第16話『とあるゴリラの禁書目録』
さてさて、荒れに荒れているワイルドなゴリラルームを掃除しているわけですが、ここで一つ気づいたことがある。
「力仕事めっちゃ楽やん!」
扉が引きちぎられた冷蔵庫も、真っ二つのノートパソコンも画面が砕けたデスクトップも、簡単に廊下まで持ち出せた。さっすがGORIRAパワー!
「あたり前でしょ、ゴリラの握力500キロよ?」
あたり前のようにゴリラの握力を把握しているJKがあたり前ではないと思うのだが……。
「なんか今ゴリラの力を実感してるわ!」
「いやいや、冷蔵庫の扉引きちぎった段階で気付きなさいよ!」
ウッホ! その通り過ぎて手も足も出ないぜ。まぁ、手も足もゴリラだから起きた事件なんだけどね!
「あんまりお兄ちゃんを責めないで」
責めるJKと責められるGORIRAの間に割って入るIMOUTOJC。
「責めてるわけじゃないのよ、これはスキンシップ? ってやつ」
スキンシップに疑問持っちゃってるじゃん。
まぁ、激しめなスキンシップ位がゴリラにはちょうどいいな。
そこからも、カナが涼に突っかかり、涼がそれを上手く受け流すというやりとりがありつつも順調に部屋掃除は進んだ。
「お兄ちゃん、ちょっと何これ!」
そう言ってカナが手にしているのは、人類の神秘について探求する色鮮やかな書物だ。
「えっと、刺激的な要素が含まれる本だな」
俺の趣味嗜好を白日の下にさらす禁書目録とも言える。
「何よ、ただのエロ本じゃない」
俺が丁寧に取り繕った幻想を粉々に粉砕する涼。
そのまま涼は中身をペラペラとめくる。
隣でカナは顔を真っ赤に染めながらも検閲作業を止めようとはしない。
「うっわ……。JKものばかりじゃない」
JKの蔑んだ視線がゴリラを襲う。
JKにJKものを見つかるゴリラな俺。うーん、この状況、複雑怪奇過ぎる。しかし、なんだろう、この得体の知れぬ高揚感。新たな扉が開きそうだ。ウッホーい!
「ゴリラにだってプライバシーがあるだろ!」
「なんで強気なのよ……」
呆れた様子でこちらを見るJK。
「なんで妹ものがないの!?」
わけのわからんポイントでキレ出すMy Sweet Sister。
「実際に妹がいるのに妹の探求をする冒険者はいません!」
ここはしっかりと高らかに宣言しておかねば。
「じゃあ、カナちゃんが来年JKになったら、このJKものは全部処分するのね?」
嗜虐的な目付きでゴリラを詰問する涼。
なんて恐ろしいパラドックスを突きつけてくるのだ……。
「そ、それは……」
この至宝の数々を焼き払えと言うのか。
目の前の非情な選択に思わず言葉に詰まる俺。
「妹は我慢出来て、JKは我慢出来ないのね?」
なぜか勝ち誇った顔でそう言い放つ涼。
「ちょっと! お兄ちゃん!」
あれ? ゴリラが言うのもなんだけど論点ズレてない?
「はい、お兄ちゃんです」
お兄ちゃんの自己申告をするゴリラ。
「なんで妹よりJKなの!?」
いや、だって、妹いるのに妹を探求するようなインディージョーンズさんはこの国では独房行きだよね?
「いやいや、どっちがどうとかではなく、止むに止まれぬ事情と言いますか、ゴリラならではの習性なんですかね〜」
エリートはぐらかし術を披露する俺。
「いやいや、あんたゴリラになったの昨日からなんでしょ?」
なんと言う名推理! JK名探偵の誕生だ!
「お兄ちゃんの馬鹿!」
そう言って部屋を飛び出すカナ。
違うぞ妹よ! お前のお兄ちゃんは馬でも鹿でもない、ただのゴリラだ!