第八話
ギルドの奥。
普段は使われない、小さな打ち合わせ室。
私は、椅子に座らされていた。
(あ、これ指名だ)
向かいには、見覚えのある三人。
――街道で助けた、あのパーティ。
「改めて、礼を言う」
剣士が、頭を下げた。
「次は、
ちゃんと倒したい」
受付嬢が、淡々と書類を並べる。
「今回の依頼は、
指名依頼です」
「対象は、
以前交戦した厨二病患者」
「活動区域は、
前回と同一」
彼女は、私と三人を見比べた。
「編成は四名」
「モブさん、
あなたが中心です」
(え、私中心)
剣士が、少し照れたように言う。
「俺たちは、Cランクだ」
その言葉に、私は内心で頷いた。
(なるほど)
ギルドのランクは、
GからSまで。
G、F、E――
見習いや登録したてが多い。
Dランクになると、
一人前を超えた“ベテラン”扱い。
Cは、その上。
地域の主力。
安定して依頼をこなし、
ギルドから信用されている層。
B以上は、
街や国家からも名前を覚えられる。
Aは英雄予備軍。
Sは――伝説。
(つまり)
(この三人、
普通に強い)
受付嬢が、続ける。
「前回、
正面戦闘で敗北」
「その後、
モブさんが単独で撃破」
「よって――」
紙を差し出した。
「戦術を変更します」
魔法使いが、真面目な顔で言った。
「今回は、
あの人に合わせる」
「俺たちは、
援護に徹する」
回復役も頷く。
「前に出ません」
(判断が早い)
私は、手を挙げた。
「あの」
「はい?」
「一応確認なんですけど」
三人を見る。
「設定語り、
始まったら止めていいですか?」
剣士が、即答した。
「止めてください」
「全力で」
「命がかかってます」
受付嬢が、少しだけ笑った。
「報酬ですが」
銀貨の枚数が、書かれている。
(……多い)
昨日のソロ依頼とは、
桁が違う。
「成功すれば、
追加評価あり」
「今後の方針にも影響します」
(ギルド、
本気だな)
打ち合わせが終わり、
外に出る。
剣士が、剣を担ぎ直した。
「……なあ」
「モブさんでいいのか?」
私は、少し考えてから答える。
「仮名です」
「そのうち、
ちゃんとした名前つけます」
魔法使いが苦笑した。
「その時まで、
生きていましょう」
「はい」
私は、ハリセンを構えた。
「じゃあ行きましょう」
「再戦です」
今回は、
負ける理由がない。
――そう、全員が思っていた。
問題の地点は、前回と同じ廃道だった。
だが。
「……静かすぎる」
剣士が、低く呟く。
気配はある。
だが、一人じゃない。
(来たな)
私は、ハリセンを構えたまま、前へ出た。
その時。
「――配置につけ」
男の声が、闇の奥から響いた。
ぞろり、と。
木々の影から、三人の厨二病野郎が姿を現す。
全員、黒装束。
全員、無駄に気取った立ち姿。
(うわ、統率取れてる)
そして最後に――
拍手の音。
「素晴らしい」
ゆっくりと、もう一人が前に出てきた。
長身。
黒い外套。
胸元には、意味ありげな徽章。
「初めまして、と言うべきかな」
男は、胸に手を当てる。
「漆黒の闇同盟・第三執行席」
一拍置いて。
「――《黒印の観測者》
ノクス=ヴァルディス」
(役職名、長い)
魔法使いが、息を呑む。
「……幹部、だ」
ノクスは、こちらを値踏みするように眺めた。
「君が噂の」
視線が、私に向く。
「“幻想を否定する存在”か」
「否定っていうか」
私は首を傾げる。
「設定ガバを指摘してるだけです」
一瞬。
ノクスの口角が、上がった。
「ほう……」
「なるほど」
「確かに、
それは我らにとって天敵だ」
彼は、部下たちに視線を送る。
「愚行は許可する」
「だが――」
指を鳴らした。
「独り語りは禁止だ」
部下たちが、ぴしっと姿勢を正す。
「……了解」
(統率力、高っ)
剣士が、低声で言う。
「今までと、
空気が違う……」
ノクスは、私を見据えたまま言った。
「君は、一対一を得意とする」
「だが、今回は違う」
黒い魔力が、地面に走る。
「連携された妄想は、
一つの現実となる」
(あー、
厄介な理屈持ってきたな)
私は、深く息を吸う。
「じゃあ、確認します」
「ほう?」
「あなた」
ハリセンを向ける。
「自分の役職と能力、
ちゃんと説明できます?」
一瞬、空気が止まった。
ノクスは、ゆっくりと答える。
「私は“観測者”」
「戦場を管理し、
同盟員の妄想を破綻させない役目だ」
(……やば)
(こいつ、
ツッコミ耐性ある)
ノクスは、微笑んだ。
「どうした?」
「得意の指摘が、
出てこないようだが」
私は、口角を上げた。
「いえ」
「方向性が変わっただけです」
一歩、前に出る。
「あなた自身じゃなくて」
部下たちを指差す。
「その連携、
一人でも理解できてます?」
部下の一人が、ぎくっとした。
ノクスの眉が、わずかに動く。
(よし)
(統率型には、
内部崩しが効く)
剣士が、剣を構える。
「……合図をくれ」
「了解」
私は、ハリセンを振り上げた。
「じゃあ始めましょうか」
「漆黒の闇同盟・初幹部戦」
ノクスが、静かに告げる。
「記録しておこう」
「君が、
どこまで幻想を壊せるかを」




