勇者アゲイン
【クリアデータを保存しますか】
はい
いいえ
▶はい
■ ■ ■
あぁ、まただ。
また新しい冒険が始まってしまった。
これで何回目だろうか?
いつしか俺は、数えることをやめてしまった。
『強くてニューゲーム』なんて機能、一体誰が考えやがったのだろうか。
たとえ魔王を倒そうとも、世界を救おうとも、俺の冒険は終わらない。プレイヤーの気が済むまで、延々と戦わされることになる。
あるいはアイテムコンプリートのため、あるいは能力カンストのため……。
どうやらプレイヤーは、今回は仲間を連れない縛りプレイに挑戦するようだ。俺は前回の冒険で手に入れた最強の武器を手に、孤独な冒険へと身を投じることになるのだろう。
どうして、俺は戦っているんだ……?
気づけば俺は、自分が戦うことの意味を忘れてしまっていた。
モンスターを倒し、人々から称賛される……同じ行為を、俺は何度も何度も何度も何度も繰り返している。
共に戦った仲間も、救った人々も、次の冒険になればみんな俺のことを忘れている。喜びも、苦しみも――分かち合った全てを、覚えているのは俺だけだった。
プレイヤーの快楽を満たすために、ただのキャラクターでしかない俺は、その心を、精神を、蝕まれていった。
今日も俺は、戦い続ける。
何も考えずに、作業的に、剣を振るい続ける。そうでもしないと、俺の心は本当に、壊れてしまうから。
プログラムとして生まれた俺は、命じられるまま、俺の善悪の判断など関係なしに、モンスターを殺している。
もう何度魔王の額に剣を突き立てたかなんて覚えてはいないが、今の俺は勇者でもなんでもない、そこらの虐殺犯と大して変わらぬ存在だ。そしてそのことを知っているのは、この世界で俺だけだった。
もう……疲れた。
終わることのない日々を、繰り返される時間を、早くデリートしてくれ。
さっさと次のゲームに心奪われて、このゲームのことなんて綺麗さっぱり忘れてくれ。
そらで言えるほどに幾度も耳にした村人Bの言葉を耳にしながら、俺は切にそう願うのだった。