変そうだったなあ」
ボソリと、八束が呟く。
「神谷とか戦闘する気満々に見えたけどどうするんだろうね?」
「言って聞くようなタイプでもないしなあ。そもそも人を助けるのが目的で、悪いことやってる訳じゃねえし」
あー。分かる。
先生も訓練?が終わるまで、彼を説得するとは思うけど、結局は先生が譲歩する形になるんだろうな……。
俺はどっちの気持ちも分かるんだけど。どうにかならないのか。これ。
「もうこんな奴ら知るか!ってぶん投げられたら楽だったろうにね」
「人格変わらない限り無理だろう」
「うーん。確かに」
ぶん投げるのは、谷上先生っぽくないもんな。そうすれば楽だろうに、と思う反面、生徒の事には一生懸命であってほしいと思う俺もいる訳で……。
なーんか、どこか上から目線っぽいけど。外からやいのやいの言うのは簡単なんだけど。
八束はもはや砂糖なのかお茶なのか分からなくなった物体を口に運ぶ。
「つまり、これ以上先生の負担を増やさない為にも、俺達は大人しくしておくのが得策ということだな」
「……というのは建前で、本音は危ないことしたくないだけのくせに」
「それはそうだが、お前の能力?枷?がどういうものなのか分かるまでは、目立つ……世界に関与?しそうなことは避けるべきなんじゃないか?」
と肩を竦める。
こいつ……もしかして本当は、戦闘とかしたいのか?それを俺を気遣って……と思ったが、違うようだ。
心の中に思いっきり〝帰還方法探すならまだしも、この世界の人たちを救うのに戦闘とか面倒すぎる。やってられっか〟と書いてある。
こいつ、俺をダシに使うつもりだな。
若干冷めた目を八束に向けると、彼は慌てた様子で言う。
「先生に心配は掛けないし、世界に関与することは極力避けられるし、危険なことをせずに済む」
指を1本ずつ立て、最終的に三本指になる。
「これって一石二鳥所か、三鳥ぐらい撃ち落とせてるんじゃね?」
ニヤリ、と八束は笑った。
一石三鳥ってどう石が当たったら撃ち落とせるのかと疑問に思うが、確かにそうだ。
別に何もしない言い訳をしている訳では無いぞ、決して。働き蟻の法則は有名だが、あれだって働いてない蟻の存在も必要不可欠なんだからな。
フリーライダー?あーあー、聞こえない聞こえない。
コンコン。
本日3度目のノック音だ。
「どんだけ人来るんだよ、この部屋」
「そういうお前も訪問者だけどな」
俺はブーメランが突き刺さる八束に呆れながらも、じっと壁の奥を見てみる。
「噂をすれば、って奴かな。神谷達が来てるみたい」
「はぁ?何でだ?」
「大方倒れた俺を気にして、ってことじゃないかな?知らないけど」
ふーんと八束は興味無さそうにドアの方を見る。じっと何かを考え込んだ後、真剣な顔で呟いた。
「居留守使うか?」
「いやなんでだよ、普通に出るよ」
「……そうか」
八束は何かを言いたそうな顔をしたが、黙り込んだ。どうやら八束はあまり神谷のことが好きではないらしい。
ドアを開ける。
「やあ、こんにちは。調子はどうだい?」
ズカズカと入室してくる神谷。その後ろには三芳、白井さん、中禅寺さん……ルイーザ姫までいる。
ルイーザ姫まで来てくれたのか、嬉しいと思う反面、そんなに彼らと仲良くないからさっさと帰って欲しいとも。
いや、お見舞いに来てもらって酷いとは思うけどね。
けれども、そこまで仲が良くない人と一緒にいるのは疲れるのだ。
「まあ、そこそこ、かな」
曖昧な笑顔を浮かべておく。
計8人がこの部屋にいるわけだけど、狭いと感じることは無かった。まだまだスペースには余裕がある。
とりあえず、五人に座ってもらう。椅子が足りないな……と思ったらアンジェラさんが持ってきてくれた。
流石、できるメイドは違う。
カチャカチャと訪問人数分のお茶を用意し始めるアンジェラさん。
「部屋にいないと思ったら、八束くんもここに居たんだね」
「あー、もしかして俺の部屋行ったのか。それは、悪かったな」
かってないほどニコニコとしている八束。これは完全に作り笑いだ。
それに気付かない神谷は気にしないで、と笑った。こちらは心からの笑みだ。爽やかな笑い。流石イケメン。
白井さんは恐る恐るお茶を飲み、隣に座る中禅寺さんにねぇねぇ、これ美味しいよ。と話しかけている。
三芳はキョロキョロと辺りを見回しており、姫様はアンジェラさんの方をじっと見つめていた。
何この状況……。
とりあえず落ち着く為にも、飲み残っていたお茶を飲む。うん、美味しい。
「ところで、なんでここに来たんだ?」
八束が切り込んでくれた。助かった八束。ナイス八束。
「何故って……、柏岡くんのお見舞いに」
白井さんが、それ以外に何かあるの?というような表情をした。
「それ以外になにか目的があるんだろ?」
八束の言葉にえ?と首を傾げるルイーザ姫と白井さん。
え?お見舞い以外に目的があったのか……分からなかった。そしてこの二人は把握していなかった、と。
「分かってんなら話が早ぇ」
三芳がニヤリと笑う。八束や神谷程ではないが、イケメンなので、その顔がまた似合う。なんて言うんだろう?こう、ワイルド系イケメン?多分。
「君達に聞きたいことがあるんだ」
口を真一文字に結んでいた神谷は覚悟を決めたように口を開いた。
「世界を救う気はあるかい?」
「ない」
即答した。八束が。
いや、まあ俺達は魔物討伐しないって決めたばかりだから、断るのはいいんだけど。話ぐらいは聞いた方が良かったのでは……?
