ヴェスタとの出会い (1)
私は,普通の家庭に長女として生まれた.
父は数学の高校の先生,母は主婦という,古典的な家庭だ.
母によれば,私は物心がついたころ,あらゆるものに興味を持ったそうだ.
空の雲,文字,コンセント,・・・など目につくあらゆるものだ.
手で触ったり,口に入れたりしたらしく,電池を飲み込んでしまった時などはとても大変だったという.
こんなことは,誰が赤ん坊で会った時でもそうだろう.
しかし親ばかな父は,なんにでも興味を持つ私を見て天才だと思ったらしい.
私が言葉を覚え始めると,父はすぐに数字の私に教え始めた.
父の熱心な教育によって,3歳になるころには足し算,引き算,掛け算が出来るようになった.
割り算は少し苦手だったらしく4歳で出来る様になった.
そこからは早かった.小学校に入学する頃には,高校1年生レベルの数学をマスターしていた.
このころは未知ばかりのこの世界がとても楽しかった.
中学性になると少し焦り始めてきた.
このペースで勉強をしても生きているうちに,この世界のこと(特に物理法則)を知り尽くせ無いことに気づいてしまったから.
そうすると,途端にこの世界が巨大で苦しいものであると思えるようになってしまった.
自分の無力感に苛まれていた中学2年生のとき,自分の人生を変える現象が起きた.
今でも信じられないことだ.ある日,みんなが帰ってしまった放課後,図書室での勉強をやめて帰ろうと,自分の教室にある鞄を取りに行った.
すると,学校の自分の机の中に見慣れないノートが入っていることに気づいた.
そのノートは年季が入っているようでボロボロだった.
クラスメイトのノートにしては古く,また名前も書いていなかった.
ふと興味に駆られて中を見てみると,日記であるようだったが,驚くべきことが書いてあった.
そのノートには『標準模型を超えた物理』の一部と思われる数式が書いてあった.
このノートのほとんどのページが破られたかのようになくなっているため全容はわからないが,それでも明らかに現在の物理学をはるかに超越したと思われるものだった.
私は興奮を抑えることが出来ず,号泣しながら叫んでしまった(先生が何事かと飛んできてしまったが,適当に誤魔化して下校した).
なぜ,こんなものが存在するのかは分からなかったが,そんなことはどうでも良かった.
家に付くまで,この本を読むことが出来ないことは耐え難いので,すぐ近くのファストフード店に入った.
この本を隅から隅まで熟読した.やはり,ほとんどのページは欠落していた.
しかし,興味深いことに最後のページは物理学とは全く関係ないページだった.悪魔の召喚についてだった.
12月の24:00にある特殊な魔法陣を炎で書くことで召喚出来るそうだ.
この悪魔は膨大な知識を持ち,どのような質問にも答えてくれた,と書いてあった.
なぜこのような高尚なノートに妄想が書いてあるのか分からなかった.なので,このページは無視することにした.
次の日,このノートの持ち主を探しつつ,この『標準模型を超えた物理』の情報の一部を基に,自分で再度理論を構築することにした.
しかし,どちらも失敗に終わった.
学校の誰もこのノートのことは知らず,自分で理論を構築しようにも自分の知識不足により解決することが出来なかった.
何人かの権威にもメールを送ったが,参考文献も存在しないようなノートでは相手にしてくれなかった.
しかし,私はこのノートに書かれていることが本当なのだと直感していた.
いや,そうであって欲しいと思っただけなのかもしれない.これは私の最後の希望だった.
私は,悩んでいた.撃てる手がなくなってしまった.そのノートをパラパラとめくっていると,ふと最後のページに目が止まった.悪魔の召喚のページだ.
ほんの気まぐれであったし,疲れていたのだ.ありえないと思いながらもわらにもすがる思いで,それを実行することを決めたのだ.