第2話『うん、OK、いったんゴリラを受け入れよう』
OK! いったん冷静になろう。俺はゴリラになったようだ。しかも、絶滅危惧種のマウンテンゴリラだ。更には、その中でも希少なシルバーバックと呼ばれる、マウンテンゴリラの中のボスだ。つまり俺はエリートヒューマンからエリートゴリラに変身したわけだ。なるほどわからん。
地球の人口は74億人を突破しているのだ。つまり、俺一人だけがゴリラになっているとは考えにくい。
よし、こんな時の為の知恵袋じゃないか。俺はネットで他にも俺のようなゴリラがいないかを検索するため、机の上のスマートフォンに手を伸ばした。そしてスマートフォンを砕いた。
「Aha〜……」
力加減が難しいな。まぁ大丈夫だ。スマホが壊れたなら買いに行くだけだ。
おっと、その前に病院の予約を済ませよう。なんらかのゴリラウィルスに感染している可能性が高いからな。念には念をだ。
よし、スマホで病院の電話番号を調べよう。
……なんてね。わかっているさ、さっきスマホは、試しに砕いてみたばかりだからね。
俺にはノートパソコンがある。そして俺は同じミスをおかさない男だ。
力の加減には細心の注意を払ってノートパソコンを開く。うん、開ききった。それはもう見事に開ききっている。いやぁ、だってもう二つに分かれているもの。美しいほどに真っ二つだ。これはもう開き直るしかない。
よしよし、また学習したぞ! ゴリラとノーパソは相性が悪い!
だが、まだまだ余裕がある。俺にはまだデスクトップがあるからね。開く必要のない分、真っ二つになる心配はない。
さてさて、俺のタッチタイピングが火を噴くぜ?
バキン! おっと、キーボードに真ん丸な穴を開けてしまった。こいつは失敬。
だが、まだまだ安心。このパソコンの強みは画面がタッチ操作出来る所だ。
バリン! 特殊加工が施されたゴリラガラスも、エリートゴリラの前では無力であった……。ゴリラガラス、ゴリラに敗れたり。
パソコンの液晶がひび割れており、暗い部屋を歪に照らしている。
いや、そもそもゴリラに成り立ての俺が文明の力に頼ろうとしたのが間違いなのだ。ベテランのゴリラですらスマホは扱えないのだから。
よし、まずは外に出よう。先ほどから声は普通に出ているし、言葉が通じれば意思疎通もはかれるはずだ。
しかし、流石にこのままのゴリラ100%状態で外に出るのはきつかろう。むき出しのゴリラが許されるのはハロウィン位だろう?
バナナくれなきゃイタズラするぞってなもんだ。GORIRAジョークも飛び出した所で服を選ぼう。
ふむ、ゴリラになったことのある人ならわかると思うのだが、思ってた以上に腕が太い。まずそでが通らない。
なるほど、なるほど。ならば服を買いに行こう。大きなサイズの専門店ならばピッタリのやつが売っているだろう。人間の中にだってゴリラみたいな奴は大勢いるからな、モーマンタイ。
あれ? でもそうなると、その為にはまず、ゴリラむき出しで外出せねばなるまい。
うーむ、はじめて服を着た人は着るまでは全裸だったのだろうか? 服を作るまでに着ていた服はないのだろうか?
卵が先か、鶏が先か。ただ一つ言えるのは、ゴリラが先ではならないということだ。