表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/19

第七話 幕間

 薄暗い大広間。

 壁一面に刻まれた、意味深そうで意味のない紋様。


 その最奥、玉座に腰掛ける男がいた。


 長い黒衣。

 顔の半分を覆う仮面。

 やたらともったいぶった姿勢。


 ――漆黒の闇同盟・総帥 アストラル。


「……報告を」


 低く、芝居がかった声。


 跪く部下が、震えながら口を開く。


「はっ……

 最近、各地で“覚醒途中の同胞”が……」


「倒された、ということか」


「は、はい……」


 アストラルは、ゆっくりと指を組む。


「おかしいな」


 独り言のように呟く。


「我らは、選ばれし存在。

 本来、凡俗の冒険者などに敗れるはずがない」


 部下は、言い淀んだ。


「……倒したのは、

 熟練の剣士でも、高位魔導士でもないとの事です」


「ほう?」


「武器は……

 紙束のような物体」


 沈黙。


 数秒後。


「…………」


 アストラルは、深く息を吐いた。


「それは武器ではない」


「で、ですが……

 それで頭部を打たれ、

 精神集中が崩れたと……」


「…………」


 アストラルの肩が、わずかに震える。


「……つまり」


 ゆっくり、言葉を選ぶ。


「設定が、通らなかった……と?」


 部下は、首を縦に振るしかなかった。


 アストラルは立ち上がる。


 マントが、無駄に翻る。


「愚かな……」


 だが、次の瞬間。


 その口元は、わずかに歪んだ。


「……面白い」


 玉座の前に立ち、宣言する。


「我らの世界に、

 “理解者”ではなく、“否定者”が現れたか」


 拳を握る。


「良いだろう」


「ならば、こちらも本気を出すまでだ」


 仮面の奥の瞳が、妖しく光る。


「“ツッコミ”で壊れる幻想など、

 より強固な妄想で塗り潰せばいい」


 大広間に、声が響いた。


「告げよ、同盟員たちに」


「これより先、

 “単独行動”は禁止とする」


「そして――」


 アストラルは、愉快そうに笑った。


「その女を、探し出せ」


 朝のギルドは、少し騒がしかった。


 依頼掲示板の前。

 冒険者たちが集まり、いつもより声が荒い。


「またかよ……」


「今月に入って、何件目だ?」


「低難易度区域だぞ?

 普通おかしいだろ」


(……ん?)


 私は、受付に向かう足を止めた。


 ざわつきの中心には、

 見慣れた三人組――昨日助けたパーティがいる。


「昨日の件、正式に報告する」


 剣士が、真剣な顔で言った。


「敵は一人。

 だが、俺たちじゃ歯が立たなかった」


「身体強化、簡易結界、

 魔力放出……」


 魔法使いが続ける。


「どれも中級以上。

 なのに、あの言動です」


 受付嬢が、静かに頷く。


「……ありがとうございます」


 その横で、

 年配のギルド職員が、腕を組んだ。


「最近、多すぎる」


 低い声。


「“中二病患者”の出現報告が、

 明らかに増えている」


 ギルド内が、しんと静まる。


「単発なら、

 変わり者の危険人物で済む」


「だがな」


 職員は、掲示板の一角を指した。


「出現地域が、広い。

 しかも、移動している形跡がある」


「組織的……ってことですか?」


 誰かが、喉を鳴らして聞いた。


「可能性は高い」


 受付嬢が、きっぱりと言う。


「そのため、

 本日より方針を変更します」


 彼女は、紙を掲示板に貼り出した。



【ギルド通達】


・単独での厨二病患者討伐は禁止

・低難易度依頼でも三人以上で行動

・異常な言動・能力を確認した場合、即時撤退

・討伐部位より目撃証言を重視



 冒険者たちが、どよめく。


「厳しすぎないか?」


「逃げろって……」


 職員が、重く頷いた。


「逃げるのも、立派な判断だ」


「相手は、

 “まともな理屈が通じない強敵”だ」


(……あー)


(完全に、

 私が昨日言ったことと同じだ)


 私は、壁際でそっと手を挙げた。


「あのー」


 全員の視線が集まる。


「はい?」


「ツッコミ役、

 呼んだ方がいいって言いましたけど」


 一瞬の沈黙。


 そして。


「……あ、あなたは」


 昨日のパーティが、こちらを指差した。


「昨日、あいつを……」


 ギルド内が、ざわつく。


「ハリセンで?」


「一瞬だったぞ……」


 受付嬢が、私をじっと見る。


「……あなた」


「名前は?」


 私は、少し考えてから答えた。


「モブです」


「…………」


「前世モブだったので」


 職員が、額を押さえた。


「……仮登録名でいい」


 受付嬢が、深く息を吸う。


「モブさん」


「はい」


「あなたの戦闘報告、

 すでに複数届いています」


 彼女は、真剣な目を向けた。


「正直に言います」


「あなたは、例外です」


 ギルド全体が、静まり返る。


「現在、

 我々はこの現象を“災厄の前兆”として扱っています」


「そして」


 一拍置いて。


「あなたは、その中で唯一、

 確実に対処できる存在です」


(え、嫌な予感)


 受付嬢は、穏やかに――

 だが逃げ場のない笑顔を浮かべた。


「今後、

 指名依頼が増える可能性があります」


(詰みでは?)


 私は、ハリセンを握り直した。


(……やっぱり)


(平穏なソロ生活、

 この世界には存在しない)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