表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/20

第二話

 街は、思っていたよりちゃんと街だった。


 石畳。

 木と石で作られた家。

 露店の呼び声。


(うわぁ……ファンタジーだ……)

 感動は、三秒で終わった。


「……あの」

 門番の男が、怪訝そうな顔でこちらを見ている。

「入市証は?」


「……え?」

 嫌な単語が出た。


「身分証明書。もしくは滞在許可証」

 私は、何もない腰回りを見下ろした。


(いや、あるわけないよね?転生直後だよ?)


「ありません」

 正直に言った。


 門番の眉が、ぴくりと動く。

「では、入れられません」


「ですよねー」

 軽く流したけど、内心は修羅場だった。


(詰んだ)

 完全に詰んだ。


 金がない。身分証がない。

 住む場所も、知り合いもない。


 しかも異世界。

「……ちなみに」


 私は控えめに聞く。

「これ、野宿ってありですか?」


「もちろん禁止だ」


「ですよねー!」

 思わず声が裏返った。


 門番は腕を組んだ。

「身分のない者は、あの病気持ちか、怪しい者と見なされる」

(あ、病気ワード出た)


「私、健康体です」


「それを証明するものは?」


「ないです!」

 自信満々に言ってしまった。


 ダメだ、私。


 門番が溜息をつく。

「……最近はな、“選ばれし者”を名乗る者が多くてな」


 遠くで、黒マント集団が揉めているのが見えた。

「闇が我を導いた!」


「いや導いてないで‥」

 反射的にツッコみかけて、我慢する。

(今は叩く場面じゃない……!)


 私は深呼吸した。

「交渉、できます?」


「内容による」


「私、働けます」


 門番が笑った。

「仕事を探すにも、身分証がいる」


「ですよねー!!」


 二回目の詰み宣言。

 完全に壁だ。

(異世界転生あるある:最初の村に入れない)

 頭を抱えていると、

 門の脇で小さく掲示板が揺れているのに気づいた。


「……あれ、何ですか?」


「臨時募集だ」


 門番が言った。

「最近、街で妙な騒ぎが多くてな。

 身元不明でも使える仕事を貼っている」


 嫌な予感しかしない。

 掲示板には、太字でこう書かれていた。


【急募】

・街の見回り補助

・精神的に強い者

・妄言耐性あり歓迎

・報酬:仮通行証+食事


「……妄言耐性?」

 門番が頷いた。


「例の病気だ」

 私は、ハリセンを握りしめた。

(ああ、なるほど)


「それ、応募します」


「正気か?」


「正気じゃない人の対応には、 慣れてます」

 門番は少し考え、頷いた。


「では仮登録だ」

 木札を一つ、放ってよこす。


「これが仮通行証。失くすなよ」

 受け取った瞬間、胸が軽くなった。

(……生き延びた)


 ほんの一歩だけど、前進だ。

「ありがとうございます」


「礼は仕事で返せ」

 門が、ゆっくりと開く。


 街の中に、一歩踏み出す。

(身分なし、金なし、後ろ盾なし)


 それでも。

 私はハリセンを肩に担いだ。


「……まずは、今日の寝床確保からだね」

 ギルドは、街の中央にあった。

 石造りの建物で、扉の上には大きな紋章。

 中に入ると、冒険者っぽい人たちが思い思いにたむろしている。


(よし……それっぽい)

 私はカウンターへ向かった。


「すみません。仕事を斡旋してもらったんですけど」


 受付の女性が、にこやかに微笑む。

「はい。では、まずギルド登録を――」

 紙を差し出される。


「登録料は銀貨一枚です」

 私は固まった。

「……ちなみに」


「はい?」


「お金、後払いとか……」


「できません」

 即答だった。

(ですよねー!!)


 やっぱり詰みだ。

「身分証もなくて、仮通行証だけなんです」


「それでも登録料は必要です」


 受付の人は困った顔をしている。

 悪い人じゃない。

(詰み3回目)


 その時。


「フハハハハ!」

 やけに響く笑い声が、ギルド内に響いた。


「我が名は――」

(来た)


 嫌な予感しかしない。

 黒いマント。

 無駄に大仰なポーズ。

「闇に覚醒せし――」


「はいはい、カット!」

 誰かが止める前に、私が前に出ていた。


「自己紹介、長い。

 三行でまとめてください」

 男が私を睨む。


「貴様……我が“漆黒の力”が怖くないのか!」


「怖いのは、その自信の根拠です」


 ギルド内がざわつく。


「我は選ばれし存在――このギルドを支配し――」


「はい、終了」

 パンッ!


 ハリセンが、いい音を立てた。

「ぐはっ!?」

 男がよろける。


「支配とか言う前に、ギルド利用規約読んでから来ましょう」

 パンッ!


「あとそのマント、床引きずってて不衛生です」

 パンッ!


「設定盛りすぎ!」

 男は完全にバランスを崩し、床に倒れた。

「な、なぜ……我が力が……」


「それ、力じゃなくて妄想です」

 静寂。


 次の瞬間、ギルド中がどよめいた。

「倒した……?」


「今の女、一瞬で……?」

 受付の女性が、呆然とこちらを見ている。


「あ、あの……助けていただいて、ありがとうございます!」


「いえ、たまたま近くにハリセンがあったので」

 ‥神様、絶対狙ってやってる。


 受付の人は慌てて奥へ行き、戻ってきた。


「緊急対応として、

 こちらを報酬としてお渡しします!」


 差し出されたのは、

 銀貨数枚と、簡易依頼達成証。


 私は目を見開いた。


「……これ、登録料に?」


「十分足ります!」


 私は即座に銀貨を一枚差し出した。


「じゃあ、登録お願いします」


「はい!」


 紙に名前を書く。


(異世界初の正式登録が、

 厨二病制圧ってどうなの)


 でも。


 手元にはお金。

 登録済みの証。

 周囲の視線も、さっきよりずっと柔らかい。


「……なんとかなった」


 受付の女性が、少し照れたように言う。


「その……また困ったことがあれば、ぜひ依頼を受けてください」


「喜んで」

 私はハリセンを肩に担いだ。


「妄言処理なら、得意分野です」

 こうして私は、ギルド公認・厨二病対策要員として

 異世界での最初の居場所を手に入れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