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第4話『部屋とYシャツとゴリラ』

 彼女に言われるがまま、後についていく俺。

 ギャルの背後をゴリラがゆっくりと歩くバイオレンスな光景がそこにはあった。


 まぁ、どちらにせよ、マンションに帰れなくなっていたわけだし、渡りに船とはこのことだ。この船はゴリラの重量に耐えられるかな?

 そんなGORIRAジョークを心のメモに書き留めていたら、彼女がゆっくりと口を開いた。


「あたしの名前はリョウ。涼しいって字でリョウよ」


「俺の名前はシュンだ。一瞬のシュンだ」


 俺は彼女の作法に揃えて自己紹介をした。彼女は後ろを振り向かずに話を聞いていたが、なぜだかそれが失礼には感じなかった。


「なんだか、意外ね、シュンってよりはジェームスって感じがするわ」


 相変わらず、こちらを振り向かないまま、クスクスと笑いながらそう口にする涼。


「いや、それゴリラに引っ張られ過ぎだろ!」


「そりゃ引っ張られるでしょ? その見た目の吸引力半端じゃないわよ?」


 涼の背中がプルプルと震えている。


「全世界のジェームスに謝れ」


「その発言こそゴリラに謝罪するべきじゃない?」


「ごめんなさい」


 ゴリラに謝罪するゴリラ。

 それにしても、その容姿や服装からギャルであることは間違いなさそうだが、見た目とは裏腹に随分と頭が回る少女のようだ。あれ? この考えもギャルに謝るべきか? ごめんなさい。ギャルに謝罪するゴリラ。


「シュンって昔からそうなの?」


 茶化すように話しかけてくる涼。


「いや、今朝起きたらゴリラだった」


 なんと言うPowerword!


「新米ゴリラだったのね」


 なんと言うPowerword!

 後ろにゴリラつけたらなんでもPowerword説。


「まぁ、ド新人だね。エリートだけど」


「何よそれ、意味わかんない」


 言葉とは裏腹に楽しそうな声音の涼。


「だってマウンテンゴリラだぜ?」


「だから何よ」


「絶滅危惧種だぜ?」


「じゃあ、あたしが保護してあげようか?」


 そう言って彼女が足を止めたのはなんと……。


「ここがあたしの家、どう? 凄いでしょ?」


 見慣れたタワーマンションが目の前にそびえ立っている。


「あの、おれんちもここ……」


「えっ! うそ? ゴリラが住めるような所じゃないわよ?」


「だから言ったろ? 俺はエリートなんだ」


 そう言って胸を張る俺。いや、もともと張りっぱなしな胸板なんだけどね?


「ふ、ふーん、ちなみに何階よ?」


「最上階だけど」


「このゴリラやるわね……」


 悔しさと驚きの表情で、ようやくこちらを振り返った涼。悔しそうな顔も中々Cuteですね。


「このゴリラは流石に直球過ぎるだろ」


「まぁ、いいわ。とりあえず中に入りましょう。鍵は持ってる?」


「ポケットがあるように見える?」


 俺がそう言うと、口元を押さえながら、カードキーを取り出す涼。

 彼女が自動ドアを開き、続けざまに入る俺。

 エレベーターに乗り、24階のボタンを押す涼。


「あれ、俺の下に暮らしてたんだ」


「その言い方は腹が立つからやめて。それに今朝の騒音の正体はゴリラだったわけね」


 こめかみに手をやりながら、静かに話す涼。


「いやいや、初日のゴリラにしては大分上手く立ちまわった方だから!」


 俺がエリートとして必死に弁明していると、ざっくりと涼がこう言った。


「比較対象がいないじゃない。あとシュン、ちょっと臭いわ」


「こんな時だけ名前で呼ばないでくれ……」


 JKに臭いと言われることがこんなにも辛いだなんて。エレベーター、少し臭うぞ、ゴリラかな。GORIRA川柳の出来上がりだ。


 そんな悲しきやりとりのすえ、目的の階に辿りついた。


「お、お邪魔しまーす」


 JKの住まう部屋に浸入するゴリラ。


「誰もいないわよ」


「え、女子高生がこの部屋に一人暮らしなのかい?」


 エリートな俺ですらびっくりな事実。


「えぇ、あたしはネットの動画配信でお金を稼いでいるのよ」


 当然のように口にする涼だが、世代の差だろうか? 驚きを隠せない。


「ねぇ、ちょっと臭うわね。上の階でシャワー浴びてきてよ」


 おっと? これは誘いか? いいえ、違いますね。わかってますとも、エリートですから。本当に臭いがプンプンしてますもの。


「いや〜、それが、今朝シャワーヘッド引きちぎっちゃって」


 出来るだけ可愛らしさを意識して事実を告げた。でなければ、恐怖で追い返されるだろう。


「あぁ、なるほどね。わかったわ。じゃあ、あたしが洗ってあげる」


 JKに洗ってもらう。JKに洗ってもらう。

 なんと言うPowerword!

 JKはゴリラより強し! マウンテンゴリラのマウンテンがキラウェア火山しそうだ!


「え? いいの?」


 おそるおそる問いかける俺。


「え? だって、犬や猫と一緒じゃない?」


 Oh……。ペット感覚か。


 悪くない! いやむしろ良い!


「じゃあ、ちょっと、濡れても良い服に着替えてくるから、そこで待ってて」


 濡れても良い服。なんと言うPowerword!

 いや、もういいなこれ。


 期待に胸を膨らませ大人しく待機するゴリラ。いや、もともと胸膨らんでるんですけどね!


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