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メイドちゃんとの出会い

「いや、話ぐらい聞いてくれよ」

 非難するように見られたが俺は悪くないので、奴を睨む。

「お前が話をすっ飛ばしたんじゃないか」

 ぐ、と喉を詰まらせた八束は、まあ確かに……と引き下がった。いや、でも面白さとインパクトは大事だと思うんだよね……とかなんとか言っているが、無視だ。無視。


「俺の能力、ご主人様を設定すると出来ることが増える……らしいんだよな」

「例えば……?」

「ミューさん曰く、ご主人様のできない分野の補完……だとか」

「それ、デメリットとかは?」

「不明」

 それは面倒だな……。然しこいつ俺で実験する気なのか。いやさっき確かに、こいつの為に多少の無理はしてやるか。とは思ったよ?思ったけども、これはちょっと……。

 一生八束からご主人様呼びされる、とかだったらどうすんだよ。もしそうなったら全身から麻疹が出そうだ。


「そうだ。俺じゃなくてロリメイドちゃんで実験してみればいいんじゃないかな?」

「拒否権を行使します」

 八束の顔から表情という表情が消え去った。普段ほとんど無表情になることが無い八束が能面のようになる様は面白い。能面だけに。

 ……はい。


「いや、というか、その辺お前のスキルで調べればいいんじゃね?」

 ……あ。なるほど。それは思いつかなかった。急にご主人様になれと言われて動揺し、頭が回らなかったのかもしれない。きっとそうだ。そうに違いない。

 ということで、早速、八束の能力を見させてもらう。


 スキル、契約

 主人を登録することによって主人を補佐するのに相応しいスキルを得られる。登録には相手の了承が必要。

 増えたスキルは例外を除いて主人から離れると使用できない。途中で主人を変更することは出来ない。主人が死んだ場合のみ新たに主人を登録することが出来る。


 だそうだ。そのまんまの名前だなあ。

 もしロリメイドと契約していたら、一生彼女が主人になってしまうということだ。危ない危ない。

 とりあえず、見たものをそのまま八束に伝える。


「特にデメリットはなさそうだな。増えたスキルは離れたら使えないらしいが、登録しなかったらそもそもスキルは増えないわけだし、登録するだけお得なんじゃないか?」

「……多分。主人の命令は絶対とか、主人は敬わなければならない、とかも書いてないから」

「俺は別にお前を登録するなら、そういうシステムでも問題なかったけどな」

 人に、命令とかできないタイプだしなお前、と椅子の背もたれにもたれかかる。

 いや、確かにそうだけど、俺が嫌なんだよ。俺が。


「つーかあれ。お前の言うのって執事ってより奴隷の条件なんじゃないか?」

 八束に言われるがピンとこない。

「そうかな?執事とかって主人の身代わりになって死んでるイメージ強いけど」

「どんなイメージだよ……偏りすぎなんじゃね……?」

 椅子の後ろ脚に体重をかけ、前足を浮かせている。……危ないぞ。椅子から落ちても知らないからな。


「俺の中では、執事とかはある程度の自由が認められてる感じ。その分、大変そうっていうか……。命令されなくてもやってくれるとかそういう……?」

 なるほど。主体性があるかどうかみたいな話だろうか?

「奴隷と違って執事にはやめる権利とかもあるだろうし。俺にはないらしいけど」

 ガタン。

 どうやら、椅子を着地させたようだ。


「なるほど……。執事は一種の仕事だから、強制させるような力は働かない、と。ならいいんじゃないか?登録してみれば。というかどういうシステムなの?それ」

 と言うと、目の前に文字が表れたが読むより聞く方が早いだろう。無視無視。


「あー、意識してみると、目の前に主人を入力してくださいって文と空欄が表れる。その空欄を意識すると、出会った人の一覧が出てきて……って感じ」


 つまり、出会った人じゃないと主人には設定できないということか。

 と言うか、視界の中に文字が現れた時から思っていたけれど、なんとなくゲームっぽい。

 魔法があるのもそうだけど、なんというか、システマチックというか……。

 自分の天職がひとつに決まってる辺りとかがまさにそうだ。

 現実世界なら向いている職業は1つではないだろうし、向いている仕事に就けるとは限らない。白黒ハッキリしている、と言うか……なんて言えばいいんだろうな、これ。

 ともかく元いた世界とは全く違うということを再認識させられた。


「おけ、登録無事完了しました。ご主人様」

 立ち上がり、手を胸に当て、お辞儀をする様は確かに八束に似合っていたが、服装は学ランである。そこだけが惜しい。……というか。

「その態度やめて。凄い違和感だから。鳥肌立つ」

「ちぇ。つまんねーの」

 八束は、椅子に座り込み、足をばたつかせた。


 トントン。

 突如、部屋がノックされる。

「あの、すいません……」

 とても幼い、可愛らしい女の子の声がした。その瞬間、八束の動きはピタリと固まる。

 もしかして……いや、もしかしなくても噂のロリメイドが扉の向こうにいるらしい。

 八束の方をちらりと見ると、凄い必死な目で見てきた。

 何か言いたそうだ。

 〝おい、聞こえてるか?おーい。聞こえてたら、頷いてくれ〟

 俺はコクリと頷く。すると八束は満足そうに頷いた。

 〝やっぱり、これで伝わるのか……スゲーな……〟

 コンコン。

 更に催促するようにノックの音が鳴り響く。

 ビクリと肩を震わせる八束。

 〝うわ、とりあえず、俺はベッドの下にでも隠れておくから、適当に誤魔化しといてくれ。頼んだぞ!〟

 早口でそう言う……いや、思う?とそろりそろり、と物音一つ立てず、ベッドの下に潜り込んでしまった。見事な忍び足だ。どうやらこれもスキルの効果らしい。どんだけ切羽詰まってるんだよ。

