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GORIRA*年収3億の俺が起きたらゴリラになってた件  作者: 新月 望


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第26話『ゴリラとお土産』

 現在、(ゴリラ)はブルーシートの上に体育座りをしていた。そして、美しい電飾達が彩る夢のパレードに目を奪われていた。


「それにしても涼は準備がいいわね」


 赤みがかった茶髪の前髪を手で梳きながら満里奈さんが言った。


「パレードはシートをひいて最前列で見るものよ!」


 涼の言葉からは、夢の国へのこだわりがひしひしと伝わる。


「それにしても、綺麗だよね」


 その水晶のような透き通った大きな瞳に、美しくライトアップされた、多種多様な光の輝きを集めながら、小さな口を開き、そっと呟く葵ちゃん。綺麗な瞳に綺麗な輝きを宿すとか、エンジェル過ぎる。そりゃ、描写にも力が入るってもんだ!


 パレードそっちのけで葵ちゃん観察に没頭する俺。


「あっ! ロナルドダックがこっちみた!」


 涼が猛烈に興奮しながら叫んでいる。いや、もはや絶叫レベル。服の袖を引っ張る感覚で俺の左腕の毛を引っ張らないで?? 痛いし、今はそれどころじゃない。網膜に天使の姿を焼き付けるお仕事中なのです。


「あぁ、すごいな〜」


 涼の絶叫に空返事をする俺。


「もう! ちゃんと見なさいよ〜。GUKI!!」


 ちなみに今のGUKIはゴリラがJKに無理やり首の向きを変えられた時の音Death。


 俺の首がアグレッシブに方向転換するとそこには、たくさんのゴリラ達が!!


「ほら、ター◯ンの仲間達よ! シュンも森に帰らないと!」


「ウッホ! こうしちゃいられねーぜ!」


 道化を演じる元人間のゴリラとか、俺、複雑に演じ過ぎじゃね??


「シュン君は本当に面白いね」


 そう言って、優しく微笑む葵ちゃん。

 この笑顔が守れるなら、俺は道化にでもゴリラにでもなってやるよ!! 


 そんなこんなで、パレードをひとしきり満喫した俺達は最後に、入り口付近のお土産屋さんに来た。


「あっ、これ可愛いい!」


 満里奈さんはそう言って、ウサギの耳がついたカチューシャを葵ちゃんの頭につける。


「か、革命だ……」


 可愛さの大革命が起きている。どんな美辞麗句すらも陳腐に思える程のきゃわわがそこに存在している。


「でも、こういうのって普通は、最初に買うんじゃないの?」


 ほんのり頬を染めながら、疑問を口にする葵ちゃん。


「いや、そんな瑣末なことはいい。これは買うべきだ」


 ゴリラになってから、これほど明確な意思表示をしたのは初めてかも知れない。


「シュンもつけたら?」


 そう言って、俺の頭にカチューシャをつけ始める涼。


「あの……。ゴリラにうさ耳はボケの渋滞が過ぎるのでは?」


 ちゃんと交通整理して!


「あら、ゴリラにうさ耳も案外ありね!」


 顎に手をやり、満足そうに頷く涼。


「いや、ねーよ!」


 このJKゴリラにあめーな! ザル過ぎるだろ! ちゃんと検問して!


「お揃いだね」


 控えめな笑顔で小さく呟く葵ちゃん。


「よし、買おう!!」


 即断即決はエリートの証!!


「そう言えば、カナちゃんへのお土産はいいの?」


 うさ耳の魔法にかかっていた俺に、涼が問いかけてくる。


「あぁ、実家千葉だからな、お土産いるか?」


 ここから実家まではそう遠くないからな。お土産を買う距離でもない気がするが。


「カナちゃんって誰〜?」


 満里奈さんが問いかけてくる。


「俺の妹」


『え⁉︎』


 満里奈さんと葵ちゃんの声が重なる。


「あのさぁ、失礼な想像してるよね? 妹はゴリラじゃないよ?」


 まぁ、妹と会う口実にもなるし、仕方ないからお土産買うか。

 ここはやはり、みんな大好きブーさんにするべきか?


