5.無理難題
ー神ソ連・モスクワー
クレムリン宮殿に居座るスターリンは、情報収集がてらに日本へ接近させた東方艦隊の報告を聞いていた。彼の執務室には大勢の官僚や軍人がいた。
報告の内容はこうだ。
・日本は高性能の哨戒機を保有している
・日本海と思われる海域は波が激しい
・日本は垂直回転翼機を保有している
「まぁ、使えない奴等(海軍)なりに頑張ったほうか?」
スターリンが皮肉っぽくそういう、ソ連は伝統的に陸軍国だ。そのため、海軍が実力が不足しているのは誰もが知っていた。スターリン自身も、そのことについてはあまり口にしなかった。自分も、党員なりたての時は役立たずなど罵られたからだ。
「ラムダとの交渉はどのように進んでいる?」
「はい、表向きは我が国に対抗する姿勢を見せてますが、閣僚のほとんどが同盟を希望しているそうです。その上、ラムダにはギルシアの難民が多くおります、うまく人質にすればギルシアを降伏させることもできるかと」
「ほぅ、ラムダがこちらに着くか。ということは、残すはギルシアと日本だけか?」
「その通りです」
スターリンは悩んだ。このまま日本を放っておけば、いずれ我が国に牙をむく可能性がある。しかし、うちは交渉が苦手だ。おそらく結果は交渉決裂だろう。本来、ラムダを攻める必要性があったため、二国を同時に相手にしないように無視しているつもりだったが、ラムダが味方に着く可能性がある以上、交渉する必要性はない。
「南部戦線はどうかね?」
「南部戦線は敵地を順調に攻略中。中には資源などの採掘施設もあり、資源の算出も期待できます」
「よろしい、では新たな作戦はこうだ。陸軍の4軍を新たにギルシアを越境、海軍は2個艦隊をギルシアのベルガル湾へ移動させ、日本軍との対決に備えよ」
「了解!同志スターリン閣下!」
将軍たちは敬礼し、各自自分の持ち場へと戻っていく。そんな中、セルゲイ中佐はスターリンにある事を耳打ちする。
「日本にいる同志たちから連絡がありました」
「何、日本にも我が同志たちがいるのか?」
「はい、彼らは名を日本赤軍と名乗り、ロシアの大使館を通じて接触を図ってきました」
「面白い、彼らに蜂起をそそのかせ」
「了解しました」
ー日本・横須賀ー
ここは神奈川県横須賀市、横須賀港を母港とするアメリカ第七艦隊は、たまたま入港していた空母『USSジョージ・ワシントン』やミサイル巡洋艦『USSジョン・S・マケイン』など5隻を残し、日本列島異世界転移に巻き込まれていた。
そして、司令部が置かれている旗艦『ブルーリッジ』揚陸指揮艦の環境では、自衛隊の事実上統括官である穂高浩二防衛大臣と第七艦隊司令官のジョセフ・ペイロード中将が向き合っていた。
「そうですか、残されたのは我々と沖縄、厚木、座間の部隊ですか……」
「中将、この国の厄介ごとに巻き込んで申し訳ない。あなた方の祖国はここにはない。あるのは社会主義に入り浸るソ連と異世界の国だけだ」
「やはり、あなたの案を飲むしかないな」
「米国人に日本国の主権は及ばない。しかし、要請があれば軍事作戦に協力していただきたい。あなた方の生活は日本政府が最後まで保証する」
「そうするしかないな。イワンが拾ってくれるわけでもなさそうだし、何せ部下の大半が反社会主義だしな」
「では、米軍は独立機動部隊として自衛隊と作戦を共にしてください」
「分かった」
「では」
日本の転移に巻き込まれた米軍は、穂高の提案で自衛隊に準ずる軍事組織、独立機動部隊として再編されることになる。これなら、自衛隊の一部ではなく、変わらず独立した米軍として行動できる。最初は難色を示したジョセフ中将だったが、祖国を失った彼らにとって、生活を保証してくれることは喜ばしいことだった。
その上、米軍には近いうちに起こるであろうソ連との武力衝突の際、父親が果たせなかった社会主義の撲滅を目指す兵士も多い。日本は米軍に好き勝手して欲しくない、裏切ってソ連側につかれては後々めんどうくさい。両方の利害が一致して、この約束ができた。
