閑話ーコスプレナース、姫始め? その一
年末最後の仕事を終えた私はこれから1月3日まで冬休みに突入する。
遠距離恋愛中の彼こと、俊ちゃんは大阪在住。
私達のような暦なんて関係なしの勤務とは違い、開発関連の彼は工場が休みになるので年末年始は完全にフリー。
何と、今年は彼の方が東京に来ているのだ。数日前に貸した合鍵を使い、私の仕事が終わるまでマンションで待ってくれている予定となっている。
いつも真っ暗な我が家にも、今日は電気がついている。それだけで嬉しくて気持ちまで明るくなる。
「た、ただいま〜」
「おかえり、晶」
玄関で靴を脱ぐと聞こえる『おかえり』の一言。何年ぶりだろう? 待ってくれる人のいる場所に帰る気持ちって。
微笑みながら玄関までお迎えに来てくれた俊ちゃん。そしてさり気なく私の持ってるバッグを取り、代わりにお疲れ様のキスをくれる。
「そのエプロン……」
私の使っているエプロンを着ている俊ちゃん。
腕まくりしたロングシャツに、白いフリルのエプロン……。
アンバランスでなんか、か、可愛いんですけどっ!
「どないした、晶…顔、くだけとるで?」
おっと。いかん、いかん……思わず俊ちゃんに見惚れてしまった。
彼氏の俊ちゃんとは、お付き合いして1年半が経過した。
去年はじゃんけんに負けて連休が取れず、年末年始一緒にいる事が出来なかった。
今年初めて彼氏と一緒。とにかくこれが嬉しい!
年末勤務は定時上がりだったが、家で過ごす為に俊ちゃんの好きなお酒を買って帰ってきたので、今日の荷物は多い。
リビングに向かうと、いい匂いのグラタンと年越し蕎麦の準備がされていた。
あまり自炊のイメージの無い俊ちゃんだが、実は結構料理をするらしい。
前回大阪に行ったときはタコ焼きを振る舞われたが、実はそれ以外のレパートリーもあるとか。
そして彼は器用なので、メニューさえ書いてあれば何でも作れる。
「グラタン、俊ちゃんが作ったの?」
「こんなん箱につくり方書いてるやろ?」
どや顔で笑う彼は「着替えて来い」と言い、私の頭をくしゃりと撫でた。大きくて優しい手の温もりに、胸が熱くなった。
急いで部屋着に着替えて俊ちゃんの待つリビングへ戻る。
「俊ちゃん、何から何までありがとう」
「ええよ」
すでに料理を並べてくれていた俊ちゃんの頰に触れるだけのキスをすると、「お返し」と舌を絡める深いキスをされた。
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年末のテレビを見ながらビールを開ける。乾杯した後におつまみを食べつつ2人並んでソファーに座り肩を寄せる。
こんな日々がずっと続いたらいいのに。
そう思うのだが、私達はまだ遠距離恋愛から何1つ変わらない。
俊ちゃんは私が煙草を嫌っているのを知っているので、一緒にいる時は絶対に吸わない。
そういえば、あのマンションにも灰皿は見当たらなかったし、一体何処で吸っているのだろう?
そもそも、喫煙者って、そんなに我慢出来るものなのだろうか。
「俊ちゃん、煙草吸ってもいいんだよ?」
「ええよ、ヘビーちゃうし」
私の肩に左腕を回し、右手で缶ビールを持ちながら笑う俊ちゃんの横顔を見ているとドキドキする。
こちらを見つめる俊ちゃんの唇。そこに吸い寄せられるかのように己のをそっと重ねる。
「晶、したいん?」
「ち、違っ!」
「ええで、寝室行こか」
全く話を聞いていない俊ちゃんは、私の手首を引くと奥の寝室へと向かった。
そこには洗濯したばかりのケーシーと、ワンピースタイプの白衣がハンガーにかけられている。
そう言えば、クローゼットにしまうの忘れていた。そんな私の仕事着を見つけた俊ちゃんは、それを嬉しそうに取るとこちらに手渡してくる。
「……え?」
「晶のナースさん見たこと無いんや。着てみて?」
まさか、俊ちゃんは、お決まりのナースプレイ的なものを期待してるとか?
「ち、ちょっと待って。これは、私が実際働いて着てるやつなんですけど」
「晶、お願い」
お願い、の後ろにハートマークでもついてるような懇願。少しだけ瞳を輝かせるなんてずるい。
俊ちゃんにニッコリ微笑まれたら、もう着るしか無いでしょおおっ!!
私の心の叫びは虚しく吸い込まれていった。




