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1.異世界からの訪問者

ー日本・静岡県ー


2035年、それはとある夏の日差しが照りつける日だった。陸上自衛隊の特殊作戦群に所属する風間桂吾二等陸尉は、自らが率いる小隊を連れ、静岡県の駿東郡小山町に存在する陸上自衛隊東富士駐屯地にて、樹海付近の森を使って、実戦さながらの戦闘訓練を行っていた。


「こちら第三小隊、敵、11時の方向に発見、狙撃手による排除を要請する。オーバー」


「狙撃班スナイパー配置についた、しばし待て」


ACOGサイトを付けたM4カービンから目を離さず、ただひたすら前を凝視する。特殊作戦群に正式配備されてから30年以上経っても、財政の関係で今だに特戦群の主力小銃であるM4カービンには少なからずの愛着がある。風間がそう思った次の瞬間、目の前にいた敵役のレンジャー隊員の頭にペイント弾が命中する。訓練で使うペイント弾のため、怪我はしない。


「GO」


ハンドサインで前へ進めと命令する。すると、先ほどまで草しかなかった場所から、ぞろぞろと迷彩服に偽装スーツを着たレンジャー隊員達が現れ、二手に分かれて突き進む。


『こちらA班、ポイントα確保』


『 こちらB班、ポイントβ確保』


「こちら本隊、全ポイントの確保を確認、作戦成功ミッションコンプリートだ」


司令部に作戦の終了を通達され、今回の戦闘訓練に参加していた特戦群と、東富士駐屯地に所属するレンジャー隊員たちがぞろぞろと出てくる。


「本郷!全員いるか?」


「問題ありません、全員います」


「訓練は終了だ。各員荷物をまとめて習志野へ戻るぞ」


隊員たちは迎えに来ていた73式大型トラックに分乗する。荷台の両サイドに座った隊員たちは、いつもの張り詰めた雰囲気ではなく、そこいらの一般人と変わらない表情になる。


「そういえば隊長、もう少しで沖縄に上陸する巨大台風、ものすごいらしいですよ」


風間の横に座る本郷忠陸曹長が、愛用のレミントン社製M24狙撃銃を手入れしながらそうつぶやく。


「せっかく四国じゃ復興が本格化してきたのに、運がねぇな」


そう言うのはMINIMI軽機関銃を担ぐ大柄の隊員、米内誠陸曹長、風間班では原則階級を無視することになっている。米内は今年で38歳になる風間班の最古参の隊員であり。25歳になったばかりの風間より経験が豊富で、実質では風間班のリーダー的存在である。


「米内さん、奥さんやお子さんが心配ではありませんか?」


「そんなこったない、あいつは俺以上にタフだ。まぁ、我が子共々心配だがな。一回電話でも入れとくか」


「その方がいいですね、ただでさえ最近の任務は大変ですし」


「いーなー結婚……」


2人の会話を聞いていた22歳の風間班最年少隊員、剣豪俊哉三等陸曹は、米内を羨ましげな表情で眺める。


「なんだぁ坊や?嫁さんが欲しいのか?」


「そういや俊哉、画面村のボカロさんは元気か?」


「うぅ、もーいいです隊長。俺、基地に帰ったら○クたんと結婚するんだ」


「フラグ……発動だナ」


「うわっ、こいつ死亡ふらぐおっ立てやがった!」


「誰か折ってやれ、このままじゃ俺たちまで巻き添えくらう!」


数人がワイワイしていると、1人の隊員が手を叩く。長身の隊員で、88式鉄帽の上部に、自腹で買ったアメリカ軍の最新微光暗視装置QUADEYE、通称四つ目暗視装置を付けているのが特徴だ。


「そういや基地にあったお前のボカロゲーム、無断持ち込みだったから群長に渡しといた」


「おぉおう、まい、ごっどぉお!」


「やっぱ有田は一級フラグ回収士!」


「うぅ……なんてことするんですか」


「訓練終わったのに元気ですね〜」


そんな話を聞きながら基地を目指してトラックを走らせていた運転手の自衛官は、ハンドルを握りながらふと前方の空を見つめる。


「カラス……?」


昼間からカラスが群れをなして空を飛んでいる。トラックは国道に入り、習志野駐屯地に向けて走り出したが、突然、運転席にある無線がけたたましく鳴り響く。


『こちら習志野駐屯地司令部、東富士駐屯地に出向中の全隊員に告ぐ。先ほど政府より第一種警戒態勢が発令された、各隊は駐屯地への帰還を中止し、東富士駐屯地にて警戒態勢を取れ、繰り返す、帰還は中止だ』


「皆さん、というわけで予定を変更し、再び東富士に戻ります」


「分かった。よろしくたのむよ」


風間達を乗せた三両の73式トラックは、車が少なくなった国道を迂回し、東富士駐屯地へ向かう。


ー日本国・東シナ海ー


現在、台風が上陸した沖縄に向けて、一隻の船が突き進んでいた。九州、長崎の佐世保基地に所属する第13護衛隊所属のいそゆきである。


いそゆきの基準排水量は2950t、全長130m、全幅13.6m、喫水4.2m、速力56km、戦後12隻と最も開発されたマルチロール護衛艦である。


「艦長、やはり沖縄基地との連絡はつきません、レーダーにも沖縄が確認されません」


「引き続き通信を続行してくれ、あと、沖縄基地以外に、嘉手納アメリカにも交信してくれ」


「了解しました」


いそゆきの艦長である博多剛二等海佐は前方の積乱雲を見つめる。艦橋から30km離れた空に、沖縄全域を覆う巨大な低気圧が見える。いそゆきの任務は、連絡が取れなくなった沖縄への直接調査である。


