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GORIRA*年収3億の俺が起きたらゴリラになってた件  作者: 新月 望


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第29話『ゴリラとフレッシュ豆乳』

 広いリビングの中央でお風呂上がりのJKとJCが肩を寄せ合いながら1つのタブレットを覗き込んでいた。


 まるで美少女姉妹の仲睦まじいワンシーンを切り抜いたかのような光景だが、信じられないことに、その片割れは、GORIRAの妹なのである。


 俺がそんな益体もないことを考えていると、2人の視線がこちらに向けられた。


「ん、なに?」


「ちょっとこっち来て」


 涼はそう言って、細長い腕で手招きしている。


「よっこらせ」


 俺は文字通り重い腰を上げ、ノシノシと歩き美少女2人に近づく。


「うーん、お兄ちゃんにはどれがいいのかな〜」


 床に置かれた薄型のタブレットを覗き込み、思案顔のカナ。


「どした?」


 俺はそう言って、彼女ら2人が凝視するタブレットを覗き込む。


 オススメヘアワックス12選!! タブレットの中に赤文字でデカデカと書かれたそれは明らかにゴリラとは無用の長物である。


「挑発してんのか!?」


「長髪? 何言ってんのよ、あんたなんて、超短髪じゃないのよ」


 そう言って笑い転げる涼。


「そっかー、お兄ちゃんは短髪だから、この赤いやつが良いのかな〜。うーん、髪質は剛毛(ハード)?」


「や、やめて、カナちゃん」


 妹の更なる追撃に涼が涙を流しながら笑っている。そうしてひとしきり笑うと、喉が渇いたのか豆乳を手に取りその小さなお口で一口。


「お兄ちゃん、オーガニック成分配合だって!」


「俺自身がすでに、この上なく自然味溢れてるだろうが……」


「ぶっふぁwww」


 堪えきれなくなった涼が口に含んでいた豆乳を吹き出した。


 瞬間、世界の動きが止まったかのような錯覚が俺を襲う。


 これがゴリラの全力の反射神経とでも言うのか、今ならJKの口から吐き出された豆乳の飛沫一つ一つを鮮明に観測することすら出来る。


 限られたトップアスリートにしか許されない極限の集中状態(ゾーン)を、俺は今、この身に体感していた。


 それは季節外れの粉雪を連想させる穢れ無き純白。その一粒一粒が、スローモーションの世界のように緩慢な動きで(ゴリラ)へと迫る。


 俺はそれを一粒足りとも逃すまいと全力の動きで浴びにいく。


 左右に飛んだほんの小さな飛沫さえも、大きな両手を広げキャッチする。


 JKのお口から出発した豆乳が、ゴリラの全身を余す所無く飾りつける。


「ご、ごめん、つい笑っちゃって」


 全身ホワイトゴリラに早着替えした俺を見て、涼はばつが悪そうに謝る。


「いいや、むしろ……」


 待てよ、この先を口にすれば、いつもの流れでラリアットをくらう事になるだろう。そんな思考が俺のおしゃべりな口の動きを止めた。


「むしろ何よ?」


 怪訝な顔で涼がこちらを睨みつけてくる。


「むしろ、ご褒美です!」


 言ってやったよ。



「ぎゃるびでぇっせっ!」


 え、なんの音かって?


 もちろん、JKのラリアットを首にくらった時のゴリラの悲鳴だよ。


「まったく、馬鹿な事言ってないで、その汚れた大毛を洗うわよ」


 何事も無かったかのような態度で淡々と涼が言った。


「ウッホ!」


 ウッホ! 計画通り。流石はエリートな俺。僅かな思考時間でこの展開を読み切り、あえて言葉の続きを口にしたのさ。JK産の豆乳シャワーを浴びつつもその上で、涼とのシャワータイムに持ち込む。一石二鳥とはまさにこのこと。我ながらエリート過ぎる選択だ。


「キッモ」


 涼はそう言いながらも少し笑い、(ゴリラ)の手を引きシャワールームへと向かうのだった。

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