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4.不穏な空気

ー日本・対馬沖ー


「何があったんですかね霧島二佐?」


「俺に聞くなよ、バカだからわからん」


副機長の長浜の質問を、霧島は軽く流す。


「こちらサンダー1、いつも通り穏やかだ」


『サンダー1、全部隊に警戒命令が発動されている。何が起こるかわからない、注意しろ』


「了解、もう少し沖へ出る」


操縦席に座る霧島誠二等空佐は、いつもの哨戒コースを少し外れ、沖へと向かう。


「霧島二佐、レーダーに反応です」


レーダー要員の一等空曹がレーダーに何か映っていることに気づく。それは、三隻の船影であった。すぐさま霧島は本部に通達する。


国防の最前線、朝鮮半島が目と鼻の先にあるこの島は、古来より国防の重要地として様々な設備が建設されていた。


陸自駐屯地、海自基地、空自基地、対水上レーダー、対空レーダー、地対空ミサイル基地、地対艦ミサイル基地、その多くが対馬に接近する謎の船団を探知していた。


『哨戒中のP-1より通信、所属不明艦を発見。方位2-2-5、距離300km』


『島内各基地より通信、所属不明艦が対馬へ接近中』


『地対艦ミサイル部隊、防衛準備完了』


『海自護衛艦、現場へ急行中』


『対馬警備隊、島内各所に配置完了』


『島民の避難誘導開始、避難完了まで1時間』


対馬防衛本部には、各基地からの通信が逐一報告される。今回の転移騒動で、対馬は在日外国人による暴動も起こっていた。防衛本部は陸自に暴動を強制鎮圧させ、すぐさま所属不明艦に対する作戦を開始した。


『護衛艦しきしま、はつせ、みかさ、所属不明艦に接触』


海上自衛隊、対馬警備隊の護衛艦三隻は、対馬へ進路をとる謎の艦隊へと接近する。上空からは、霧島二等空佐の操縦する航空自衛隊の新型哨戒機P-1が随行する。


「こちらサンダー1、不明艦を目視にて確認。戦闘艦、艦橋にソビエトの赤旗が確認できる。巡洋艦2、輸送艦1、武装は艦首に速射砲、ミサイル発射器、艦尾に機関砲、ミサイル発射器が確認される」


『サンダー1、彼らに攻撃の意思はないのか?』


『こちらサンダー1、これだけ接近しても砲一つ動かさない、おそらく攻撃の意思はないと思われる』


『了解したサンダー1。そのまま監視行動を継続せよ』


『サンダー1、了解』


コールサイン『thunder1』のP-1哨戒機は、三隻の周りをゆっくりと周回する。ふと、パイロットが三隻を確認すると、三隻とも回頭し、元の航路を戻っていった。


『ソ連艦が回頭』


『了解、しきしま、はつせ、みかさが警戒する。EEZ付近まで警戒せよ。』


こうして海上自衛隊の護衛艦三隻は、目的が分からぬ神ソ連海軍の巡洋艦及び、輸送艦を排他的経済水域外まで出て行くのを見送った。



ー日本・羽田空港ー


羽田空港に到着した飛行機から、二人の男が東京の地へ降り立つ。日焼けしたように浅黒い顔に、ギルシア皇国の王冠を被るエンズ・ギルシア。もう一人は金髪をウルフカットにし、やる気のなさそうな顔をするホーキュンズ・フローランスだ。


「すげぇ……」


「ここが彼らの言う首都、トーキョーか……」


「エンズ、ひょっとして俺たち、すげぇ国に助けられたことはないか?」


「そうかもしれないな……」


二人が搭乗橋を渡り、日本の外務省の外交官に連れられてエントランスへとやってきた。エンズは不思議に思う、これだけ大きな空港なのに、自分たち以外に人が見当たらないのだ。


「あの、人がいませんが……」


「ご安心ください。陛下と護衛の方がお越しになるため、空港は封鎖中です。もっとも、まだ転移の混乱によって飛行が制限されてますからね」


外交官はそう言って笑う。ホーキュンズが周りに目を凝らすと、複数の視線を感じた。この建物の中に、警備隊員が狙撃銃や小銃を構え、見えないところから自分たちを護衛していた。それだけでも、ここの警備隊員が練度が高いことを示している。ちなみに、空港を警備するのは警視庁のSATと、銃器対策レンジャー部隊だ。


