第28話『ゴリラとシャワーとJKとJC』
ピンポーン! ピンポーン! ピンポ! ピンポ! ピンポ! ピンポーン!
「だっ! うるせぇ!!」
俺は激しい怒りとは裏腹に、インターホンの通話ボタンを慎重に慎重に、優しく押す。
「お兄ちゃん! ご飯にする? お風呂にする? それとも〜、わ・た・し?」
今日も今日とて、順調にお馬鹿な妹である。馬、鹿、ゴリラの愉快なアニマルパークだ。ちなみに飼育員は金髪JKと言う混沌っぷりだ。
「カナ、それは、出迎える側のセリフだ。カギ開けたから、上がっておいで」
そう言って俺は、一階の入り口の自動ドアを開ける。
「はーい、いっま、行きまぁーつ」
さて、妹来訪まで、残り数分。まずは、スタバの空になった容器を隠す所から始めよう。カナの分は買い忘れたのだから、この秘密は死守せねばならない。奴は鼻が効くからな、念には念を入れ、キッチン用のフタ付きのゴミ箱に入れよう。足で踏むとフタが開く式の、よくあるゴミ箱だ。
そーっと、やさし〜〜く、ゴミ箱の下の部分を踏み込む俺。
力加減をミスれば、一発でヤられる……。
パッカ!
よし! ゴミ箱を壊さずに、優しく開けることに成功した。俺はそのまま、大きな顎門を開き、今か今かとゴミを待ち受けているゴミ箱に、空になったスターバッコシの容器を自由落下させる。
ふぅ、清々しい達成感と、絵も知れぬ全能感が今、俺の体を駆け巡っていた。
ピンポーン! ピンポーン! ピンポ! ピンポ! ピンポ! ピンポーン!
あぁ、もうついたのか! それにしても、なんでこんなにも、インターホンを連打するのだ? ゴリラにとってのドラミングか何かか⁇
あまりのやかましさを見兼ねてか、自らの足で、玄関の鍵を開けに行く涼。俺もその後に続く。
ガッチャ!
「お兄ちゃん久しぶりって、泥棒猫⁉︎」
「誰が泥棒猫よ」
「あぁ、涼おねぇちゃん!!」
玄関のドアが開くや否や、即興漫才をはじめるJKとJC。それにしても、うちの妹は、テンポ感のみで生きているのだろうか……。
「何でそんなにずぶ濡れなのよ?」
台風の中でジョギングしていたかのように、汗だくな妹に突っ込む涼。汗だくな妹に突っ込む涼。大事な事なので二回言いました。
「だって、1階から走って上がってきたから!」
「え? ここ、最上階よ? 25階よ⁉︎」
公園で野生のゴリラと出くわした時にすら驚かなかった涼が、驚きを露わにしている。
「びっしょ、びっしょ!」
そう言って、俺の家の玄関で汗を振りまく妹。
「えっと、とりあえずシャワーに入ったら? あ、シャワーヘッド無いんだっけ?」
そう言って、ゴリラに問いかけるJK。
「あぁ、シャワーヘッドは初日にヤッた」
「あぁ、もう! いいわ、とりあえず、下の私の部屋に行くわよ!」
JKを先頭に馬鹿とゴリラがエレベーターに乗り込む。
* * *
みなさん、とんでもないことが起きております!!
なんと、JKの家にて、JKとJCがお風呂に入っております!!
俺は現在、リビングで待機ゴリラなわけです。ここから、一歩でも出ようものなら、世にも恐ろしい調教が待っているに違いありません。それはそれで、Welcome to the Gorira なんですがね。命あっての物種とも言います。
まぁ、そんなわけで俺は俺らしく俺のアドバンテージを最大限に活かし切る為に、全神経を聴力に集中していた。
扉越しでもうっすらと聞こえる彼女達の声。
「ちょ、ちょっと、変なとこ触らないでよ……」
涼の吐息混じりの声が聞こえる。
よし! いいぞカナ! もっとやれい!!
「涼おねぇちゃんの、小さくて可愛いい! ちゃんと柔らかいんだね?」
カナが涼の秘密の園について言及する。
「な、何よ、嫌味?」
「違うよ、でも、こうしたら大きくなるって、友達が言ってたよ?」
「え? あっ、ちょっと、待って……」
いけ! カナ! 待つんじゃない! 決めろぉーーーーう!!!!
気が付けば俺は、今までで一番力強い、ドラミングをしていた。




