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気分屋図書館~汝はメイカイなきなりや~

作者: 夢喰 雪

冥界堂。

通称、気分屋図書館"迷怪"堂

呼び名は同じメイカイだが本当の冥界堂と漢字が違っている。

それはなぜか?

さて、何でしょうね。

さぁ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。

堂々巡りの鬼ごっこ。

今宵は絵巻の第一章。

さあ、お手を拝借。

--ねぇ、あの噂、知ってる?--

--あ、恋が必ず叶うって言う占いでしょ?あんなの胡散臭いよー。--

--それが、3年生の〇〇先輩その占いで好きだった先輩と付き合えたらしいよ。--

--嘘!私も試してみようかなー。--







肺が痛い。

脚が限界で縺れそうになるのを必死で堪える。

やるんじゃなかった!

後悔が次々に頭の中を行き来している。

"縫いぐるみから逃げ切ると恋が叶う"

小耳に挟んだ噂。

まず一ヶ月肌に話さずもっていた縫いぐるみの詰め物を全て出して代わりに米と相手の体の一部を入れて赤い糸で縫い合わせる。

ある程度余った糸は、自分の小指の爪をぬいぐるみにある程度巻きつけて「貴方は私と結ばれる」と言いながら結ぶ。

隠れ場所を決めておき、そこに塩水を用意しておく。

逢魔が刻(四時~五時)になったらぬいぐるみに対して「最初の鬼は○○だから」と3回言い、浴室に行き、水を張った風呂桶にぬいぐるみを入れて、照明を全て消しテレビを砂嵐の画面にして、目を瞑って10秒数える。

小さい矢を持ってそこに行き、「△△見つけた」と言って心臓部分に刺す。「次は△△が鬼だから」と言い、自分は塩水のある隠れ場所に隠れる。

最後に塩水を縫いぐるみにかければ終了。

と言うことだった、はず!


"グシャ"

"グシャ"


何で追いかけて来てるの?!

大きさに見合わない包丁を引摺り、私を追いかけてきていた。

包丁の擦れる音と水を含んだモノの中が漏れる音。


「あっ!」


もう体も限界だったようだった。

足は悲鳴をあげて力尽きた。

支えきれなくなった体は連鎖するように崩れ落ちる。

縫いぐるみはそれを見逃してくれなかったようで首めがけ包丁を振りかざしてきた。


「っひゃぁ!」


咄嗟に左に転がった。

さっき居たところに包丁の刃先がグッサリと突き刺さった。

白くふわふわで可愛い熊の縫いぐるみがこっちをゆっくり向く。

胸辺りの赤い糸が何とも痛々しい。

黒い目が私を捉え、口は何時もと何も変わらないはずなのにいつもより笑顔のような気がする。

ふわふわの手が包丁を素早く引き抜く。

何かに押されるように横に倒れ込む。

今度は壁に垂直に突き刺さっていた。

恐怖に慄き、弾かれ、また走り出す。

だれか!

誰か!

階段を降りようとしたとき横の扉が 空いているのに気がついた。

ここしかない!

其処に転がり込み、震える手で鍵を締めた。

真っ暗のこの空間。

それが異様な光景のように思えてならなかった。


"ガツン"

"ガンガンッ"


何かにぶつかる音が何回も聞こえていた。

良かった、ここまでは入ってこれないのか。

そう思うと、力が抜けいつの間にか眠りに着いてしまった。












目を覚ますと、白い天上が見えた。

重い体を持ち上げて回りを見渡す。

本。

本、本、本。

本棚にぎっしり詰め込まれた本はとても古そうなものだった。

一つを手に取ろうとしたとき、扉が開く音がした。

本を落とし、机の下に隠れた。

あの縫いぐるみが出たらどうしよう!

この状況で勝てる自信はない。

運よく此処に入ってこれただけ。

この運がこの悪夢が終わるまでもってくれるとは限らない。

足音が近付いてくる。

縫いぐるみが足元に立っていた。


「いやぁ!」


頭を打って踞る余裕もなく、直ぐに机からでる。

這い出して、逃げようとしたとき冷たくて柔らかい感触が。


「っやだっ!」


直ぐ様、ソレを手で払いのけた。

走って奥まで逃げ込む。

さっきの痛みが遅れてきたのも合間り、隅で踞ってると、人の声が聞こえた。


「あー、あのごめん。そんなに驚かせる気は、なかっ、たんだよね?」


黄色がかった茶髪のボブ。

髪よりも少し黒がかった目。

黒色のパーカーに対称の白いエプロン。

何より、その人の手にはさっき私が見たピンク色の可愛い兎の縫いぐるみが握られていた。

若しかしてさっき払ったものって!


