とある異世界の魔法衰退~羞恥心には勝てない 編~
魔法。
それは、古来よりある人類のためにある人外対策の秘術。
そう、この世界は僕が前世でしていた涙あり、感動ありなシナリオ重視のとあるゲーム世界。
だがしかし、現実となると魔法は厳しい。
ゲームでは、雰囲気作りと演出のためにちょっとカッコイイ厨二病的な詠唱呪文を唱えないと魔法は発動しない。
現実問題、厨二病的な詠唱呪文を言うのはかなり恥ずかしい。
チョー恥ずかしい。
もしも、もしもだよ。
大人となった時に、このことを思い出したら?
きっと、きみも僕も穴という穴の中に入りたくなるだろう。
だからこそ、僕は魔法を絶対に使わない。
子どもたちが魔法で魔物を倒すことが法律で定められていることなのに、僕が魔法を使わないことをクラス委員長が文句を言ってきた。
なので僕は、クラス委員長に「大人も魔法を使えるはずなのに法律で子どもだけに魔法を使うよう強制させるのはおかしい」と言った。
クラス委員長もそれに気付き「確かに」と納得した。
クラスで一番頭のいいクラス委員長にたたみかけるように僕は言った。
「魔力があるにもかかわらず、大人が魔法を使わないのは魔法を使用する際の『詠唱呪文』が冷静に考えれば恥ずかしいからではないの?」などと言うことを。
それを聞いたクラスの女子たちの中でませている子たちは頭を抱えると同時に恥ずかしがった。
そして、僕が魔法を使わない理由に納得した。
これに焦ったのが、学校の先生たちだ。
子どもが魔法を使うのを法律で義務化していようと、大人が魔法を使いたくない真実に気付かれたからだ。
まぁ、困るだろう。
魔法を使う過程が、恥ずかしい行為だと気付かれるのは。
恥ずかしい行為を回避するために、子どもを犠牲にするという恥ずべき行為をしているということを。
さて、魔法を使わずに大人たちを倒す方法は何か?
それは、『釘バット』『鉄パイプ』『金属バット』を使うこと。
『ハリセン』もあるのだけど、殺傷能力が低すぎるということで却下。
その夜、僕たちはこの世界における魔法を子どもたちに使わせるための法律を維持させる役所に勤めるたの大勢の大人たちを襲撃した。
その大勢の大人たちは、僕たちに対する対抗手段である魔法を使えるにもかかわらず、羞恥心には勝てずになすすべもなくやられた。
そして、僕たちがこの国...いや世界の大人たちが『なぜ、魔法を使わないのか?』ということを大人たちにとって不都合な真実をすべて明らかにしてこの世界の人間の子どもたちに伝えた。
その結果、人間の住む国すべてで魔法が予想以上の早さで急激に衰退した。
一言で言うと、あっという間の出来事だった。
そして一年後、僕たちは魔族の襲撃に遭遇した。
魔族に遭遇した僕たちは、人間の世界における三種の神器『釘バット』『鉄パイプ』『金属バット』で迎え撃った。
無残なほどに返り討ちにした僕たちに魔族の王は『なぜ、魔法を使わないのか?』を訊いてきた。
その問いに対して僕は、魔法の詠唱呪文がいかに恥ずかしい台詞であるかということを熱弁した。
人間よりも長生きして、頭が確実にいいと思われる魔族たちは羞恥心で悶えた。
実に哀れだなと思った。
前世の記憶がなければ、僕もこうなるだろうなと思った。
僕たちと魔族たちは、現在の人間の大人たちが『魔法の詠唱呪文がいかに恥ずかしい台詞であるか』について書いた秘密の日記を世界にいる全種族に公開した。
この時、僕は知らなかった。
この日記が後世に残り、この世界の全種族が魔法を使わない理由についての教科書の一部になって永久に語り継がれることを。
大人たちの黒歴史が消えることなく遺されていくことを。
とりあえず、僕たちと魔族たちの警告を無視して魔法を使い続ける馬鹿たちは放っておくことにした。
そこまで、僕はお人好しでもないしね。