「やっぱりこれじゃない?」


 涼がゴリラのぬいぐるみを腕いっぱいに抱えて持ってきた。


「女子中学生が喜びそうなお土産って何かな?」


 両手いっぱいにゴリラを抱えたJKを無視して、他の二人に問いかける。


「まぁ、無難なのは、クランチ系のチョコレートじゃない? 美味しいし、みんな好きでしょ」


 満里奈さんが、真面目な意見をくれる。

 確かに、食いしん坊のカナのことだ、確実に喜ぶだろう。


「確かに、お菓子はみんな喜ぶよね。ちなみに葵ちゃんならどんなお土産が嬉しい?」


 うちの妹は可愛い。そして葵ちゃんも可愛い。つまり、人としての大まかなジャンルは同じはず。だから別にこれは、葵ちゃんの趣味嗜好が知りたいと言う邪な気持ちではない。はず。だ。本当だよ?


「僕はパンツかな?」


 ほんのりと頬を染めながら、上目遣いで話す葵ちゃん。


「ほぅ、詳しく」


 前のめりになるゴリラ。


「だって、ここに売ってる下着ってキャラクターが印刷されていて、可愛いから」


 ふむ、なるほど。ここで俺がパンツをプレゼントする。葵ちゃんがそれを履く。つまり、俺がプレゼントしたパンツを履いた葵ちゃんが完成するわけか。


「100枚でいいかな?」


 俺は爽やかな表情を意識しながら、葵ちゃんに問いかける。

 

「グッフォ!?」


 え? 何の音かって? そりゃあ、腕自慢のJKに正拳突きをくらった時のゴリラの呻き声さ。断言しよう。これ以外のシーンで、この音は考えられない。


「まったく、話が脱線してるわよ」


 いつの間にか、ゴリラのぬいぐるみを棚に戻してきた涼が言った。

 肉体的コミュニケーションを図る前に、言語での対話を試みて欲しいものだ。ケモノじゃないんだからさ!


「まぁ、カナは食べ物が一番だろうから、お菓子を何袋か買うことにするよ」


 次ふざければ殺す! と言うパワフルな視線を感じた俺はおとなしくそう言った。


「じゃあ、買ってくるわね」

 

 俺の財布は涼が預かってくれているので、涼はそのまま、会計に向かった。


 * * *


 電車の乗り換えの都合で、あともう少しで、葵ちゃんと満里奈さんとはお別れだ。

 

「じゃあ、また学校で。シュン君もまた遊ぼうね」


 葵ちゃんが別れを惜しみながらも、涼と俺に語りかける。


「あぁ、また会おう」


 俺の頬には一粒の雫が流れていた。


「は? 何泣いてるのよ! また遊びに来れるわよ」


 ゴリラの頭にスパーンと軽快な音を鳴らしつつ、涼が言った。

 それにしてもこのJK、ゴリラを叩くの習慣になってない? そろそろ俺、パブロフのゴリラになっちゃうよ? 条件反射しまくっちゃうぜ⁉︎


「今度はどこに行こうか? みんな考えておいてね〜」


 満里奈さんの素敵な提案を最後に、二人は電車を降りたのだった。


 * * *


 マンションのエレベーター内で涼がポツリと呟く。

 

「今日はありがと」


「それ、俺の台詞」


 一日中歩いていたからだろうか。俺達の口数は普段に比べて少ない。


 この姿になってから、まともに話したのは、涼と妹だけだったから、今日は正直、とてつもなく嬉しかったのだ。


 涼の事情で、ついて行くことにはなったが、結果的に救われたのは、間違いなく俺だった。

 まぁ、そんなことは口にしなくとも伝わっているのだろう。その証拠に、涼の横顔は満足そうな微笑みでいっぱいだ。


 それに彼女は、誰よりもゴリラに詳しいのだ。だからきっと、俺のこの温かな気持ちも、きっと共有されている。


 彼女がゴリラに詳しいように、俺も少しずつではあるが、この誰よりも優しいJKのことがわかってきた気がする。

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