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幽霊界事情

作者: 蒼崎 恵生

恋愛経験ゼロに等しく、人生経験も深いと は言えない高2なのだが、俺は、友達から 何かと相談を持ちかけられる。


もっとも苦手なのは恋愛の悩みを持ちかけられること 。


友達いわく「イケメンだから話しやすい 」。『外見の整ったヤツイコール恋愛経験 豊富』という認識らしい。


そこそこ整った 顔立ちだと、自分でも思う。口にはしない けど。だからって、恋愛経験豊富かどうか は『人による!』だろ。


とは言え、悩んで るヤツを放っておけないから、つい相手の 話を聞いて、共感したり慰めたりしてしま う。




数ヵ月前から、どうしてだか、とある 桜並木が気になっている。通学路の河原に ある桜並木なんだけど、ある1本の桜の幹 から、なんつーのかな、誰かの気配や、こ っちへの視線を感じる。それも、誰もいな い時に。


よく、桜の木には幽霊が憑きやす いって言うけど、まさかな?俺、霊感ない し。



例の桜から視線を送られたような気が した夜。


風呂を出て自室に戻ると、俺は変 な悲鳴をあげるハメになった。


「うわぁあ !なんだお前!どこから入った!」


「姿を 見せたのは初めてだったな。我は貴様の背後霊だ」


自称背後霊は、偉そうに腕を組み、俺のベ ッドに腰掛けていやがる。十七歳の俺と、 そう変わりない顔つき。ムカつくくらいカ ッコいい。


信じがたい話だが、どうせなら 、清楚系で小悪魔っぽい背後霊と対面した かった。じゃなくて!


「幽霊が、何の用だ!」


「貴様、我の存在を信じるのか?普通 、泥棒や不審者などと疑うシチュエーショ ンだろう?」


「疑いたいのは山々だけど、 そんな堂々と侵入されたらかえって怪しすぎて、何て訊いたらいいか分からんわ!」


最初びっくりしたのがウソみたいに、俺は 背後霊とやらと普通にしゃべっていた。


背後霊は鼻で笑うと嬉しそうに、


「予想通り 、お人好しな男だな、貴様は」


「俺も、た った今、幽霊に対するイメージ変わったわ ……」


あきれ口調で返す俺に、そいつは言った。


「まあいい。その方が我もやりやす い」


「いったい何を企んでやがる」


「貴様の学校へ行く途中、桜並木の河原があるだろう? 明日、我を連れてそこに向かえ」


「 頼み事にしちゃ、ずいぶん簡単だな」


成仏 できないから一緒にあの世へ行ってくれ、 なんて言われたら、全力で拒否するとこだったぜ。


ていうか、こいつ、俺が高校生や ってること知ってるんだ。まあそうか、背 後霊だとか言ってたもんな。


「別にいいけど、あの桜並木に何か思い残したことでも あんの?」


「行けばわかる」




翌日の夜。背 後霊に指示され、こんな時間にも関わらず 俺は桜並木にやってきた。


「ここでいい」


ヤツが指定してきたのは、偶然にも、前か ら気になっていたあの桜の木の下だった。


誰もいない、春の夜。夜空を包むように咲 き誇る桜の木々。綺麗な桃色と藍色の空は 、不気味なくらいマッチしている。



急に黙 り混んだ背後霊につられ、俺もなんとなく 口をつぐんだ。


桜吹雪の中、男と二人きり 。慣れない状況にむずがゆさを覚え、何で もいいから飲み物くらい買って来ればよか ったと後悔しはじめた頃、背後から少女の 声が聞こえた。


「こんばんは。お待たせし てごめんなさい」


あわてて振り返ると、申 し訳なさそうにうつむく少女の姿があった 。このコ、どこかで見たことある。誰だっけ? ずいぶん幼いな。


「あのっ、突然すみ ません。私の名前は……」


少女の名前を聞 いて、背筋が冷えた。


このコは、同じクラ スのリュウヤの妹だ。リュウヤんちに行っ た時、何回か会ったことがある。


でも、リ ュウヤの妹は、半年前に肺炎で亡くなった って……。


「私が死んだ時、お兄ちゃんを 励ましてくれてありがとうございました。 お兄ちゃんが彼女にフラれてヤケになって た時も、親身に励ましてくれていましたよ ね。そんなあなたが、ずっと好きでした。


他人のために泣いて、他人のために熱心に なってくれるあなたが」


このコは……。リ ュウヤの妹は、わざわざそれを伝えるため だけに、この桜の木の下で俺を待ってたの か……?


リュウヤの妹は、俺の考えを読ん だみたいにうなずき、


「どうしても、あな たにもう一度会いたくて……。成仏できず にいました。


でも、私は最近幽霊になった ばかりの新人霊で、直接生きてる人に話し かけることはできないんです。なので、サ クさんに相談し、あなたに会わせてもらい ました。


幽霊界の掟では、最高級の資格を 持つ上級幽霊だけが背後霊に昇格し、生き ている人と会話できるんです」


俺の背後霊 ・サクは、幽霊界の中では上級幽霊っつー 偉い部類になるのか。


「サクさんのおかげ であなたに会えた。やっと、成仏できます 」


リュウヤの妹は、崩れた砂山みたいに、 あっけなく消えた。


「……なぁサク。あの コ、俺なんかじゃなくリュウヤの家族に会 わせた方が良かったんじゃないか?」


「そ れは、原則禁止されている。何より、あの コの悲願なのだ。受け入れろ」


相変わらず 偉そうなサク。


桜の季節を、初めて切なく 感じた。



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