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止まった刻

作者: シルフィア
掲載日:2013/03/07

何となくです。

母死んでます。


源良は女です。

暖かくなり始めた日だった。


寒い日も嫌いじゃなかったけれど、暖かい日のほうが好きだった。


そう、あの日までは。


「本日の天気は晴れで、春の陽気がかんじられるでしょ・・・」


ニュースキャスターが最後まで言う前に、僕はテレビを消した。

一人暮らしの家に沈黙が降りる。

もう一度テレビをつける気にはならず、電気を消して部屋に向う。


その前に、仏壇寄った。


「今日も、何もなかったよ。母さん」


仏壇には優しそうに微笑む母の姿がある。

その写真は唯一母の映っているものであり、元々僕も一緒に映っていた。


仏壇を後にした僕は部屋に向う。

殺風景なそこには必要最低限の家具しかおいていない。


明日は晴れ。

春の陽気。


寒い日が続いた冬が終わって、やっと春を感じられるようになった日。

嬉しくて、つい外に出てしまいたくなるような日。


そんな日に、僕は悪夢を見た。


家の前の道に出て、芽吹き始めた梅の木を見た。

小さな蕾がたくさんついて、もうすぐ花が咲きそうだった。

いずれ咲くであろう白っぽいピンクの花を思って微笑んでいた。


次に見たのは赤い花びら。

数えきれないほど飛び散って、僕の足下にも舞い散った。


「え?」


花びらだと思ったのは血で、母が僕を抱きかかえて倒れていた。

近くにはへこんだ車、僕たちを残して去って行く。


「お母さん?」


母は僕の声に答えなかった。


「あぁぁぁぁぁぁ!」


僕は自分の声で目が覚めた。

叫び声をあげたせいで喉が痛い。


冷や汗をかいていて、肩が震えていた。

今の僕にはその寒ささえ心地よく感じる。


また、夢を見た。


母が死んでしまったあの日。

僕をかばって死んでしまったあの日の夢。


もう何年も前の話だけど、僕は一度だって忘れた事はない。

あの日から、僕は晴れた日に外に出られなくなった。

日の光を浴びると頭が痛くなる。

当時の友達には吸血鬼とか、悪魔とかののしられたけれど、全く気にはならなかった。


家の中で、たった一人で、母を思って生きて行く日々も、僕は嫌いじゃない。

それ以外の行き方なんてもうとっくの昔に忘れてしまった。


単身赴任の父は家に全く帰ってこないけれど、口座にお金が振り込まれる。

お金さえあれば父に用はない。


あった事さえない父に、興味なんてないのだ。


『ピンポーン』


インターホンが鳴った。

この家に訪れるのは、何も知らないセールスマンか、宗教の勧誘か、お情け程度の回覧板くらいだ。

そっと扉を開けるとそこには男の人が立っていた。


「おお、本当にいた」


明るい声には驚きが含まれている。

外観なんて気にしないから、庭は草が生えっぱなしになっているし、お化け屋敷に見えない事もない。


「こんにちは。新郷歩しんごうあゆむ君だよな?」


「はい・・・そうですけど、何か?」


その男性はニッと笑って手を差し出して来た。


「オレの名前は源良! 孤児院ファイリートルゥーの職員だ。今日はお前を迎えに来た」


孤児院? 迎え?


「そう、お前んとこの親父さんから連絡があってな、保護してくれるようにって頼まれたから」


ああ、ついに顔も知らない父も僕を見捨てたのか。

落胆もないけど嬉しい事でもない。


「お前さ、学校いってないだろう? 小学校も中退してるし」


「外に・・・出られなくなったから」


今日も外は晴れていて玄関から外には出られない。


「話は聞いてるよ。まあ、おいで」


手を引っ張られて、太陽の下にさらされる。


体が焼ける。

頭の中で警報が鳴る。


『逃げろ、はねられる。また、失う』


どうしようもなくうずくまっているとふと誰かの体温を感じた。


「母さん?」


「大丈夫。大丈夫だよ。外は怖い事ばっかりじゃない。目を開けごらん」


人の体温というのは妙に落ち着くもので、僕はゆっくりと目を開けた。


目の前には僕があの日見上げた梅の木。

その木には満開の梅の花が咲き乱れていた。


あの年から、その外に出られなくなって見る事が叶わなかった梅の花。


「やっと、見れた」


「ほら、綺麗だろう?」


横には源さんの姿があって、不思議と外が怖くなかった。


「僕は・・・許されていいのかな?」


僕が、あの日、外に出なければ

上なんか見上げていなかったら

母は死なずにすんだかもしれないのに


「罪は一生消えないよ。でも、それを一緒に背負って行く事ならできる」


「それを望んでいいの?」


「当たり前さ。さて、オレと一緒に来てくれるかな?」


差し出された手を、僕は思い切ってつかんだ。


「一緒に行こう。お前は、一人じゃないよ」


あの日で止まってしまった僕の『刻』はこの日、動き出した。

気分を害さない程度に読んでくだされば本望です。

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