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プロローグ

だいぶ前に投稿していた小説の一部を流用いたします。ソビエト好きの皆様には、作者のソ連に対する悪過ぎる表現の仕方に深くお詫び申し上げます。

事の始まりは一ヶ月前の巨大台風だった。


ー日本国•東京ー


「台湾東部で発生した台風は、次第に勢力を増しつつ、明日の午後2時ごろに日本列島を直撃します。なお、今回の台風19号は過去に類を見ない超大型の台風になると予測され、その勢力は計り知れないほど強力と思われます」


ニュースキャスターがモニターに映った天気図を見て説明する。いつもと変わらない天気予報のテレビ放送だ。政府公用車に乗り、首相官邸に戻る内閣総理大臣、田沼健三はずっとテレビから目を離さなかった。


「やはり全国に避難勧告を発令したほうが良くないか?」


後部座席、田沼の横に座る穂高浩二防衛大臣は、同じようにニュースを見ながらそう言った。彼は田沼の大学時代の同期で、大学在学中は唯一のライバル同士でもあった。


「全く……、やっと被災地復興が軌道に乗り始めたのに、乗り始めたらすぐにこれか」


今年、前年度まで政権を握っていた民主党の支持率が急落し、野党の自民党が世論の後押しで政権を獲得し、俗に言う政権交代が起こった。自民党は公明党と連立政権を確約し、昨年起こった四国を中心とする南海大震災の復興に力を入れ、領土問題を解決、目覚ましい活躍を見せた。


そんなさ中に台風、田沼は周りの官僚たちから不幸体質と呼ばれているが、今ほどとことんツキに恵まれていないと実感したのは初めてだろう。むしろ、今までの幸運が嘘偽りの様にも感じる。


「はぁ、四国に派遣中の自衛隊の状況は?」


「順調に復興支援を始めている……と言っておこう」


「仕方が無い、まだ津波の影響が大きいからな。満足に活動出来ないのも無理はないだろう」


田沼はため息をつくと、腕を組み、座席にもたれかかる。


「笹倉、これからの予定はどうなってる?」


「総理、午後6時から今回の国際フォーラムに関しての記者会見が行われます」


「取り消しだ、今は台風に対する対策を立てるのが最優先事項だ、記者の皆には申し訳ないと言っといてくれ。あと、内閣を招集しろ」


「かしこまりました」


助手席に座る秘書は、もくもくと携帯に耳を傾ける。


「しかしえらくデカイ台風だな。850hPaなんて初めてじゃないか?」


「恐ろしいよ、これほどまでに気圧が低い低気圧が日本列島に直撃するなんて」


「陛下にも連絡はいれておいた、ひとまずは安心だ」


「なぁ穂高、今朝起こったことなんだが。沖縄の与那国島上空にあった人工衛星ひばりが通信を途絶したのを知ってるか?最初に台風が上陸したところだ」


「少しおかしくないか?幾ら何でも衛星が姿を消すなんて。北の新兵器か?中国の破壊工作か?」


「それに、与那国島に引かれてる海底ケーブルがぶっつり。こりゃなんかあるぜ?」


「万が一の事がある。全国の基地に第一種警戒配備で待機と連絡してくれ、それと原?」


田沼は秘書の原を呼ぶ。


「全国に避難勧告と外出禁止令を発動しろ。死にたくなかったら家にいろと。従わなかったら警察署でもどこでも安全そうなところにぶち込んどけ」


「分かりました」


田沼は秘書にそう告げると、窓から外をみる。


「本当に杞憂であってほしいよ……」


そうつぶやくのだった。

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