第5話『バスルームとゴリラ』
半袖短パンの体操着らしき服装に着替えて来た涼。袖から見える白い二の腕や、まばゆいばかりの両足が、瑞々しい若さを感じさせる。
「じゃあ、ついてきて」
涼の背中を見つめながら、のしのしと歩く俺。
「あれ、なんでバスルームがこんなに広いんだ?」
部屋全体の広さは俺の部屋の方が広いはずだ。
「ここだけは、特注で広くしたのよ」
少し自慢気な表情で涼が言った。
「ゴリラにも親切な設計だな」
「設計者も流石にゴリラの水浴びに使われるとは夢にも思わないわね」
笑いを堪えながら話す涼。
「水浴びって言うなよ。野生のゴリラ感がすごいから」
思わず吹き出す涼。やっぱり笑顔が似合うなぁ。
「じゃあ、じっとしててね?」
涼はそう言って、シャワーの蛇口をひねる。
出てきたお湯の温度を手で確かめている。
そしてゆっくりと俺の体をお湯が流れていく。
「あぁ、生き返るわ〜」
生き返るどころか、ゴリラに生まれ変わってるけどね!
「じゃあこれで洗うわよ?」
涼の右手にはアワアワのスポンジが握られており、左手でシャワーヘッドを操っている。
「お、お願いします」
あれ? 大丈夫だよね? 成人男性がJKに身体洗ってもらうのって犯罪だっけ? 俺の経歴に傷つかないよね? あ! ゴリラだからセーフか! GORIRA最高! ウッホーい!
「かゆいところはありませんかー?」
美容師さんごっこをはじめた涼。もう俺の心がはがゆいよ。このまま抱きしめたらこの子死んじゃうからね?
「最高ウホ」
「ちょっと、リラックスし過ぎて語尾がゴリラよ?」
しまった! あまりの心地よさに人であることを忘れかけたウホ。
「ジョーク、ジョーク、GORIRAジョークだよ」
「は?」
やっべ、この美容師さん。笑いに厳しいタイプだ。
「歯」
そう言って、ゴリラの歯茎を見せつける俺。
なぜかそれがツボに入ったらしくご機嫌を取り戻す美容師さん。
「よっし、じゃあ乾かすか!」
涼はそう言って、バスタオルを取りに廊下に戻る。
「これで足りるかな?」
大きなバスタオルを3枚持ってきた涼。
「流石に足りるでしょ」
俺がそう言ったのを合図に体を拭きはじめた涼。あれ? 成人男性がJKに身体拭いて貰うのって、以下略。
「よし、あとはドライヤーね!」
「いや、後は自然乾燥でいいよ。ゴリラだし」
「だめよ、ゴリラだからこそ身だしなみには気を使いなさいよ! 視線を集めやすいんだから。それにキューティクルは大事よ?」
ゴリラにキューティクルとかあるのだろうか。だが、前半部分は一理あるような。
「わかったよ、じゃあお願いします」
ドライヤーで俺の全身を乾かしはじめる涼。
「全部乾いた?」
後ろから肩越しに顔を覗かせながら聞いてくる涼。
「髪がまだかな?」
「どっから髪よwww」
今日一番の大爆笑を解き放つ涼であった。