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第五話

 帰り道は、来た時より少し静かだった。


 件の厨二病野郎――

 いや、患者さんは、ミナの回復魔法とロルフの説得で、街の治療所へ向かわせた。


(生きてるし、正気にも戻りかけてる)


 この世界では、これで「成功」らしい。


 ギルドに戻ると、受付の女性が顔を上げた。


「あ、お帰りなさい!」


「戻りました。

 見回り完了です」


 ロルフが簡潔に報告する。


「発生源は街道沿いの廃屋。

 対象は一名、現在は治療所へ誘導済み」


 受付の人は、ほっと息をついた。


「怪我人は?」


「なし」


「建物被害は?」


「なし」


「……討伐部位は?」


 そこで、全員の視線が私に集まった。


「ありません」


 即答した。


 受付の人が瞬きをする。


「……え?」


「その人、

 “倒す”より“正気に戻す”タイプだったので」


「首とか、角とか、

 魔核とか……」


「全部ついてましたし、

 持ち帰る理由もなかったです」


 沈黙。


 ギルド内の空気が、少しだけざわついた。


 セイルが補足する。


「現場を確認してもらえれば分かります。

 問題は、もう起きません」


 受付の女性は、少し考えてから頷いた。


「……分かりました」


 紙を取り出し、何かを書き込む。


「この場合、

 現地確認後に報酬支払いになります」


「今日中は無理ですか?」


「はい。

 調査担当を向かわせて、

 明日以降になります」


 私は心の中でガッツポーズした。


(よし、宿代は確保できる)


「金額は?」


「正式な確認後ですが……

 最低保証は出ます」


 ロルフがこちらを見る。


「問題ないな?」


「はい。

 昨日より、かなり余裕です」


 受付の人が、少し申し訳なさそうに言う。


「お手数をおかけしてしまって……」


「いえ」


 私は肩をすくめた。


「部位持ち帰りじゃない依頼だって、

 ありますよね」


「……最近は、増えてます」


 小さな声だった。


 それが、この世界の現実なのだろう。


「では」


 受付の女性は、少しだけ笑って言った。


「明日、結果確認が取れ次第、

 報酬をお渡しします」


「ありがとうございます」


 ギルドを出る。


 夕暮れの街は、少しだけ柔らかい色をしていた。


「初依頼、無事終了だな」


 ロルフが言う。


「ええ」


 私はハリセンを軽く回した。


「首も血もない、

 平和な依頼でよかったです」


 ミナが微笑む。


「この街には、

 そういうやり方が必要なんでしょうね」


 私は空を見上げた。


(……明日には報酬)


(今日のところは、生存確定)


 異世界二日目は、

 思ったより悪くない。


 ギルドを出た時、空はすっかり夜だった。


 明日の報酬は確定。

 最低保証とはいえ、無一文状態は脱出している。


(……今日は、いいよね)


 私は、ギルド併設の飲み屋――

 正確には「冒険者向け食堂兼酒場」に足を向けた。


 中は賑やかだった。


 笑い声。

 皿が置かれる音。

 依頼帰りの冒険者たち。


(ああ……生きてる感)


 空いている席に座ると、店員が声をかけてきた。


「一人?」


「はい。

 おすすめあります?」


「銅貨一枚で、

 今日の定食と飲み物一杯だよ」


 私は即決した。


「それで」


(銅貨一枚=五百円)


(……安くない?)


 ほどなく運ばれてきたのは、

 焼いた肉と野菜、スープ、黒パン。


 湯気が立っている。


「……勝ち」


 思わず呟いた。


 ハリセンを壁に立てかけ、

 私はゆっくりと食べ始める。


(宿の食事も悪くなかったけど)


(これは“外食”だ)


 隣の席では、冒険者たちが話していた。


「最近、街道が静かだな」


「例の妄言野郎、片付いたらしい」


「女一人で?」


「ハリセン持ってたって」


 噴きそうになった。


(もう噂になってる……)


 私は、できるだけ存在感を消して食べる。


 ……が、無理だった。


「――あ」


 聞き覚えのある声。


 ギルドの受付の女性だった。


「今日の依頼の方ですよね?」


「えっと……はい」


 周囲の視線が、集まる。


(やめて、今はただの食事タイム)


「明日、

 現地確認が取れれば正式に報酬出ますから」


「ありがとうございます」


 私は頭を下げた。


 受付の人は、少し迷ってから言った。


「……あの」


「はい?」


「その……

 無理はしないでくださいね」


 一瞬、言葉に詰まった。


「……気をつけます」


 受付の人が去ると、

 店内のざわめきが少し戻った。


 私は、残ったスープを飲み干す。


(銅貨一枚)


(五百円)


(この一杯で、

 今日はちゃんと“報われた”気がする)


 前世では、

 残業後にコンビニ飯を立ち食いしていた。


 それに比べたら。


「……悪くない」


 食事を終え、私は立ち上がる。


 支払いを済ませ、外に出た。


 夜風が、心地いい。


(明日は、報酬受け取り)


(少しは、

 この世界で息ができそう)


 ハリセンを肩に担ぎ、

 私は宿への道を歩き出した。

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