外交官に案内されたのは空港の特別室。ここは防音加工がされており、余談ではあるが盗聴対策も万全である。


「しばらくお待ちください」


温かい緑茶と菓子が出され、二人は椅子に座りながら異世界の茶と菓子を吟味する。どれも自分たちの舌に合う美味しいものだった。


「失礼します」


透き通るような綺麗な声と共に入ってきたのは、日本国内閣総理大臣、田沼健三だった。


「日本国内閣総理大臣、田沼健三です」


「ギルシア皇国、皇帝のエンズ・ギルシアです。こちらが護衛のホーキュンズ・フローランスです。よろしくお願いしますタヌマ総理」


「ようこそ日本へ、お二人の来日を心よりお祝い申し上げます。さて、我々は陛下が乗っていた難民船を拿捕したわけでありますが、これまでの経緯を話していた出せますか?」


「いいでしょう。私たちの国は2年前、北のノルス地方に転移してきた神聖ソビエト社会主義共和国連邦という国家と接触を図りました。しかし、彼らは我らに属国化を要求し、平和のために共に繁栄するという交渉は頓挫しました。我が国は神ソ連との間に国家を一つ挟んでおりましたので、いずれ来るであろう赤軍に対抗する時間を得ることができました。そして、去る1週間前、ついに隣国を制圧した赤軍が越境し、国境近くにあった皇都を爆撃し始めました。私は部下の将軍に、海を挟んだ隣国のラムダ共和国へ亡命するよう手配しました」


「その道中、ギルシア革命軍と名乗る神ソ連の工作員に船を占拠され、ニホンの海軍に助けられたんだよな?」


「彼の言うとおりですタヌマさん」


そうしてエンズは田沼に頭を下げる。


「タヌマさん、私の国を救っていただきたい」


話を聞く田沼は、自分が厄介な事項に首を突っ込んでしまったと半ば後悔していた。聞けば、ギルシア皇国は神ソ連と争う対立関係だ。そんな敵対国家のトップをかくまっていれば、自ずと神ソ連と敵対することになる。


しかし、だからと言って彼を助けないわけにもいかない。第二次大戦後、平和国家として長らく世界平和に貢献してきた日本にとって、神ソ連による侵略行為は到底許しがたい。田沼は人生の中で最も重大な決断を強いられていた。


「我が国としては、そのような侵略行為を断固として認めるわけにはいきません。あなた方の身の安全は保障します。しかし、我が国も昨日この世界に転移してきたばかり、正直なところ自分たちの生活を取り戻すのに精一杯なんです」


「そこをどうか!どうか、我が同胞を救っていただきたい!」


「俺からもお願いします!こいつは、なりたくない皇帝になって、下手ながらも国家のために尽くしています。こいつが作り上げたあんな良い国を、失いたくないんです!」


護衛であるホーキュンズも頭を下げる。エンズ・ギルシア、自分より若く、その上皇族という位の高い身分の彼が、自分に頭を下げて懇願する。断りきれない状況だった。


「我が国は……」


「えっ?」


「我が国は国家の1トップが独断で国の方針を決めることはありません。全ては日本国民一人ひとりの意思によって成り立ちます。我が国は無資源国家、どのみち何処かの国と貿易しないと何もできない半端な国です。残酷なことを言いますが、いくらお人好しと言われた我が国でも、他国の戦いに自国民の命を危険にさらすことなどできません」


死刑宣告、エンズにはそう聞こえた。それもそうだろう、何の関わりのない他国のために自国の軍隊を派遣するなど、到底考えられないことだった。しかし、かすかに希望はあった。


「我が国は、資源が豊富です」


「例えばなんでしょう?」


「国内の原油埋蔵量は1000億b以上。天然ガスも豊富です。鉄や銅、その他希少鉱物などは南部で盛んに産出されています。これらの貿易を優先して貴国と行います。これでもダメでしょうか?」


エンズの言葉に、田沼はあり得ないという顔をする。しかし、無資源国家であり備蓄も少ない日本にとって、これだけおいしい話はない。


「分かりました。それで手を打ちましょう」


「で、では?」


「貴国と正式に国交を樹立します。そして、安全保障条約を締結、貴国の平和を脅かす敵対勢力を排除いたします」


「ありがとうございますタヌマ総理」


「いいんですよ。これで我が国も死活問題を解決できそうですし。今日は私が用意する宿に泊まってください」


そう言いながら部屋を去っていく田沼の背中に、エンズはしっかりと頭を下げた。

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