第15話『ゴリラとルンバ』
JK・ゴリラ・JCの並びでエレベーターへと向かう俺たち。
先程、涼に高級アイスを貰ったカナは幸せの余韻を引きづっているのか、終始笑顔だ。
エリートなエレベーターが1階から猛スピードでグングンと昇ってきた。
すぐ真上が俺の部屋なだけに、すぐさま目的の階に辿り着く。
「カナ、カードキーを出してくれ」
この瞬間の為にわざわざ妹に来て貰ったわけだ。
「うん、わかった!」
そう言って、スカートの中に手を突っ込み、カードキーを取り出すカナ。
は? え? ん??
「カナ、一応聞くがなんでスカートの中にカード入れてるんだ?」
どんな理由があったらそんなデンジャラスな収納場所を使うのやら。
「え、何言ってるのお兄ちゃん? スカートじゃなくてパンツの中から出したんだよ!」
手に持ったカードをヒラヒラさせながら胸を張る妹。こいつマジで大丈夫かしら?
「ズバン!!」
え? 今の音の正体ですか?
妹のパンツから出てきたカードに顔を近づけて臭いをチェックした時にJKから拳で後頭部を殴られた時のゴリラの音ですよ?
何か問題でも?
「痛いな! 何すんだよ涼!」
ゴリラの後頭部に易々とダメージを与えるとか、このJK、アイアンマンなの?
「何してんのはこっちのセリフよ!」
顔を真っ赤にして怒鳴る涼。
「おい、落ち着け涼。隣の人に迷惑だろ?」
「このフロア、あんたの部屋しかないでしょ」
はっはっはー! このワンフロアはゴリラ貸切り状態だぜー!
「それにしてもなんでパンツの中にしまってたんだ?」
話の矛先を妹へと向ける兄。
「お母さんが東京は怖いところだから、気をつけるズラって」
いやいや、紛争地域じゃないんだから、流石にパンツ収納は逆にデンジャラスだろ。カードキーは一応、電子機器類だよ? パンツの中はねぇ? ほらぁ? な?
「ズラ? お母さんは静岡生まれなの?」
ズラという語尾に即座に反応を示す涼。しかしこのJK物知りだな……。
「いや、バリバリの千葉県民……」
実家も千葉にあるので、行き来するのに大した時間はかからない。
「え、じゃあ、なんの為のズラなの?」
不思議そうに首を傾げる涼。
もんげーわからないズラ!
「いや、バカなだけだから気にしないで」
ちなみに母のバカな所を濃縮して出来上がったのがカナだズラ!
そんな益体もない会話を交わしながら、ようやくカードキーを扉に通すカナ。
1日部屋を空けただけなのに、妙な感動が心を揺さぶる。
先に部屋へと上り込んだカナが大きな悲鳴を上げた。
「お兄ちゃん! 空き巣だよ! ベッドも壊れてるし! 冷蔵庫の扉も千切れてるよ!」
深刻そうな顔で玄関にいる俺たちに報告をするカナ。
妹の言葉に続いて涼も急いで部屋へと上がった。
「これは、酷いわね。誰がこんなことを……」
眉根を寄せ、まだ見ぬ犯人に静かな怒りを燃やす涼。
「えっと、その、俺です」
「え?」
涼とカナの疑問の声が重なった。
「犯人、俺です」
自白するゴリラ。
「は?」
再びJKとJCの声が重なる。
蔑まれ、新たな世界、見えてきた。
ゴリラ心の一句。
「いやいや、落ち着いて考えてみ? 朝起きたらゴリラだぞ?」
な?
「いやいや、落ち着いてる場合じゃないでしょ」
笑いをこぼしながらツッコミを入れる涼。
「お兄ちゃん、とりあえず部屋片付けよ」
妹が珍しくまともな提案をした。
「よし! 片付けるか!」
俺は勢いよくそう言って、床のルンバを踏み抜く。あっ……。
「大丈夫?」
そう言って、すぐさまルンバに駆け寄る涼。
あっ、そっちね? ゴリラよりルンバね!
ルンバに並々ならぬ嫉妬の感情を燃やすゴリラの姿がそこにはあった。




