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遠距離恋愛の不安 その二


 商品開発の打ち合わせをしている俊介の真面目な横顔。ずっと手に入れたかった愛おしい人に、結奈は携帯のカメラを向ける。


 彼は歳よりも若く見えるけど、顔立ちや内面まで幼いわけではない。

 むふっと笑いながらその写真を見つめていると、頭の上に書類を乗せられた。


「なに、にやけとんねん」

「いいえ、俊介さんカッコええなーって。自慢の彼氏です」


 全く悪びれる様子もなくそういう結奈の態度に、俊介はため息をつく。


 期限の1週間はもう過ぎている。

 そして、実際に『恋人のフリ』をして気づいた事がある。彼女はやはり直接的な被害を受けてはいない。

 ならば被害内容はメールや、SNSかと思うのだがそれも違うらしい。


 俊介の方も未だに晶と連絡が取れない事で不安になっている。電話帳から連絡先を辿るのだが、何故か電話が繋がらない。


「結奈、お前オレの電話帳はよ直せ。晶に電話できへんやろ」

「もうちょい待って下さいよ」


 彼女得意の両手を合わせてウィンクしてくるポーズ。白衣の中に着ているカッターシャツはわざとなのか、ボタンを二つ外している。少しお辞儀をするだけで白い胸元がほんの少し見え隠れする。

 そこから視線を逸らし、俊介は滅茶滅茶にされた電話帳を見てため息をついた。


 携帯依存タイプではないので、データを変えられると復元に困る。それに、もう約束の1週間は経った。いい加減、こちらも早く晶に連絡したい。


 ──晶は俊介に会うたび可愛くなっており、1週間放置してる今、変な虫がついていないか不安しかない。

 特に外科なんて、若くて仕事の出来るエリート街道の奴も多いだろうし。


「はぁ……」


 デスクの前で俊介も重いため息をついていると、珍しく個人用の携帯が鳴った。

 それに手を伸ばした瞬間、何故かその電話は1コールで切れる。そして画面には『非通知発信』との表示。


「俊介さん、データ直しますから携帯貸してください」

「はよ頼むで。今晩こそは晶に連絡したい」

「はいはーい」


 俊介から携帯電話を預かった結奈は手洗いと言い席を立つ。

 休憩室に到着したところで画面に表示された『非通知発信』の相手を悟り、チッと小さく舌打ちをする。


 ──発信者は分かっている。彼女は俊介に繋がらないことを悟り、わざわざ非通知で電話をかけたのだろう。


 結奈は口元に不敵な笑みを浮かべ、非通知発信の相手の電話番号を電話帳から引き出して入力する。

 勿論、この電話から(・・・・・・)の着信は、必ず彼女が出る。


『もしもし? 俊ちゃん?』

「……あのー、晶さん? ごめんなさい。ストーカーの件は片付いたんですけど、俊介さんと私、正式にお付き合いすることなったんです」

『えっ……?』


 突然の告白に晶は電話越しで言葉を失う。その様子はまるで手に取るようにわかる。


 彼女の絶望を見るために──結奈はわざわざツイッター、フェイスブックにブログ。ありとあらゆるモノを使って周囲と外部のネット関係の友人に嘘の付き合いを広めて来たのだ。

 俊介と本当の彼氏彼女の関係になる為に。そのための手段なんて選ばない。


「貴女の電話、拒否してたでしょう? それが、彼の答えなんですよ。だからもう、私達に関わらないでくれますか?」

『俊ちゃんは……?』


 あと一押し──。彼女の震える声が耳に心地よい。結奈は既に勝利者の気分で、たたみかけるように言葉を紡ぐ。


「だからあ、お前が邪魔なんよ。もう、関わらんでくれる?」

「結奈? オレの携帯はよ返せ」


 タイミングよく休憩に出てきた俊介がこちらに近づいてくる。結奈は心の中で黒い笑みを浮かべると、彼の耳元に囁く。


「今非通知発信で私に電話してきたストーカーと話てるの」

「はあ? それ貸せ」


 結奈の言葉をすっかり信用している怒り心頭の俊介は、携帯電話を結奈の手から奪い取る。


「お前もしつこいな、結奈はオレと付き合ってるんや。諦めて他のオンナ探せアホ!」


 一方的に通話を切った俊介は、これでストーカーは片付いたな? と結奈に視線を向ける。


「ばっちりですっ! あ、でもまだ電話帳直してないんで、夕方返しますね?」

「お前なあ……はよしてくれ。オレは晶と早く連絡したいんや」

「はぁい」


 満面の笑みを浮かべる結奈の先には、完全に俊介の隣を手に入れた自分が映っていた。


────────


 俊ちゃんの言葉がまだ耳に残っていて離れない。


「晶ちゃん? どうしたの、ぼんやりして」


 声をかけてきたのは千里さんだ。私は声をかけられても、携帯電話を握りしめたまま呆然と立ち尽くしていた。


 期限の1週間が経ち、久しぶりに俊ちゃんに連絡をした。──それなのに、待っていたのは酷い別れ。


「え、え! 晶ちゃん!?」


 ポロポロと涙が頰を伝い落ちる。千里さんに対して気丈に笑ったつもりが、顔もぐしゃぐしゃに歪んでしまう。


「晶ちゃん……」

「…私が馬鹿だったんです。いつも俊ちゃんに晶はアホやなって言われてましたもん。身近に可愛くて、若い子が居たら気持ちも揺らぎますよね……」

「──晶ちゃん、それはきちんと会って話さないとダメ! 電話も、メールも、顔を見て話したわけじゃないでしょう?」


 結奈さんのフェイスブックに映る二人の写真が無情な現実を示す。

 ──これが、答え。


 私は、彼の側にいない。だから満足させられないんだ。

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