第12話『ゴリラとJKと歯ブラシ』
おはよーございます。どうも寝不足ゴリラです。
昨晩はあまりにも激しい夜だった。ゴリラの俺が一睡も出来ないレベルだぜ?
おっと! 勘違いしないでくれ。ゴリラとJKの間には何もなかった。悲しいくらいにね?
俺はリビングに敷かれた布団で横になり、涼は和室の布団で眠りについた。
今日ほど襖を恨んだ日はない。そう、襖は音を良く通すのだ。
そして涼のIBIKIはGORIRAも真っ青なレベルでうるさかった。そりゃあもう、ドラミングか! ってレベル。
画竜点睛を欠くとは正にこのことだ。驚く程の造形美をほこるJKがまさかイビキがうるさいなど、誰が予想出来るものか。人類史上最もいらないギャップだろう。
そんな益体も無いことを考えながら、眠い目を擦りぼーっとしていると、涼のスマートフォンが音を鳴らして揺れはじめた。その音で涼が目覚める。
「何よ、うるさい!」
お前の方が5000倍うるさかったわ!
涼は襖を開けてリビングへと歩き出し、テーブルに置かれたスマホへと手を伸ばす。
自分のイビキはあれだけうるさいのに襖ごしの着信音で起きるとか、わけわからん繊細さだな。
「あれ? 昨日かけた妹さんの番号よ?」
そう言って、俺にスマホの画面を見せる涼。
俺が出てくれと頼むと、スピーカーに切り替えて電話に出る涼。
「もしもし! 神崎カナです!」
うん、間違いなく妹の声だ。見知らぬ番号の相手にいきなり名乗るな……。
「えっと、お兄ちゃんです」
「あ! お兄ちゃんだ!」
元気と可愛さと性格の良さだけが取り柄の妹が勢いよく喋りだした。
「あのさ、俺の家のカードキーの予備持ってきてくれない?」
今日は土曜日で学校も休みだから、カナも来られるはずだ。
「いいよー!」
二つ返事で了承してくれるカナ。素直でよろしい! お小遣いをあげよう。
「じゃあ、10時にマンションの前に来てくれ」
「わかった!」
元気で素直なのが一番だが、少々不安を感じさせる程の真っ直ぐさである。
「じゃあ、また後で」
俺がそう言って、涼に電話を切るよう合図する。
電話を切り、涼が口を開く。
「素直で良い妹さんね」
「幼稚園児なみに真っ直ぐだからね」
ちなみに知能も、やや賢い幼稚園児レベルだ。
「ねぇ、1つ言ってもいい?」
急に真顔になった涼が深刻な声音で尋ねてきた。
「な、なんだよ?」
妙な緊張感が場を支配している。
「シュン、口くさいんだけど」
「的確にダメージを与える時だけ名前で呼ぶルールでもあんのかよ!?」
言葉のナイフがゴリラの胸を深くえぐる。
「ねぇ、歯磨いてあげるよ」
クスクス笑いながら、洗面所へと向かう涼。
俺も重い腰を浮かべゆっくりと後を追う。
涼が新品の歯ブラシを棚から取り出した。
残念だ。涼のおさがりで良かったのに。
あ、あくまでエコ的な意味でだよ? エロじゃないよ? エコだから! あれ? エロとエコって線一本の違いしかなくね? ならどっちでもいいね!
「あーって口開いて」
涼が俺に淡々と指示を出す。
「あーっ」
JKの言われるがままに口を開くゴリラ。
「あ! これを動画にするわ!」
そう言って涼は急いでカメラを取りにリビングへと戻る。
カメラを洗面台付近に固定し、撮影を始める涼。
「はい、ゴリラシリーズ第2段! 今日はなんと、ゴリラの歯磨きです!」
あれ? この企画シリーズ化するのね……。
「ウッホー!」
カメラの前では人間語を禁止するという決まりを律儀に守ってしまうあたり、ゴリラになっても真面目な俺だ。
「はい、ジェームス君! あーって口を開けて」
「あーっ」
あ……。やっべ。
無表情でカメラをとめに行く涼。
「ちょっと! 人間語禁止よ。編集が大変になるんだから」
今のは不可効力だろ?
しかし、言い訳は見苦しいな。エリートな俺は結果で証明することにした。
「よし、完璧なゴリラを演じるよ」
「頼むわよ」
そう言って再び撮影を再開する涼。
俺の口内にJKが握りしめている歯ブラシが進入してくる。
涼が操る歯ブラシが俺の敏感な右奥歯をくすぐる。
「ウッ…… ホゥ……」
く、くやしいけど、今のは演技じゃない。涼のあまりに華麗な歯ブラシテクに、思わずゴリラを引き出されてしまった。
未体験ZONEに突入していた。
奥の方をゆっくりと焦らすように擦りながらも、徐々に前歯の方へと歯ブラシを動かす涼。
「ウッ、ウッ、ウッ、ウホゥ……」
くそ! どうしてもウホゥが漏れ出してしまう! 自らやるぶんには良いのだが、他人にウホゥを引き出されるのは、とても恥ずかしいものなのだ。
満足な取れ高が撮れたのか、満面の笑みでカメラを切る涼。
え? もうお終いなの?
「なによ、随分と物欲しそうな目で見てくるのね?」
蠱惑的な表情を浮かべながらも、からかうようにこちらを覗く涼。
「えっと、まだ、左の奥歯が、その……」
しどろもどろなゴリラがそこには居た。
「仕方がないゴリラね?」
そう言って涼は、その超絶技巧で俺の左奥歯を磨きはじめた。
あれ? 冷静に考えるとゴリラになってから得しかしてないぞ。JKとシャワー、JKとご飯、JKと歯磨き。やっべゴリラって最高なんじゃね? ゴリラ万歳!
ん? ゴリラが最高と言うよりかは、JKの功績な気もするが、細かいことは考えず、喜びのドラミングでもするか!
「ウッホーい!」
そう言って体全体で喜びを表現するゴリラ。
「うっるさい!」
素早く注意する涼。
「はい、すみません」
素早く謝る俺。
あれ? 俺、JKに飼いならされてね?