日本に取り残された米軍は、横須賀の第七艦隊と座間の陸軍、厚木の空軍や沖縄の海兵隊などだった。穂高は、もしもの時は自衛隊の特殊部隊を使って米軍を制圧しようと考えていたのだが、予想以上に成功し安心していた。
その時、穂高の携帯電話に着信が入る。
「もしもし?」
『大臣、島です』
電話の相手は、防衛省が保有する対外諜報機関である防衛省統合幕僚調査室、『MDIS』の長官、島広樹元陸上自衛隊一等陸佐だった。
「どうした島さん?」
『公安調査庁からの情報です。赤が活動を活発化させています。どうやら、ソ連という存在を感知して、接触を図ろうとしているようです』
赤とは、国内に潜伏する共産主義過激派や、工作員の隠語である。島曰く、これまで地下組織として活動してきた赤の数組織が、表立って行動を開始したということだ。
『その他、北系組織も赤と合流。重火器で武装し、蜂起する可能性があります。おそらく、ロシア大使館が絡んでいます』
「分かった。君の所の対テロ部隊をロシア大使館へ、潜伏先へ警視庁のSATと陸自のSに強襲させる」
『分かりました。では、作戦を開始します』
「悪い芽は早くに摘み取った方がいい」
ー日本・東京某所ー
ここは東京のとある場所、半島系工作員と合流した日本赤軍は、横流しされた武器を手に、来る蜂起に向けて準備をしていた。
「親愛なる同志諸君!ついにこの時が来た!地下に潜伏して40年、我々はついにこの国を労働者の楽園とすることができるのだ!」
指導者は声を荒げて宣言する。廃工場を本拠地としている赤軍は、これから各人が車に分乗し、政府中枢施設を占拠する予定だ。彼らの手には、K-2やscorpionが握られている。
その時だった。工場へ続々と陸自の装甲車が到着し、果ては都市戦に特化したAH-1SSコブラ改やUH-1JSヒューイ改が数機が飛来してきた。門番は何事かと銃を構えて発砲するが、その前に軽装甲機動車の備え付けM2機関銃の銃弾に倒れる。
「じ、自衛隊の特殊部隊だ!」
「くそっ、どうしてここが分かったんだ!?武器を持て!応戦するぞ!」
特殊作戦部隊専用に改造された96式装輪装甲車が工場の扉をぶち破って中へと突入する。まさか装甲車ごと突撃してくるなんて想像していなかった赤軍兵士は、装甲車に押し潰される。
そして、後部ハッチから吐き出された特戦群の隊員が、一人ずつ赤軍兵士の命を刈り取っていく。
『グラディエーター1-1、降下ポイントに対空機関砲を発見、排除する』
コブラ改が20ミリ機関砲で屋上を掃射し、ロケット弾で武装した赤軍兵士を薙ぎはらう。安全が確認された屋上に、ヒューイ改から特戦群の隊員たちが懸垂降下する。
「突入!」
屋上から中へと突入した隊員が、M4カービンで赤軍兵士を射殺していく。彼らに与えられた命令は逮捕ではない。テロリストに対するカウンター攻撃だ。
「くそっ、逃げるぞ!」
自衛隊の突然の強襲に勝ち目がないと悟った指導者は、数人の護衛を連れて反対側から脱出を図る。しかし、そんな彼らを自衛隊が簡単に逃がしてくれるわけがない。
「ハートショット、エイム」
指導者が脱出すると見越して、工場の反対側の山に待機していた狙撃チームは、高性能のスナイパーライフルであるブレーザーR93LSR2のスコープを覗いていた。
スポッターの指示通り引き金を引くと、指導者の胸に338ラプアマグナムが命中する。遅れてターン!という銃声がこだまする。
「ヘッドショット、エイム」
膝から崩れ落ちた指導者の頭への射撃は、もはや百発百中だった。確実に殺害するために、心臓を撃ち、動きが止まってから頭を撃つ。なぜかというと、動いている状態でヘッドショットを狙うなど、神業に近いからである。
同時刻、都内の雑居ビルに警視庁のSATが突入し、犯行グループ30人中5人を射殺、25人を逮捕した。一方、ロシア大使館へ強制捜査を行った対テロ要撃部隊であるSOF(Special Operation Force)は、ロシア大使がソ連とコンタクトを取っていた物的証拠を押収。これにより、ロシア大使はスパイとして逮捕された。
本日の投稿はここまでです。