然し、話したかったこと、というのはこの事か……。じゃあこれから始まるのは熱心な勧誘かな?どれだけ誘われても魔物討伐はしないけど。
「この世界の人々が、苦しんでるんだよ?それを放置しておいて、本当にいいと思うのかい?」
即答され、しばらく唖然としていた神谷だが、いつの間にか立ち直ったのか語りかけるように話す。
「そ、そうね。困っている人がいたら助けるのが大切だと思う」
白井さんも重ねるように言う。
「心配しなくても大丈夫だ。危険がないように俺達が助けてやるし」
三芳がぐっと拳を握り締めた。
中禅寺さんの表情は読めないが、いつもよりは柔らかいように見える。
そんな四人を見て、ルイーザ姫は肩を震わせた。
「あー、盛り上がってるところ悪いが、俺達戦闘スキル持ってないんだ」
この一言であたりは静まりかえった。
「それは確かに討伐には参加しない方がいいわね……」
中禅寺さんがぽつりと呟く。
「いや、皆で協力し、助け合えばきっと……!」
「それに、こいつ、妙なスキル持ってるんだよな……」
力説しようとする神谷を遮るように八束は俺を指さす。
まさか、あのスキルのこと言うのか?あのスキルのことを言うってことは、つまりは俺の職業に関しても説明することになる訳で、神谷たちは本当に信頼できるのか……?と思ったが八束は安心しろと言うようにニカッと笑う。
八束がこう笑うってことは任せておけば大丈夫なんだろう。知らず知らず入っていた肩の力を抜く。
「妙なスキル……とは?」
誰かが、ゴクリと息を飲んだ音が聞こえた気がした。
「柏岡が何かをしようとすると必ず不幸なことが起こる」
「「「「え?」」」」
「え?」
思わず、驚いた声が漏れてしまった。皆から不審そうな顔で見られた為、慌てて曖昧な笑みを浮かべておく。
なんだその呪いみたいなのは。いや、でも本当にスキル〝不幸〟というのがあるらしい。
でもなんかもうちょっといいのあっただろう……と思わなくはない。
場が混乱している中、またも八束が言葉を重ねる。
「ほら、鑑定石使って能力調べてるときも、柏岡、倒れただろ?あれはスキルの所為だったんだ」
なんだってー!?衝撃の事実だった。
しかし、周囲はそれで納得しているようで、なるほど……などという声が聞こえてくる。……本当にそれで納得していいのか?
「そういうことなら、仕方がないね。なんというか、辛いこと掘り出したみたいでごめんね……」
なんか謝られた。
別に本当の事ではないし、仮に本当にそんなスキルを待っていたとしても、聞かれたぐらいでは何とも思わないんじゃないかなあ。親族の亡くなった話でもあるまいし。つまり謝られても、ピンとこない。
そんな事は言えないので、適当に、曖昧に、微笑んでおく。
ずっと神谷といるとこの笑いが顔に張り付いてしまうのではないか、という不安が過った。
まあ、神谷とずっといることはないだろう。俺よりも八束が持たないと思う。終始作り笑いだったし。
「じゃあ、俺達はこれで……」
神谷ほそういって部屋を出た。じゃあなと三芳が片手を上げ、白井さんがにこりと微笑み手を振る。中禅寺さんはぺこりと一礼した。
最後に姫が……。
「いろいろと申し訳ありませんでした」
と深くお辞儀をして、退出する。その様子をアンジェラさんは驚いたように見ていた。




