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波乱の大阪旅行 その一

ラストの続きはムーンライトにあります(*´-`)


「むふふ。うへへ。」


 手帳のカレンダー部分につけたハートマークを見ながら私は1人休憩室でニヤニヤしていた。

 2月の誕生日に合わせて、私は大阪旅行の休暇を申請している。


 急性期病棟は月の休みが8日しか無い。おまけに2月は必然的に日曜が少ない分通常よりも休暇が少ない。

 しかも7対1の看護体制の為、必然的にスタッフの人数が少ない。

 そのため、長期休暇の申請は他のスタッフとブッキングしないことが最低条件となる。予定のある者は何ヶ月も前から師長に伝えないといけない。


 ありがたいことに、2月という微妙に寒くて巷のイベントもない季節だったという事もあり、私はあっさりと四連休を手に入れることが出来た。

 ──まあ、大阪から戻った後の6日間日勤はきっと死ねるだろうが、こればかりは仕方がない。


 休みに入る前の私の顔は、始終緩みっぱなしだった。


「晶ちゃん、ついに明日から行くの?」

「はいっ! お土産買ってきますね」

「今回もUSJ? 新しいアトラクション増えたんだよね、私も行きたいなあ」


 意外と情報をチェックしている千里さんは、スマホで地図を見ながらため息をつく。

 聞いた話によると、彼とはディズニーランドすら行った事が無いのだという。

 理由を聞くと、お互いいい齢だから恥ずかしいとか。


 どうせ夢の国なんだし、人の目なんて気にしなきゃいいのに……と思うが、そこは堅物な千里さん。

 多分、彼氏さんからお誘いが無い限り行けないのだろう。


「あーいうトコって、年寄りとか若いとか関係ないですって。みんな自分達の事でいっぱいで他人の事なんてどうでもいいし。だから〜、千里さんも、彼氏さんに言ってみたらどうですか?」

「む、無理無理! 私、優ちゃんと沈黙のまま3時間も並んでいられないもん」


 先輩は33歳だが、見た目よりも乙女ちっくで、妄想をして焦ったり、微笑む姿は可愛い。

 私もこんなほんわかした感じだったら──今よりもうちょっと自信持てるんだけどな。


(まずは、俊ちゃんに飽きられないように自分磨きしなきゃ)


「じゃ、旅行前の一仕事してきまーすっ!」


 まだ赤くなっている千里さんを残し、私は処置グッズをワゴンに乗せてナースステーションを後にする。


────────


 いよいよ、明日から大阪。

 私と俊ちゃんは普段は会いたくなるからという理由で一切電話はしないが、予定を立ててもう会えると分かった時のみ電話連絡をする。


 本来、メールも苦手な俊ちゃんはこの暗黙のルールに不満を持っているのだが、私が毎日俊ちゃんと喋っていたら今すぐにでも会いたくなって身が持たない。


「さてっと……これで忘れ物はないよね?」


 旅行の準備も出来た所で、私はドキドキしながら俊ちゃんに電話をかける。

 電話前待機でもしているのか、俊ちゃんがコールに出るのは早い。


「もしもし? 俊ちゃん、準備出来たよ」

『明日、11時に新大阪駅やな?』

「そうだよ、3ヶ月ぶり? 今回は何処に泊まるの?」

『今回は、オレん家な。晶の為に片付けたんやで。少しは褒めて』


 ──確か、以前送られた写メを見た時は、彼の部屋に大量のゲームが散乱していたような気がする。

 多少汚くても、彼の部屋に招いてもらえるようになった事が嬉しい。


 俊ちゃんには、5歳下の和希さんという少しミステリアスな弟さんがいる。

 そんな弟は時々思いつめて、ふさぎ込む事が多いので、ほぼ同居しているのだとか。弟さんを実家から連れ出したのも俊ちゃんの功績らしい。


 まだ俊ちゃんの家族について詳しく聞いた事は無いが『あんなトコに和希は置けん』と言う辺り、何か事情がありそうだ。


「で、でも私が俊ちゃんの部屋に行ったら迷惑じゃない? 弟さんは?」

『和希に友達が出来たんや。四日間はその友達んトコで過ごすって』

「そ、そうなんだ……ふ、ふーん」


 大阪滞在中、弟さんは不在。つまり……2人きりって事よね。

 携帯電話を握りしめたまま無言でぼんやりしていると、電話越しで俊ちゃんが楽しそうに笑っていた。


『いっぱいエッチ出来るで』

「だ、誰もそんな事言ってません!」


 ストレートな俊ちゃんの言葉に、思わず身体が浮き上がる。ベッドと壁の間で体育座りしていたお尻が浮く。


(やばい、やばい。ペース乱されてどうすんのよ、私……)


『オレは、したいけど? なぁ、晶』


 その吐息に耳がざわつく。俊ちゃんは今、隣に居ないのに──甘い声が私の意識を縛っていく。


『晶……一足お先に、しよか?』

「な、何を……?」

『テレフォン・セックス』


 甘い声でそう囁かれた瞬間、私は真っ赤になって携帯電話を落としそうになった。

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