「あの……いませんか?」

 不安そうな声が聞こえた。

「あ、はい、どうぞ」

「失礼します」

 と入室してきたのは小学校高学年くらいの子供だ。銀色の髪を二つにまとめツインテールにしている。瞳は青色。服装は勿論メイド服。結構……いやかなり可愛い子ではないか。この子に言い寄られているのか……。うらやまし、いや、だがしかし子供である。

「何か用ですか?」

 態とベッドからは起き上がらずに、疲れてますよアピールを試みる。

 あ、この人、倒れちゃった人だ。反応が遅かったのは寝てたからかも。疲れてるのかな……。だとしたら、申し訳ない……。

 とか思っているらしいから、俺の企みは成功したのだろう。

 ウィナー、俺。


 暫くの間、俺に事情を話すか、このまま大人しく帰るか迷った後、ゆっくりと口を開いた。

「あの、ヤツカ様を見かけませんでしたか?」

「八束?見てないですけど」

「そうですか……」

 しょんぼりと肩を落とすメイドちゃんに、ちょっとだけ罪悪感が湧いてくる。でもここに来たのは八束がいると分かっているからではなく、偶然らしいと分かりホッとする。

 いや?可笑しいぞ。八束がこの子に見つかっても俺には何のデメリットもない。ただ八束が可哀想だから、匿ってやっているだけの話だ。だから特に焦る必要もない。


「けどなんで八束を探してるんですか?」

「私がヤツカ様の専属メイドなので」

 にっこりと両手を前に揃えている。その笑顔は、セリフも合わせて営業用のもの見えた。警戒されてるのかな?


「別に専属メイドだからと言って傍にいないといけない訳でもないでしょう?実際、ここに私のメイドもいないわけですし?」

 にっこり微笑むことで、こちらも警戒しておりますよと、アピールしてみる。

 メイドちゃんはむ。と渋い顔になった。

 今度はきちんと話して誠意を見せるべきなのか、適当にはぐらかして会話を止めるべきなのか悩んでいるようだ。

 その心中は恥ずかしさ半分、警戒心半分といったところらしい。

 八束にはぐいぐい行ってるらしいし、割とオープンな子だと思ったんだけど違うのか……。というか俺警戒されすぎなんじゃないか?八束だって彼女と長い間過ごしたわけではない筈。

 然し八束は惚れられていて、俺は警戒されている。この違いはなんだ?顔か?顔なのか?


 メイドちゃんは暫く悩んでいたようだったが、やがて決意したようにこちらをじっと見つめた。

「じ、実は、私、ヤツカ様のことが好きなんです。ですから、出来るだけ御傍に居たいなと……」

 もじもじと人差し指を突き合わせ言う。最後の方なんて消え入りそうな声になっていた。目には涙が溜まっている。

 あれ?これ傍から見たら俺がイジメてるみたいじゃない?

 大人げないという文字が浮かぶが、慌てて頭から追い払う。


「そうなんですか。因みに彼のどこが好きなんですか?よければ教えてください」

 まだ少し警戒していますよー。というような顔をしてみる。どんな顔かわかんないけど。こういうのは雰囲気なのだ。雰囲気。


「えっと、一目見たときから、いいなあ、って思ったんです」

 一目ぼれか。嘘はついてなさそうだ。

 少し補足すると彼女は貧乏な出自らしい。メイドとしての才能があった彼女は、家族からも期待されていた。そんな中、勇者専用のメイドとして選ばれた。

 勇者のメイドというのはあわよくば勇者のお手付きになるのを狙っているし、周りからもそれを期待されているのだとか。

 けれど、まだ幼い彼女は恋愛をしてみたかった。まだ、知りもしない相手と結ばれるなんて嫌だった。

 きっと、勇者なんてブスでデブで気持ち悪い奴なんだ!

 そんな反抗心を持ったまま八束と出会ったわけだが、現れたのはイケメン。その想像とのギャップにやられたらしい。

 結果、勇者となんか絶対に付き合わないと思っていた彼女から勇者に纏わりついているのは何とも皮肉なものだ。


 俺は彼女に笑いかけた。

「素敵ですね。良いと思いますよ。そういうの。分かりました。八束がここに来たら、すぐに貴方に教えます」

 そういうと、メイドちゃんはほんわりと砂糖が溶けたような笑顔を見せた。

「ありがとうございます!では、八束様がいらっしゃったらこのベルを鳴らしてください。あ、えっと、申し遅れました。私はフォル・ルトゥナートです。よろしくお願いします」

 慌ててベルを取り出したかと思うと、ぺこりとお辞儀をした。慌ただしい。


「私は柏岡孝輔です」

 渡されたベルを受け取り、机の上に置いておく。

「カシオカ様ですね」

 うんうんと満足そうに頷いていたが、はっと何かを思い出したかのような顔をする。

「では私はヤツカ様を探しに行かなければならないので、これで。失礼しました」

 そう言って、フォルちゃんは去っていった。

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