残した言葉
先程の崩れた床の見えない底を遠目で見ながら、四人はその部屋を後にした。
「さーてよ、こっからどーいくっかな」
アゲハは一帯を見回すと、四方八方に伸びている廊下に嫌気がさしてくるようだ、とても面倒な顔をしながら頭の後ろで手を組む。
「あたし、こういう広いマップって、ゲームの中でも迷子になるんだよね」
「ゲームの中でもって……現実でもそうなのか?」
「あったりまえじゃん!」
綺麗にブイサインを決めるマカを見てその場にいる一同が同じことを考えた。
(誉めてないけどなー)
「まー、行ったり来たりしてたら何かしら着くだろう」
「アゲハも頼りないなぁ……」
ライトが頭を悩ませていると、いきなりの警告音が止まり、今度は辺りのマップが次々に変わっていく。
「わぁ、な、何!?」
四人でかたまり、マップが変わりきった所でやっと気を落ち着かせていた。
「なんだったんでしょうか? 今のは」
ライトが辺りの確認をしながら声を出すとすぐ横にいたライムが小さく声を出した。
「きっとあいつが仕組んでるんだ」
「え? 」
上手く聞き取れなかったライトが、もう一度聞こうとするがその暇もなくまたしても警告音が鳴り響く。
「あぁあ! うっるせぇぇえ!!」
「あぁ! もう! アゲハの方が煩いよぉ!」
「よし! こうなったらこの音よりおっきい声だしてやろうぜ!」
「うん! そうしよう!」
「「わぁぁぁああ!!!」」
どちらが煩いかで大声を上げている二人の盛大に煩い声と警告音であとの二人は耳を塞いでいた。
その警告音が鳴り止んだ後、いきなり画面上にノイズが走る。
「どうなってるんですか!?」
ライトも辺りの異常な状況に不安を募らせていた。
ノイズが終ると画面上が赤く点滅し、コンピューターが警告を知らせてくれた。
「ウイルス発生時刻まであと30分、直ちに制御室へ向かい、解除ボタンを押してください、繰り返しますウイルス発生まで、あ、と、ささ、サ、サ、ザ、ジ、ジ、ガ、ガ、イ、イ、イ、イ…………」
その後はプツリと電波が途絶え、いきなり右隣にあった赤い扉が開く。
「ね、ねぇ何?! ウイルスって何!?」
「風邪ひくのか?」
「そんな軽いものだったら良いけれど」
アゲハに突っ込みを入れ、マカに落ち着くように声を掛けると、ライムがゆっくり歩き出す。
「ライム? 」
「迷ってる時間はない! 今いかないと……」
そう言い捨てるとライムは先に走り抜けた。
三人もライムを見失わないように追いかける。
遥か彼方に見える上に扉が閉ざしているこの部屋の出口に向かって四人は走った。
部屋の中間辺りになると、先程入ってきた部屋の扉が閉まったことに最後列にいたマカだけが気づいていた。
扉につくと固く閉ざされた扉は開けようとするが、びくともしなかった。
「どうやって開けるんだ!?」
「早くしないと時間が……」
三人が焦っているなか、ライトが近くにある変に窪んだ岩肌を見つけた。
試しに押してみると、先ほどまでびくともしなかった扉が上にスライドされてゆっくりと開いていった。
「やったぁ!」
「さっすが、ねーちゃん! さっさといこうぜ!」
ライトが手を離し四人が潜ろうとすると、一気に扉が落ちる。
「え?」
「きっと誰かが押さえてなければならないんですね」
「そんな……」
辺りの空気が悪くなっている時、マカが岩肌を押し、扉を開ける。
「皆、悩んでる暇は無いよ! 先にいって!」
「マカ!?」
マカがガッツポーズをしながら笑顔で三人を見ていた。
「あたしはさっき入った扉から別ルート見つけていくから!」
三人がが必死に止めているとき、またしても警告が流れた。
「あと、25分」
その声を聞き、再度時間がないことを知り、焦り始めるライムの背中を優しく押してみせた。
「行ってきて」
「……! 絶対止めてくるから!」
「うん、またね! ライム! アゲハ! ライト!」
マカが見守るなか、三人は扉を越えた、マカが手を離したと同時に扉が閉まる。
ライムは見えなくなるまでマカを見ていた。
姿が消える直前アゲハが前に出て叫んだ。
「おい! 絶対迎えに行くからな!」
「うん! 迎えに来て!」
その言葉を聞き、ライムも、それを見ると、振り返り足を進めた。
「行こう!」
寂しさを振り切り、前へと足を進める。
一方マカは扉を茫然と見続けていた。
後ろを振り向いても扉は閉まっていることを知っているから、後ろは振り無なかない。
三人の足音も聞こえなくなり、何も聞こえなくなった。
ただ聞こえるのは自分の鼓動だけだった。
「……なんだか……懐かしいな」
こんなに静かなのは児童施設にいた頃以来だ。
マカは壁に凭れるように座り込み、辺りを見回した。
あの日の事故で両親を亡くして以来、施設へ預けられたマカは塞ぎがちで、いつもお外で遊ぶお友だちとは反対にマカは広いお遊戯室で一人で遊んでいた。
そう、まるで今の状況みたいに。
そんなことを考えていると涙がマカの服に溢れ落ちた。
「私も……」
「私も皆と一緒に行きたかったなぁ」
そんなことを呟くとマカは涙を拭い、気をたしかに持とうと立ち上がる。
「ダメダメ! 我が儘言ったら! 待とう! ここで皆を!」
ガッツポーズを作るとマカは何度か魔法を使って扉を開ける。方法を探したが、どれもこれも無駄に終わった。
魔力も尽きて疲れはてたマカはそのまま仰向けに横になると、目を閉じる。
(あのあと、あの人が施設に来て私を引き取ってくれて、優しいお母さんとお父さんも出来て、ゲームをしてたらカシファと出会って、楽しく遊んだり、そういえば私がカシファの部屋の窓ガラスを割って怒られたときもあったなぁ~)
そんなことを思い出していると、微かに揺れていることに気がついた。
「ん?」
マカが上半身を起こすと揺れは更に強くなり、壁が崩れだし岩肌が剥き出しになる。
「え!? 」
立ってはいられないほどの揺れがマカを襲い、何かが崩れるような、そんな音が聞こえ、マカは天井を見上げた。
天井も壁が崩れだし、岩が降り注いで来ていた。
しかし、魔力も尽きているマカにはどうすることも出来なく、次々降り注ぐ岩を避けるのでやっとだった。
岩が落ちる反動で床が揺れ、自由に身動きが取りずらいが、なんとか逃げきっていた。
ドォン!
「あ!」
すぐ後ろに大きな岩が落ち、バランスを崩し、転倒するマカに無数の岩が降り注いだ。
暫くして岩と瓦礫と化した辺りは砂ぼこりが立ち込め、静寂が戻っていた。
その真ん中に小さな岩が振り募った所があった。
そこが微かに揺れ、中からマカがなんとか出てきた。
だが傷だらけでそこから動くことは不可能だった。
滴る血を見ながらマカは最後ににこりと笑って見せた。
それを境にマカの体はゆっくりとデリートされて行き、消える間際にマカが小さく言葉を残した。
「皆……頑張って……」
その言葉を残しマカの体は消えてしまった。
とっても……暗い……デス。