「っごめんなさい!」

「えっ、あ、いいよ。私の方こそ、都合とか、知らないで、君が一番怖いものを、いきなり、ね。」


悪そうに頭を掻きながら、徐々に右に視線を反らす。

その人がいきなりつんのめる。

その人の頭がその位置からずれたことで、もう一人の人間も確認することができた。

黒くて長い髪。

それを一つに結っていて、髪の色にも負けない黒い目。

紺色のパーカーに黒いサルエルパンツ。

さっきの人と対称の黒いエプロンをかけていた。


「本当だよ。何でもうちょっと回りを確認しないわけ。」

「だって、縫いぐるみに追いかけられてるなんて思いもしないじゃん。」

「えっ、何で、知ってるんです?私が縫いぐるみに追いかけられてること。」


そう言うと、さっきの人は口ごもった。

視線を泳がせて、何か理由を探しているように。

何か隠してる。


「何か不味いことでも、あったんですか?」


人様の事情に口出ししないようには言われていたが、こんなあからさまにたじろかれては。

それも私の今置かれている状況を知ってるみたいだし。

何者なんだ、この人達?

溜め息が聞こえた。

そちらに視線を向けると、さっきのボブの人が頭を擦りながら頭を上げる。


「御免ねー。この子隠し事が苦手でさ、私達此処の図書館の番をやってるんだけど本を物置きに取りに来たらそこに君がいたの。

で、風邪引くからって此処の図書館に連れて行く途中、包丁持った小さい縫いぐるみに追いかけられたって訳。

この子には呉々も内緒にしとこうって言ったんだけどねー。」


ジトーッと話ながら黒髪の女の人を見る。

さっきの威勢はどんどん消えていき、「御免、ごめん。」と苦笑を浮かべた。


「んで、君は何であの縫いぐるみに追いかけられてた訳?ちょっと聞かせてもらっていい?貴方が良ければだけど・・・」


さっきの罪悪感もあり、ぽつり、ぽつり、と詰まりながらも話した。

二人は「あー。」と声を漏らす。


「んー、面倒なことになったねー。」

「えっ!」

「あのね、その遊びはしちゃいけない遊びなんだ。」

「そうなんですか?!」

「そうだよ、多分それの元になったものは【ひとりかくれんぼ】って言う都市伝説なんだ。それが何らかの理由で変化して一人歩きして、尾びれ手ビレがついて君の言う【恋貰い】って言う占いになっちゃったんだね。」

「人の噂と言うものは都市伝説にとっては良い餌。それをやった人間の思いとかを力にしてどんどん力を蓄えていく。」

「このまま放って置けば犠牲者が出るかもねー。」

「それって、」

「よくて行方不明、悪くて餌、まあ、食べられちゃうね。」

「そんな!どうしたら良いんですか!」


ボブの人の肩を思いっきり揺らす。

そんな、そんなのは絶対駄目!

私の性で見殺しにすることになっちゃう!

そんな私に黒髪の女の人は私の肩に手を置く。


「大丈夫だよ。逢弥には何か手があるみたいだから。」

「ほんと・・・ですか?」

「言ったでしょ?汰桜は嘘や隠し事ができないって。」


逢弥さんは私にウインクをした。

パーカーを掴んでいた手が滑り落ちる。

それを受け止めてくれた。

良かった。

救える。












汰桜、逢弥さんに連れられて来たのは真ん中に四つにくっ付けられた机と割り箸の三脚、漆塗りのお盆だった。


「今から何するんですか?」

「目には目を。歯には歯を。降霊術には降霊術を。と言うことで今からこっくりさんをします。」

「そういう風には見えないんですけど・・・」


だって、こっくりさんって五十音と、鳥居の横にはい、いいえって書いてある紙を用意して10円玉動かす奴じゃなかったっけ?