「だいぶ風が強くなったな」


「これまで生きてきた中で、1番恐ろしいと思います」


「佐藤くん、やはり沖縄とは連絡がつかないか?」


「確認してみます」


程なくして、一方の無線が入ってくる。


「艦長!沖縄基地所属の艦船と連絡が付きました!繋ぎます!これは……はやぶさです!」


「こ……ちら沖な……ち所属、沿岸護衛艦はやぶさ……現在基地が消滅した……め、救援を要請……る」


「こちらは佐世保基地、第13護衛隊所属のいそゆきである。状況を知らせよ」


「はやぶさ艦ち……長原だ……、この台風はな……おかしい、やつの下にあった物が……て消滅し……、本艦の後方に……まっている。いそゆきは……の事態をすぐさま……報こ……撤退せよ」


「はやぶさ!応答せよ、はやぶさ!」


「艦長!本艦の前方に例の積乱雲!」


「くっ!面舵いっぱい!全速力でこの海域から離脱する!」


「面舵いっぱい!」


いそゆきは回頭し基地へ帰還しようとするが、時速50kmを越す速さで、積乱雲が迫ってくる。


「こちら艦尾格納庫!雲がすぐそこまで迫っている!」


「もうダメです!艦はすでに雲に飲み込まれてしまいました!」


「艦のコントロールが効きません!」


博多は激しく揺れる中、必死で無線機にしがみつく。


「こちらいそゆき!本部応答せよ!」


「こちら佐世保基地、どうしたいそゆき?」


「艦長の博多だ!台風に捕まった!沖縄はすでに消滅してっ!?」


砲撃されたような衝撃が艦内を襲い、博多含めた海自隊員達が吹き飛ばされる。幸い死傷者はいなかったが、隊員のほとんどが気を失ってしまう。


「全員無事か?」


「な、なんとか……」


「か、艦長、外を……」


見張りの隊員に指をさされた方向を見る。そこには、エメラルド色をした海原が広がっていた。


「俺たちは、東シナ海にいたんじゃ……」


「東シナ海って緑色だったか?」


「艦長、沖縄と、沖縄基地との通信が回復しました。それとはやぶさからも」


「無事だったのか!?長原はなんて言ってる?」


「はやぶさの長原艦長より通信、GPSが使えない状態なので、一時、奄美大島の沿岸護衛艦隊基地に帰投せよとのこと」


博多は操舵士に進路を変更するように伝えようとするが、それよりも前に見張りの隊員が水面に浮かぶ何かを発見した。


「本艦右舷10km先に国籍不明船!方位0-3-5!」


艦橋にいた全員が双眼鏡を覗く、タンカーのような外見をした客船が、九州に向けて航行しているのを発見した。


「沖縄基地に連絡、国籍不明船が日本の領海に接近中だとな。あと、はやぶさの長原艦長にも連絡をいれろ。無事なら近くにいる海上保安船にも応援を要請しろ」


「了解!」


「速力上げ、不明船と並行して航行せよ」


いそゆきは速力を上げ、客船に近づく。客船は日本では見たことのない形の客船で、速力15ノットというゆったりとしたスピードで動いている。側面にはギルシア皇国と書かれており、艦橋には見たことのない国旗が掲揚されていた。


並行して数分後、近くを航行していた海上保安船きりしま型巡視船、あきしま他二隻が現場に駆けつけてくる。


「巡視船、合流完了」


「あきしま、警告出します」


警告の役割を果たす警笛をあきしまが鳴らし、日本語で警告を発する。


『こちらは日本国海上保安庁である。貴船には日本国領海に侵入しつつある。速やかに領海外へ進路を変更し、日本国領海より退去せよ』


「不明船アンノウン、動きなし」


「何回も呼びつづけろ」


不明船に対して警告は日本語、英語、中国語、韓国語の順で3回ほど繰り返すが、それでも不明船は何の反応もしない。


「立入検査隊の準備が整いました。」


「接近せよ、左舷から接舷する!巡視船に援護を要請しろ」


「甲板に複数の人影、あれは銃?」


『こちら立入検査隊、隊長の瀬川です。艦長、甲板にいる武装船員に対する実弾使用の許可をいただきたい』


無線の相手は立入検査隊の隊長を務める水雷士の瀬川二等海尉からだった。相手が武器を持っていると断定した場合、武器の使用が許可される。


「身の危険を感じた場合は躊躇なく使用せよ。誰一人死ぬことは許さん。」


『了解しました』


「艦砲を甲板に向けろ。」


いそゆき搭載の62口径76mm単装速射砲が甲板に向けられる。この行為が後に日本を戦乱へと巻き込む第一歩だったとは、この時誰も予想しなかった。

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