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第九話

 ノクス=ヴァルディスが、静かに手を上げた。


「配置、第二陣形」


 部下三人が散開する。

 互いの距離、視線、魔力の流れ――

 無駄がない。


(あー、これ)


(普通に強い人が、

 厨二の皮かぶってるやつだ)


「来るぞ」


 剣士が低く言う。


 私は、ハリセンを握ったまま答えた。


「大丈夫」


「今回は――

 役割分担、はっきりしてます」


 ノクスが、部下に指示を飛ばす。


「第一、圧力展開」


「第二、詠唱準備」


「第三、牽制――」


「はいストップ」


 私は、前に出た。


「指示、長いです」


 ノクスの眉が、わずかに動く。


「……何?」


「戦闘中に説明口調なの、

 指揮官としてどうなんです?」


 一瞬。


 空気が、揺れた。


 ノクスが、舌打ちする。


「……言葉の綾だ」


「綾、多すぎません?」


 その瞬間。


「今だ!」


 剣士が、突っ込んだ。


 ノクスの結界が展開される――が、遅い。


「――っ!」


 魔法使いが、詠唱を完了させる。


「拘束陣、展開!」


 地面に光が走り、

 部下二人の足が止まる。


「なっ……!」


 回復役が叫ぶ。


「今なら、前に出れる!」


「了解!」


 私は、ノクスに向き直った。


「さて」


 ハリセンを構える。


「あなた、“観測者”って言いましたよね」


「戦場を管理する役」


 ノクスが、冷静を装って答える。


「そうだ」


「なら」


 一歩、踏み込む。


「自分が殴られる未来、

 観測できてました?」


 パンッ!!


 ハリセンが、ノクスの仮面を打つ。


 結界が、ひび割れる。


「ぐっ……!」


 ノクスが、後退する。


「……なるほど」


 息を整えながら、笑った。


「君一人なら、

 確かに対処できた」


「だが」


 周囲を見渡す。


「仲間を使うとは思わなかった」


 私は、肩をすくめた。


「使ってません」


「一緒に戦ってるだけです」


 剣士が、剣を突きつける。


「俺たちは、

 あんたの部下じゃない」


「命令されなくても、

 動ける」


 魔法使いが続ける。


「指示がなきゃ崩れる連携は、

 連携じゃない」


 ノクスは、しばらく沈黙した。


 そして――笑った。


「……撤退だ」


 黒い煙が、周囲を包む。


「この戦い、

 我らの敗北だろう」


 最後に、私を見る。


「だが覚えておけ」


「漆黒の闇同盟は、

 “適応”する」


「次は、

 ツッコミ前提で来る」


 煙が晴れた時、

 ノクスたちは消えていた。


 静寂。


 剣士が、息を吐く。


「……勝ったな」


 回復役が、笑った。


「生きてる……」


 魔法使いが、私を見る。


「モブさん」


「はい?」


「あなた、

 前に出るだけの人じゃないですね」


 私は、ハリセンを肩に担いだ。


「ツッコミは、

 場を整える役です」


「場が整えば」


 仲間を見る。


「みんな、ちゃんと強い」


 遠くで、鐘が鳴った。


 ギルドへの報告。

 評価更新。

 そして――


(これ)


(もう、

 私一人の問題じゃないなー)


 漆黒の闇同盟は、確実に動き出している。


 そして私も。


 ギルドの奥。

 普段は開放されない資料室で、私は一冊の古い記録を読んでいた。


「……これが、“漆黒の闇同盟”」


 紙は黄ばみ、

 何度も書き直された跡がある。


 隣で、年配のギルド職員が低い声で言った。


「正式名称は

 《漆黒の闇同盟ナイト・アビス》」


「単なる犯罪集団じゃない」


 ページをめくる。


 そこに書かれているのは、

 被害報告ではなく、

 対処失敗の記録だった。


「発足は、およそ二十年前」


「最初は、

 “力を得た厨二病患者の互助会”

 程度だった」


(互助会って……)


 だが、次の行で空気が変わる。


「だが彼らは、

 妄想を共有し、

 設定を“統一”し始めた」


 職員が、淡々と続ける。


「個人の妄想は脆い」


「だが、

 複数人で同じ設定を信じ、

 役割を分担すると――」


 指で、文字を叩く。


「現実に近づく」


 私は、喉を鳴らした。


 記録には、こうある。


・同盟員三名で、Bランクパーティ壊滅

・防衛都市の外壁、一夜で崩壊

・国家騎士団、討伐失敗


(……強すぎない?)


「ギルド単独では、

 対処不能と判断された」


 職員の声が、重い。


「各国が連携し、

 幹部級の情報を集めているが」


 首を振る。


「全貌は、未だ不明」


 私は、昨日の戦いを思い出す。


 ノクス=ヴァルディス。


 無駄な動きがなく、

 部下が命令一つで動く。


(あれで“下位”か)


 職員が、最後に言った。


「漆黒の闇同盟が恐れられている理由は、

 強さだけじゃない」


「彼らは、

 学習し、適応する」


「倒された原因を分析し、

 次は必ず対策を打つ」


 一拍、間を置いて。


「今回、

 彼らがあなたに興味を持ったのは――」


 視線が、私に向く。


「初めて、

 “理解できない敗因”だったからだ」


 私は、ハリセンを見る。


「……つまり」


「私、

 想定外ってことですね」


 職員は、苦く笑った。


「そうだ」


「だからこそ」


 静かに告げる。


「漆黒の闇同盟は、

 あなたを無視しない」


「いや、無視していいから‥」

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