「ああ、やっぱりか。でもこれが昔からあるやり方であれは後から出来たモノ。こっちの方が霊を下ろしてきやすいんだよ。」

「声に、出てましたか?」

「う、うん。」

「ほら、さっさとやっちゃお!」

「そうだね。」


不機嫌そうに促す逢弥さん。

汰桜さんは苦笑いで説明してくれた。


「こっくりさんって、狐、狸、狗の霊が降りてくるのは知ってるよね?」

「はい。それがどうかされたんですか?」

「逢弥、狸の長、つまり刑部狸と仲が悪いんだよ。」

「え、人なのに仲が良いとか悪いとかあるんですか?」

「ああ、その事だったら」

「はい、ストップ。そこまで。早くしないとあの縫いぐるみが来ちゃうよ!」


その言葉に全身が冷たくなった。

咄嗟に後ろを向くが誰もいなかった。

ほっと胸を撫で下ろし逢弥さんの元に向かう。

三脚に置かれたお盆に手を乗せ言う。


「こっくりさん、こっくりさん、お出で下さい。お出でくださいましたら私の前の脚をお上げください。」


お盆が少し揺れ、見ると逢弥さんにの前にある脚が浮いていた。

小さく悲鳴を上げると汰桜さんが口を塞がれ首を振った。

生唾を飲んでお盆に集中する。


「こっくりさん、こっくりさん、お盆の上にお出でくださいましたら、姿を現しください。」


途端、お盆が急にガタガタと暴れだす。

目を見張って、体が固まってしまった。

顔を生暖かい風が顔を撫でる。

ふと、二人が微笑んだ。


「久しぶり稲荷様。一寸助けて欲しいんだけど。え、報酬?んー、じゃあ、今回の事件が終わったらで良い?あ、この子だよ、助けて欲しいの。・・・分かったよ。」


そう言うとお盆の上に置いた手を下ろし私の後ろに立つ。

手を離して大丈夫かなとか。

呪われる!

とか、考えている間に視界が暗くなる。

汰桜さんの話し声が耳に届く。

後ろにいるだろう逢弥さんに話しかけようと少し動くと、じっとしてと言われてしまった。

指の隙間から光が漏れてきた。

逢弥さんにもういいよ、と言われ、手が外される。

眩しくって前が見えなかったが、調節が追い付いた頃、目の前にはお盆の上に黄金に光輝き、首に紅白のしめ縄を巻いた九尾の狐が座っていた。


『子娘、また面倒なものを呼び出してきよったな。』


威厳と言うか神格と言うかそう言うものに押され、黙っていることしか出来ずにいると、汰桜さんが助け船を出してくれた。


「稲荷様、それはどう言うことでしょうか?」

『この子娘、少し厄介な物を呼び出してしよったのだ。下級霊ならともかく上級に近い中級霊を呼び出した。これじゃあ今のお主らに解決できるような物でもないのぉ。天狐、覚、お主ら一回戻ってこい。このままじゃと。』

「あの人に使えていたときに乱用しちゃったからね。うん、これが終わったら一緒に連れてって。」

「え、どう言うことです?若しかして、逢弥さん達って。」

「お察しの通り。だから刑部狸と仲悪いのも頷けるでしょ?まあ、嫌いなのは私だけだけど。」

『与太話は後にせんか。さぁ、呼ぶぞ。子娘、全てはお前の手にかかっておる。あの悪鬼を連れてくる。儂が押さえている間に核を魔物封じの剣で刺せ。お前が全てを終わらせろ。』


そう言って、小刀を渡された。

嫌とは言わせない。

そう言われたような気がした。


『それでは、ゆくぞ!』


辺りに突風が吹き荒れる。

飛ばされないように床を掴む。

体がふわりと浮く。

それは徐々に静まり、稲荷様に咥えれらた縫いぐるみが苦しそうに、逃れようと口を押していた。

それを放る。

それは宙に舞い、私の座っている前に着地する。

縫いぐるみが私を捉えたとき、血相変えて喉元に襲いかかってきた。

空気が一気に逃げた。

必死に外そうとするが予想以上に強い力で押さえ込まれる。

右手でもっていた小刀を首の上に持っていき震える刀を左でしっかりと掴んだ。

でも、まだ震えてしまう。

縫いぐるみは元彼から貰った大事なもの。

もう一度寄りを戻せることを願って敢えてこれを選んだ。

彼との思いでが頭をよぎる。

これでも刺せるのかと言われているみたいだった。

でも、もういいよ。

こんな事してももうあの人との寄りは戻らない。

だったらせめて未練だったこの縫いぐるみを壊してしまおう。

話を聞いたとき、薄々気づいていたのだと思う。


"私の思いがこんな悪魔を呼んでしまった。"


