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第四話

 ギルドを出て、街道へ向かう。

 石畳は次第に途切れ、土の道に変わっていった。

 街の喧騒も、背後に遠ざかる。


「発生地点は、この先だ」

 ロルフが地図を確認しながら言う。


「街道沿いの廃れた小屋付近。

 最近、通行人に絡む奴が出てる」


「絡み方は?」


 私が聞く。

「意味不明な演説」


「詠唱っぽい独り言」


「自分を特別視する発言」

 三人が順番に答えた。


「……フルコースですね」

 ミナが少し不安そうに言う。


「被害者は、今のところ怪我人なし。

 でも、精神的に参ってる人が多い」

(物理よりメンタル攻撃型か)

 セイルが眼鏡を押し上げる。


「病気の進行度は軽度〜中度だと思われる。

 ただ、放置すると悪化する可能性が高い」


「悪化すると?」


「自分の妄想を“世界の真理”だと信じ切る」


「……重症ですね」

 私はハリセンを軽く振った。


「早めに止めましょう」

 しばらく歩くと、道の脇に古い小屋が見えてきた。

 半分崩れ、今は使われていないらしい。

 その周囲の空気が、明らかに違う。


「……来るぞ」

 ロルフが低く言う。

 小屋の前。

 誰かが、腕を広げて立っていた。


「――集え、愚かな者どもよ」

(はい、出た)


「我が名は――」


「長い自己紹介は禁止でお願いします」

 反射的に言ってしまった。

 男がこちらを睨む。


「貴様……闇の導きを理解できぬ者か」


「理解したくもありません」

 ロルフが小声で言う。


「……もう始まってないか?」


「始まってます」

 男は、こちらに一歩近づいた。


「我は“覚醒者”、この地を――」


「はいストップ」

 私は前に出た。


「質問いいですか?」


「……何だ」


「あなた、ここに立って何時間目です?」


「時など意味はない!」


「意味あります」

 パンッ。

 ハリセンが、軽く入る。


「通行の邪魔です」

 男がよろける。


「ぐ……っ」

 セイルが目を見開く。


「……効いてる」


「まだ軽度ですね」

 私は冷静に分析した。


「この段階なら、長期入院コースは回避できます」


「な、何を……」


「現実、見ましょう」

 私は、指で地面を指す。


「ここ、ただの廃屋です。

 あなたの拠点でも、聖域でもありません」

 男の表情が揺らぐ。


「ち、違う……ここは選ばれし者の――」


「家賃払ってます?」


「……え?」


「所有権は?」


「……」


「はい、論破」

 パンッ!

 今度は、少し強めに。

 男は、その場にへたり込んだ。


 沈黙。

 ミナが、恐る恐る近づく。


「……落ち着いた?」


「……」

 男は、虚ろな目で頷いた。


「俺は……何を……」


 ロルフが息を吐く。

「制圧完了、だな」


 私はハリセンを下ろした。

「軽症でよかったです」


 三人が、私を見る。

「……モブさん」


 ミナが言った。

「あなた、思ってた以上に適任ですね」


「不本意ながら」

 遠くで、風が吹く。


 どうやら、この世界では――

 今日もツッコミが必要らしい。

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