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未来について その四


 お風呂上がりの俊ちゃんは仕事用のiPad を開いて何やら誰かと電話をしていた。

 多分、1週間も休みを貰ったのだから仕事は詰まるだろう。

 一応休みをとった名目上『初めての姪っ子に会いに来る』というおめでたいものだが、泊まる場所は姪っ子の場所ではない。


「ああ。それでいい。──何? 土産は後や。ん、オレのデスク漁るなや。頼むで」


 電話を切った俊ちゃんは眉間に皺を寄せて私の着ているパジャマを指差した。

 えっ? まさか、パステルブルーとか嫌いなのかな?


「晶……バニーちゃんは?」

「えっ!? ダメだよ、そんな……明日は」

「明日は晶休みなんやな。勤務表みたで」


 こ、コッソリ内緒にしていたのに……でもよく考えてみたら、カレンダーの暗号が勤務だとバレているので隠しようがない。


「だからってバニーちゃんはダメ。あれはまだ着てないからあちこち余っちゃう」

「おっぱいのとこか?」

「もうっ! 気にしてるんだからあまりそーいうこと言わないのっ!」


 フリーサイズのコスプレは外国仕様なのか、胸周りが相当緩い。私の貧乳ではガバガバなのだ。

 絶対に俊ちゃんは胸に悪戯してくる。だから一度着てサイズを修正して完璧にしてから着る──予定だったのに。


「晶。バニーちゃん着て?」

「だ、だからまだサイズを……」

「大丈夫やて。ほら、見ないで待ってるから」


 ニヤニヤ口元に笑みを浮かべる肉食獣は両手で顔を覆うとベッドの上に寝転んだ。

 そういうのって、絶対に指の隙間から覗いてるんでしょ。

 でも俊ちゃんが望むなら──。


 私は着ていたパジャマと下着を脱ぎ、ちらりと俊ちゃんを見つめた後、ウサギ耳のヘアバンドをつける。

 さらに首には蝶ネクタイとカフス。網タイツを履き、足を通した黒のバニースーツにはウサギの尻尾を模った飾りまでついていた。

──想像通り、胸周りにはゆとりがある。


(こ、これは上から見下ろしたら丸見えじゃないっ!)


「出来たか?」

「あ……」


 内股を寄せてもじもじしていると俊ちゃんは嬉しそうに口角を上げた。


「晶、ほんま可愛い──おいで」


 手首を引かれ、一緒にベッドになだれ込む。俊ちゃんの甘いキスを受けながら私は瞳を閉じた。


────────


 ふと夜中に目覚めると、私は先ほど脱ぎ捨てたパジャマを着せられていた。

 俊ちゃんは必ず気絶した私の後処理を全部してくれる。──普通では考えられないくらいマメだ。

 まどろみの中で私は目を凝らして隣に眠る精巧な顔をみつめたつもりだったが、そこに俊ちゃんの姿はなかった。


「俊ちゃん?」


 気だるい身体を叱咤してリビングに足を向けると、そこにはノートパソコンを睨みつける俊ちゃんの横顔。


 仕事、忙しいのにどうして1週間も休みとってくれたんだろう。

 彗さんに会いに来たはずなのに、私のところに居てもいいの?


 私の気配に気づいた俊ちゃんは険しい顔を緩めて苦笑していた。


「──晶、起こしてしもたか。ごめんな」

「ううん、大丈夫。俊ちゃん、忙しいのに私のところにいて大丈夫なの?」

「実はまだ彗に会ってないんや。なかなか、気持ちの整理がつかなくて」


 パソコンを閉じた俊ちゃんは天井に向けて大きく息を吐き出した。


 いくら仲の良い兄弟としても、真由ちゃんの妊娠が発覚した時点で何も相談が無かったことは……彗さんに対しての気持ちがついていかないのだろう。


 私に出来ることなんて多分ない。でも、彗さんと俊ちゃんの仲がこじれるのは嫌。

 これから真由ちゃんは俊ちゃんのご両親と向かい合う。そこで唯一味方になってくれる俊ちゃんを敵に回すわけにはいかない。


「俊ちゃん、彗さんはずっと悩んでいたよ」

「それは知っとる。オレかてそこまでアホやない。あいつがおかんのことで悩んどるのも」

「彗さんと真由ちゃんを祝福してあげて? 俊ちゃんが頼りなんだよ、あの2人にとって」

「……」

「俊ちゃん?」


 いつも気丈な俊ちゃんが、珍しくこつんと頭をぶつけてきた。


「晶は、強いな」

「ふぇ?」

「オレは、彗に相談されなかったことにイラついてもうた。昨日こっちに来て、彗と喧嘩したんや」


 私もお姉ちゃんから相談されなかったし、俊ちゃんの気持ちは分かる。

 でも俊ちゃんが味方になるんだから、ここは仲直りしてもらわないと。


「──ねえ、俊ちゃん」

「ん?」

「日付変わったから今日か。彗さんトコ、一緒に行こう? 子供、可愛いよ」

「──晶が一緒なら、大丈夫やろ……頼むわ」

「うん。一緒に行こうね」

「……一緒に行こうねって、晶が言うとエロいなあ」

「あのねぇっ! も〜……さっき散々、んっ」


 様々な感情の入り混じった俊ちゃんの表情はいつもと少しだけ違う。

 私はしおらしくなった肉食獣を腕に抱き、甘いキスの雨を浴びながらソファーの上でいつまでも抱き合っていた。

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