ならせめて私が片をつける。

それが私としての一つのケジメとなるだろうから。

さようなら、_____


喉元にいる縫いぐるみをめがけ小刀を突き刺した。

劈く悲鳴と共に鍔の紐が赤く染まって結ばれる。


全てが終った。












「あの、助けて頂いて有り難うございます。なにかお礼をしたいんですが。」


そう言ってがさごそとバッグの中身を漁る。

何か無いかな。


「ああ、いいよ。もう貰う手筈は出来たから。」

「え、母が?」

「違うよ。君からだよ。」

「え、私いつ!」

「知らぬが仏。そう言うものだよ。この教室を出れば何時もの日常に戻れる。いってらしゃい。」

「また、会えますか?」

「会えるよ、何時もあそこにいけば必ず。」

「また、来てね?」

「は、はい!」


とても良い経験をしたと思う。

怖くて、冷たくてでも何処か暖かい日だった。

そうだ、今日あった経験も含めて皆に話してあげよ!

皆喜ぶだろうな。

教室に出る前に一礼をする。

二人は手を振ってくれた。




「あれ、私いつの間に?」


何の夢を見ていたか覚えてない。

何か忘れたくないような夢だった。

心の中がかき混ぜられた感じがする。

すごくスッキリしない目覚めだった。

下で母が私の名前を呼んでいる。

立とうとしたとき、何かが綺麗な音をたて落ちた。

拾ってみると紅葉をイメージした鈴だった。

こんなもの、持ってたっけ?

・・・あ、そう言えば修学旅行のお土産で買ったんだった。

何でバッグにつけてた筈なのにこんな所に?

まあいいや。元に戻しとこ。

バッグにつけ終えた後急いで下に降りた。

赤い夕焼けの火を消すように、でも消しきれずにただ降り続く雨は何かを訴えているようだった。












「あの鈴、渡したんだ。」

「だって、あの子が持っとくべきじゃない、あの鈴。」

「元御前の持ち物をあげちゃうなんて。それにあれは、」

「良いんだよ、これで。あの子もけじめをつけたんだ。私もうじうじしてらんないよ。あれは私としてのけじめ。」

『お主また妖力を使いよって。消すだけで良かったものを。』

「いいのいいの。それにあっちに戻ったら直に妖力も元に戻るんだし。」

『はぁ、お前は・・・刑部狸に突き出すぞ!』

「死んでもやだ!あいつ私に何かと突っかかってくるんだもん!」

『はは、良いではないか、刑部もお主をおちょくるのが楽しんだろうよ。まあ、付き合ってやれ。』

「いいよね、稲荷様は仲が良いから。」

『それは、お主らも一緒であろう?そあ、もたもたもしてられん、何しろ儂も暇ではないからの。』


二人が背中に乗ると、鈴が鳴る。

その後、その教室に風が吹き荒れた。

机は宙を舞う。

風が落ち着くと、縦6、横6に机が綺麗に並べられていた。

その後、ぴしゃりと窓がしまり、白いカーテンが劇を終わらせるようにゆっくりと窓を隠していった。

「これを物置に運んでくれないか?」

「はーい」


これでも先生とは仲良くしているつもりなので、よく頼まれ事をする。

友達は「少しは断れば良いのに」っと言っていたが、まぁ笑って流している。

案外、この作業は嫌いじゃない。

スタスタと物置の扉を足で開ける。

何処からか風が入って来て、慌てて書類が飛ばされないように押さえた。

書類を一旦置き、明かりをつける。

蛍光灯が何回か点滅し、部屋が明るくなった。

書類を奥へと運ぶ。

その時、何か通ったような気がして後ろを向く。

後ろの足元に白い封筒が落ちていた。

裏を見ると、宛先は書かれておらず、悪いとは思ったが中を確認する。

【困っている人に渡してください】と言う文章と葉っぱが一つ同封されていた。


「誰かの落とし物かな?」


暇なので、届けてみることにした。

カーテンがゆらゆらと揺れて、移動の邪魔をする。

友達には先に行かれてしまったので、先を急ぐ。

校門を出たとき、男の子がべそをかいていた。

この封筒、役に立つかな?


「ねえ僕、何か困ったことでもあったの?」

「友達が・・・友達が。」

「そっか、僕良いものあげる。何か役に立つんじゃないのかな?」


男の子は泣きながらその封筒を受け取った。



これにてこの物語は閉幕です。

少し奇怪なものがたり

少女が今後どうなるか。

全ては神の匙加減。

此処では、運命と申しましょう。

さて、此処で私と会ったのもこれまた運命なのでしょうかね。

それではまたお会いしましょう。

この物語か、他の作品で。

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