この世の憤怒
「皆気を引き締めるんだ。相手はあのギルド長を倒した奴なんだから」
今回討伐隊のリーダーになった俺は、緊張した声で部隊の皆に声をかけた
メンバーは、魔法使いが一人。僧侶が一人、シーフが一人と、戦士である俺の4名。
皆それぞれ武勇で名を馳せた猛者ばかりだ
「でも4人って少なくない? 私、ギルド長を倒した奴に接近されたら流石に対処できないわよ?」
魔法使いの不満そうな言葉に苦笑いをする。
後衛の彼女にはこの人数は不安でしかないのだろう
「しかたないんだ。この洞窟型の狭いダンジョンにだと大人数だと互いの動きを邪魔してしまって、最大のパフォーマンスが発揮できない」
それがこのダンジョンの厄介な所でもある。数を頼む事が難しいのだ。
「おっと、お喋りはここまでみたいだぜぃ。奴さん来やがったみたいだ」
気配関知に優れたシーフの言葉に、私はアドレナリンを迸らせ、一瞬で戦闘体勢を整えた。
幾つもの戦を経て、アドレナリンをコントロールできるようになった俺は、自身の体を自由自在に動かす事ができる。
強化された聴覚が、前方から荒々しい足音を聞き取る
愛剣をするりと抜き放ち、永年共に戦ってきたその肉厚の刃に安心感を覚えた
そして、
奴が姿を現す
見た目は想像していたよりも貧相で、とてもじゃないが戦闘を生業としている者の体には見えない
これはとんだ期待外れか?
そう油断した俺の考えは、奴の顔を見た瞬間に霧散した
なんだ、あれは?
鬼だ
あれは人の見せる表情では無い
この世の憤怒を人の形に無理やり押さえ込んだかのような
そんな顔をしていた
「・・・なんなんだ・・・お前は」
鬼が俺たちに視線を向ける。
「そこを、どけ‼」
ビリビリとした気迫に大気が揺らぐ。
ダメだ、ヤらなきゃヤられる。
「皆、戦闘体勢に入れぇ!」
流石は歴戦の勇者たちと言うべきか、俺の指示と同時に全員が戦闘体勢を整える。
しかし
全ては
遅すぎたのだが、
「!?」
鬼が姿を消した
次の瞬間、俺の目の前に現れた奴の右の拳が深々と腹に突き刺さる。
柔らかい筈のソレは、硬い鉄の鎧を貫いて俺がダウンするのに十分なダメージを与える。
崩れ落ちた俺には目もくれず、詠唱途中の魔法使いを一撃でノすと、背後から斬りかかったシーフも見事なカウンターの右拳で仕留めた。
「あっ、あっ」
1人残された僧侶の少女は、恐怖で腰が抜けたのかその場に崩れ落ちた。鬼がゆっくりと僧侶に近づいて・・・
「ひぃぃ」
恐怖の限界を超えたのだろう、泡を吹いて失神した僧侶は、同時に失禁してダンジョンの地面を濡らした。
「俺はこうはならない、絶対にだ」
鬼は小さな声でそう呟くと、失神した僧侶の横をかけて行くのだった。