鉄槌
短編です
※自殺に関する描写が入っています。苦手な方はご注意ください。
少し気弱で、優しい俺の息子。良い子で、わがままもほとんど言わない、子供にしては少しおとなしすぎるかもしれないと思うが、社会人になれば、こういう優しさが必要になる。それを子供の内から持っているなんて、ある意味才能だろう。
そんな優しい息子の様子が少しおかしい。
「どうした?」
「ん~、なんでもない」
いつもなら学校の話をたくさんしてくれるのに。この頃から、息子は物をなくすことが増えた。
「また筆箱失くしたの?」
「今日は上履き?先週は体操服だったじゃない!」
妻の疲れた金切り声が家に響く。息子は困ったように笑って“ごめんなさい”とだけ言った。
「まぁ、丁度サイズも入りきらなくなってたんじゃないか?新しいの買うタイミングだったんだよ」
俺は妻をなだめて、息子と一緒に新しい体操服と、上履きを買いに出かけた。
偶然同級生と思しき子供たちとすれ違った時、息子が隠れるようにして俺の後ろに回ったのを見逃さなかった。うすうす気づいてはいたが、こんなハッキリしたサインは初めてだった。
「学校で嫌なことでもあったのか?」
息子の肩が震えた。顔が青くなっていく。学校は何をしているんだ。
俺は翌日、息子と共に学校に行って、校長と教頭、そして担任に詰め寄った。
「うちの息子は優しいから、標的にされてしまう!あんたたち大人がちゃんとしないと、優しいうちの息子が割を食うんだ!」
素早くその場を収めたい教師陣は、へらへら笑いながら“気を付けておきます”なんて軽い返事をした。俺は頭に血が上ったようになって、そこから数時間、教師陣に説教をしてしまった。
校長室を出ると、出入り口に人だかりができていた。見世物じゃないぞ。
群衆の中に息子がいた。息子を安心させるために、合図を送ると、息子は照れたように顔をそむけてしまった。恥ずかしがり屋だなぁ。
小学校ではその後虐められることは無くなったみたいだったが、中学に上がった頃、また息子の様子がおかしくなった。
制服で学校に行ったのに、体操服で帰ってきたり、体に痣が出来ていたりした。
「またやられたのか?」
息子は押し黙ってしまった。あの小学校で同級生だった子が、同じ中学にいたらしい。まったく、せっかくいじめっ子と関わらなくていいように、少し遠い場所の中学を探したって言うのに。
俺はまた、あの時と同じように、学校に意見を伝えに行った。
小学生の頃の担任たちはずっとヘコヘコしていたけど、中学の担任たちは、反論をしてくる。生意気な、俺の息子がいじめられているんだぞ!?あんな優しい良い子がどうしていじめを受けなければならないんだ!
俺はあの時同様、大声でまくしたてた。校長室を出るとき、また人だかりができていた。息子はいなかったけど、まぁいい。これで今後の中学生活は、安泰だろう。
その日、息子は自宅で首を絞めて自殺未遂を計り、寝たきりになってしまった。
幸い命はとりとめたけど、一向に目を覚まさない。
妻が息子のベッドに縋りついて泣いている。
俺の中で、真っ黒な感情が渦巻いている気がした。
俺の、優しくてかわいい息子を追い詰めた奴を、俺は絶対に許さない。法律がなんだ、倫理がなんだ。
俺の中で一つの決意が固まった。
——正義の名の元に——
神が許しても、俺は許さない。




