奇妙な三角関係!? その四
恒例の大阪旅行まであと1ヶ月。私の休憩時間はハートマークのついた手帳を見て、俊ちゃんとどこに行こうかと考えるのが楽しみだ。
「晶ちゃん、顔くだけてる」
「へっ!? は、恥ずかしい……すいません」
昼残りをしていた千里さんと私は1時間遅れの休憩。慌ててスマホからお弁当に視線を落とす。
そんな私の様子を見て千里さんは羨ましいな、と笑う。
「千里さんも彼氏さんいるじゃないですか〜」
「うん……でも、私達は、晶ちゃん達みたいに何処か行こうか? ってないから」
千里さんの彼氏さんも6歳年上。何か事情がありそうだ。
お相手のタイプは全く違うものの、千里さんとは勤務が会う時に恋愛話に花を咲かせるのが好きだった。
外科病棟は若い子か、子持ちのママさんしかいない。歳も近くて、独身である千里さんの存在は私に取って良き先輩であり恋の相談相手だ。
最近は千里さんも彼とどういう関係になりたいのか悩んでいるようだった。私より身長も、おっぱいもあって、しかも二重で小顔の美人さん。
(絶対俊ちゃんに会わせたくないっ!)
もし千里さんがフリーになったら余計なライバルが増えてしまう。……ここはもう少し彼氏さんに踏ん張ってもらわないと私も困るっ!
「ダメですよ〜! そういうのは、彼氏さんから無ければ、千里さんから行かなくちゃ。まだ若いんですし」
「三十路突入しちゃったからおばさんだよ」
「私も三十路ですぅ〜。おばさん上等です。そんなん気持ち次第ですから」
最近元気のない先輩を激励しつつ、私はハリポタゾーンに行きたいなあとUSJの地図を見る。
「そうだっ! 千里さんにクソ不味いグミ買ってきますね」
「何、それ」
「んふふ〜ネタのヤツなんですけど、まっ、食べてからのお楽しみで」
元気の無い人は何とか笑わせたい。千里さんは仕事では笑顔を絶やさない人だから、きっとどこか無理をしているのだろう。
お弁当を平らげ、食後の珈琲を千里さんと飲みながら、明日のオペの部屋割りについて話し合いをする。
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帰りに緑の窓口に寄り、大阪行きの新幹線のチケットもをゲット。──後は大阪へ行くだけ。
気分は来月に飛んでおり、こうしてプランを考えてはニヤニヤしてる私は相当お馬鹿さんだろう。
遠距離は確かに寂しいけど、久しぶりに会った時の感動はひとしお。
今までは側に居ても失敗してきたから、今度こそは幸せになりたい……なんて。
でも、よく考えてみたら、俊ちゃんはどう思ってるんだろう。確かに何度か大阪に来いとは言われたけど、私も正直いきなり慣れない土地に行くのは不安しかない。
それにあっちには草間くんがいる。もう無関係とは言え、何かしら俊ちゃんの仕事に手を出されても困る。
医療系のコンシェルジュだから、もしかして私の新しい仕事先もバレそうだし……って、それは考え過ぎか。
「んー、リニューアル中かあ。今年はUSJのパスポート買おうかな……こないだの3Dも面白かったな〜」
3時間の待ち時間なんて、俊ちゃんと近況話をしているだけで時間を忘れる。
それに、少し冷たい風に当たりながら俊ちゃんがさり気なくマフラーでそっと抱きしめてくれる。長い指がいつも私の髪の毛を梳いてくれるのが好きだ。
夢の国とはちょい違うけど、どうせUSJも同じく誰もいちゃいちゃなんて気にしないんだし。
イベントスケジュールを見ながらベッドでゴロゴロしていると、珍しく俊ちゃんから電話が入った。
彼は基本電話をかけてこないので、何かあったとしか思えない。
「もしもし?」
『…晶?』
珍しく全く覇気のない俊ちゃんの声。本当に何かあったのかと、私は驚いてベッドから起き上がった。
「どうしたの?」
『……来月、会えん』
えっ。
(ああ……お仕事かな)
俊ちゃんの仕事は、3月末まで決算も入るので忙しい。私達みたいに暦に影響されない業務とは違う。
──それにしても、仕事で会えない連絡だったら、メールでも良かったのに……。寂しいけど、仕方ないか。
「俊ちゃんお仕事? まだ寒いから気をつけて頑張ってね」
『……違うんや』
「どうしたの? 俊ちゃん、元気ない」
俊ちゃんの後ろからクスクス楽しそうに笑ってる声が聞こえる。さらに電話越しの方で、何か小競り合いをしているような声。
数秒の沈黙の後、電話に出たのは和希くんだった。
『もしもし? アキ、久しぶりやな』
「か、和希くん? 何で、俊ちゃんは?」
『あ〜。俊介は今、傷心中。なぁ、アキ。来月こっち来うへん? 俺とデートしよ?』
茶目っ気たっぷりにそう言う和希くんの態度に思わず大きなため息が口をつく。
「何で私が和希くんと……」
『酷いなあ、傷つくわ。俺、こう見えてもモテるんやけど?』
入院していた時の和希くんとは、全く違う態度。俊ちゃんの部屋に戻ってから何があったのだろうか。
しかも俊ちゃんが傷心中ってどういう事? まさかまた他の女性?
……もう俊ちゃんは黙っててもモテるんだから勘弁してほしい。これ以上私が嫉妬したら胃潰瘍にでもなりそうだよ。
『アキ、もう新幹線のチケット買うたやろ? だから、デートしよ』
小悪魔のような可愛い声でそう何度も囁かれると、さすがの私でも気持ちが揺らぐ。
それに、俊ちゃんは仕事が忙しくても、必ず家には帰ってくる。そしたら夜はいつも通り一緒に居られるだろう。キャンセルするくらいなら、少しでも俊ちゃんに会いたい。
「はいはい、分かりました。分かりました〜。元気の無い先輩にお土産買いたいから、私とUSJ付き合ってくれる?」
『そんなん、お安い御用や。やった〜アキとデート出来るっ。羨ましいやろ、俊介』
嬉しそうな和希くんの様子が電話越しでもはっきりわかる。
その日を境に俊ちゃんからのメールがぱったり途絶えた。和希くんは思った以上に狡猾だという事に、この時の私はまだ気づくはずもなかった。




