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第六話

 翌朝。


 ギルドのカウンターに立った瞬間、

 受付の女性がこちらに気づいて手を振った。


「おはようございます。

 昨日の件、確認が取れました」


「どうでした?」


「問題なしです。

 現地は静かで、再発の兆候もありません」


(よし)


 受付の人は、小さな袋を差し出した。


「こちらが報酬になります」


 受け取って、中を見る。


 ――銀貨が、三枚。


 思わず固まった。


「……え?」


「基本報酬に加えて、

 迅速対応と被害ゼロの加算です」


「最低保証って聞いてたんですけど」


「結果が良かったので」


(銀貨三枚)


(銅貨換算で三百枚)


(日本円だと……十五万円相当?)


 一瞬、前世の月末残業代が頭をよぎった。


「……ありがとうございます」


 声が少しだけ震えた。


 受付の人は、にこっと笑う。


「あなたのやり方、

 この街ではとても助かります」


「殴ってるだけなんですけど」


「正しい殴り方です」


 その言い方やめてほしい。


 私は報酬袋を大事にしまい、

 依頼掲示板へ向かった。


 貼られている紙を、順番に眺める。


(今日は……)


 高難易度のものは避ける。

 チーム必須のものも避ける。


(ソロで、

 低難易度)


 目に留まった一枚。


【依頼】

・街道近くの厨二病野郎討伐

・単独行動可

・危険度:低

・報酬:銅貨二十枚


(銅貨二十枚=一万円)


(十分)


 私は、紙を剥がした。


「……行けるよね」


 昨日はチーム。

 今日はソロ。


 少しだけ、不安。

 でも――


(軽度なら、

 私の専門分野だ)


 受付に紙を出す。


「この依頼、受けます」


「単独ですか?」


「はい」


 受付の人は、一瞬だけ迷ってから頷いた。


「……気をつけてくださいね」


「はい」


 ギルドを出る。


 街道へ向かう道は、昨日よりも慣れていた。


 ハリセンを握り、深呼吸。


(大丈夫)


(私は、モブ)


(だから、無理はしない)


 そう自分に言い聞かせながら、

 初ソロ依頼へと歩き出した。


 ――この時の私は、

 まだ知らなかった。


 低難易度、という言葉が、

 必ずしも安全を意味しないことを。


 街道は、思ったより静かだった。


 低難易度の依頼先へ向かう途中。

 草むらが揺れ、鳥が飛び立つ。


(今のところ、平和)


 そう思った――次の瞬間。


「――ぐあっ!!」


 前方から、悲鳴が聞こえた。


 私は足を止め、即座に走り出す。


(戦闘音……しかも複数)


 木々の向こう。

 開けた場所で、三人の冒険者パーティが追い詰められていた。


 相手は、一人。


 黒っぽい服。

 腕を不自然に広げ、口元を歪めている。


「フフ……

 我が“深淵の力”に抗うとは……」


(……野良だ)


 完全に、野良の厨二病野郎。


 だが。


「ちっ……!」


 前衛の剣士が斬りかかるも、

 男の周囲で黒い靄のようなものが弾く。


「効かない!?」


「防御系か……!」


 後衛の魔法が飛ぶ。

 だが、男は腕を振り上げた。


「闇よ――」


 次の瞬間、衝撃波。


 冒険者二人が、吹き飛ばされた。


(……強い)


 冗談抜きで。


 妄言は相変わらず意味不明だが、

 身体強化と魔力操作は、本物だ。


 普通の冒険者が、

 正攻法で戦えば――


(負ける)


 事実、残った一人も膝をついている。


「やめ……ろ……」


「安心しろ。

 貴様らは“覚醒の糧”となる」


(言ってることはクソだけど、

 やってることは危険人物)


 私は、ハリセンを握りしめた。


「――そこまで」


 声を張り上げる。


 全員の視線が、こちらを向いた。


「……誰だ?」


「通りすがりの」


 一歩、前に出る。


「ツッコミ担当です」


 男が、鼻で笑った。


「貴様も理解できぬか。

 我は選ばれし――」


「はいストップ」


 私は、倒れている冒険者を指差した。


「その人たち、

 さっきから普通に命の危機です」


「それが何だ」


「何だじゃない」


 一気に距離を詰める。


 男の周囲の靄が、こちらを弾こうとする。


(……強度、高い)


 普通に殴ったら、弾かれる。


 だから――


「質問です」


「……は?」


「あなたのその“深淵の力”、

 具体的に何が深淵なんですか?」


 男が一瞬、言葉に詰まる。


「それは……

 闇の――」


「闇の何です?」


「……」


「設定、詰めてないですよね?」


 靄が、揺らいだ。


「な、何を……!」


「選ばれし理由、

 説明できます?」


「黙れ!」


 男が魔力を高める。


 今だ。


「ふわっとした設定で強キャラ気取るな!」


 パンッ!!


 ハリセンが、男の頭に入った。


 靄が、霧散する。


「がっ――!?」


 男は、その場に崩れ落ちた。


 静寂。


 しばらくして、

 冒険者たちが、呆然と私を見る。


「……倒した?」


「一瞬で……?」


 私は、ハリセンを肩に担いだ。


「普通に戦うと、

 多分あなたたちの方が正しいです」


 そう言って、男を見る。


「でも」


 ため息をつく。


「相手が厨二病なら、話は別」


 ミナ……ではなく、

 見知らぬ回復役の女性が、震える声で言った。


「ありがとう……

 助かりました……」


「いえ」


 私は首を振る。


「次からは、

 無理に正面から相手しないでください」


「……?」


「ツッコミ役、

 呼んだ方がいいです」


 冒険者たちは、理解できない顔をしていた。


 それでいい。


 私は背を向け、歩き出す。


(なるほど)


(この世界での厨二病は――)


 放置すると、本当に危険だ。


 低難易度依頼の途中で、

 私はその事実を、はっきりと思い知った。

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