第18話『ゴリペディア』
く、くそう、力の制御がこんなに難しいものだったとは……。静まれ俺の右腕!
「ちょっと、また失敗?」
涼がため息まじりにそう言った。
現在俺は割り箸を持つ練習をしている。
いまのでちょうど、30回目の割り箸ブレイキング!
「予想以上に力の暴走が激しいんだよ」
俺はなるべく低い声を意識して男らしく言った。
「なにカッコつけてんのよ」
天然物の金髪を手櫛で整えながら視線だけをこちらに向けて涼が鋭く言った。
呆れ顔も可愛いとかずるくないですか?
妹を見送り終えて、現在は俺の部屋でゴリラパワーの制御訓練を行っている。
やったね! JK教官の誕生だ!
「まぁまぁ、ゴリラはこう見えてナイーブなんだぜ?」
「知ってるわよ。ゴリラは神経性の下痢にかかりやすいし、心臓の負担で死に至ることまである位だからね」
スラスラとゴリラ知識を披露する涼。
ゴリペディアさんなの??
「知り過ぎだろ!」
「これ位は一般教養よ」
その一般教養、どこのジャングルなら通用すんだよ! このJKターザンなの?
「お前の学校の生物の授業、全部ゴリラについてやってるだろ?」
知識が偏りすぎだ……。
「失礼ね! ゴリラについてだけなら、生物の教師よりも私の方が詳しいわよ!」
勢いよく、ズレた言い分を放つJK。
「どこにプライド持ってんだよ……」
「昨日からずっと思ってたんだけど、シュンがドラミングする時って、拳を握って胸を叩いてるじゃない?」
「う、うん」
「本当のゴリラはパーで叩くことの方が多いのよ! その方が遠くまで音が響くの!」
ドラミングに対してここまで熱弁をふるうJKを未だかつて見たことがなかった。
いや、普通のJKは熱弁どころか、ゴリラの話しないよね〜。
俺は疑い半分で手のひらを広げ、自身の胸を勢いよく叩く。
鳴り響くDON! 確かにこの音の響きは従来の拳を握りしめるスタイルでは不可能だった。
当社比2倍の迫力だぜ。
「ウッホ! まじかよ! 音の響き方が段違いだ」
「でしょ?」
何故か勝ち誇った表情でこちらを見つめる涼。
ついつい楽しくなり、DONドコDONドコやっていると、5DONドコ目で涼のハイキックを頂戴した。
「いってーな! 大丈夫か?」
蹴られたのに相手の心配しなきゃいけないとかゴリラ頑丈過ぎだろ。
「私はこの位平気よ、パーバージョンのドラミングは流石に響くから3DONドコまでにしなさい!」
3回までは許すのかよ。
JKの顔も三度までというやつですね!
「悪かったよ、次からは3DONドコ以内に抑えるからさ」
「素直でよろしい。素直なゴリラさんにはここでもう一つ、ゴリラ豆知識を与えましょう。ゴリラはオスの同性愛が多いらしいわよ」
ニヤニヤしながらこちらに向かって話しかける涼。
「なんで?」
何の気なしに聞いてしまった俺。
「ゴリラってボスを中心にハーレムを作り上げるから、群れから外れたオス同士は寂しさを埋め合うらしいわよ」
Oh……。聞きたくないディープなゴリラ事情だった。




