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第十三話

 その男は、

 無駄に煙を纏って現れた。

「――フハハハハ!!」


 夜の街道。

 依頼先に向かって歩いていた私の前に、黒いマントが翻る。


「怯えるがいい、Eランク冒険者よ!」

 私は、立ち止まって首を傾げた。


「……誰?不審者?」


「名乗りも知らぬか!」

 男は胸を張る。


「我が名は――漆黒の闇同盟・教育担当!」

「《暗黒導師》グラディオ=ナイトフォール!!」


 沈黙。

 風が吹いた。

 マントが絡まって、男がちょっとよろけた。

「……長くないですか?」


「威厳だ!」


「肩こりそう」


「黙れEランク!!」

 びしっと指を突きつけられる。


「貴様は己の立場を理解していない!」

「女で!」

「Eランクで!」

「装備も満足に持たず!」


「――調子に乗りすぎた」

 私は、ハリセンを持ち替えた。


「えっと」


「今から“教育”されるんですか?」


「そうだ!」

 グラディオは、満足げに頷く。


「恐怖を刻み」

「実力差を思い知らせ」

「二度と逆らわぬように――」


「なるほど」

 私は、手を挙げた。


「質問いいですか?」


「なんだ」


「教育って、殴っていいんですか?」


「当然だ!」


 次の瞬間。

 パンッ!!

「ぐふっ!?」


 名乗りの途中だった。

 グラディオは、地面に膝をつく。

「な、なにを……!」


「教育ですよね」

 パンッ!!


「がはっ!!」


「基礎からですか?」

 パンッ!!


「ま、待て!話が――」


 パンッ!!

 完全に地面に沈んだ。


 私は、少し考える。

「……これ、何ランク相当なんだろ」


 遠くから、通りすがりの冒険者が見ていた。


「あれ、闇の漆黒同盟の……」


「え、Eランクの子に?」

 私は、倒れた男を見下ろす。


「教育、終わりましたけど」

 男は、ピクリとも動かない。


――


 その頃。

 漆黒の円卓。

「教育担当から、連絡がありません」


 沈黙。

「……相手はEランク、だよな?」

 ノクスが、静かに言った。


「だから、言ったのにさ」

 誰も、返事ができなかった。


 ――後日。

 ギルド掲示板に、小さな噂が貼られる。


『Eランク冒険者・モブ※教育不可』

 私は、それを見て首を傾げた。

「教育って、難しいなあ」


 誰も否定しなかった。


――


 漆黒の円卓。

 重苦しい空気の中、扉が静かに開いた。

「……失礼します」


 入ってきたのは、元・教育担当。

 《暗黒導師》グラディオ=ナイトフォール。

 ――だった男。


 マントは畳まれ、煙も出していない。

 姿勢は良く、声は落ち着いていた。

「報告に参りました」


 沈黙。

「……誰だ?」


 誰かが、素で言った。

「グラディオ、だよな?」


「はい」

 即答だが、おかしい。


 いつもの――

 芝居がかった間も、無駄な溜めも、

 大仰な身振りもない。


「教育は……どうなった?」

 アストラルが、慎重に尋ねる。

「完了しました」


「ほう?」


「私が」

 幹部たちが、身を乗り出す。

「――教育されました」


 沈黙が、落ちた。


「……は?」

 グラディオは、真剣な顔で続ける。

「まず、自分が」


「無駄に喋りすぎていたことに気づきました」


「名乗りは短く」

「目的は明確に」

「戦闘は迅速に」


「そして」

 一拍置く。


「相手を“女”“Eランク”で判断するのは、

 致命的な思考停止だと」

 ざわっ。

 円卓が、明確にざわつく。


「な、何を言っている」


「お前は教育担当だぞ?」


「我々の素晴らしさを叩き込む側だろう!」

 グラディオは、首を振った。


「違います」


「我々は、“自分たちの設定”に酔っていただけです」

 誰かが叫ぶ。


「裏切りか!?」


「いいえ」


「更生です」

 ノクスが、静かに呟いた。


「……やっぱりな」

 アストラルが、指を組む。


「教育担当」


「その女は、何をした?」

 グラディオは、即答した。


「何も」


「ただ」


「一切、こちらを特別視しなかった」


「恐れず」

「煽らず」

「敬わず」


「ツッコミました」

 その一言で、

 空気が凍る。


「……ツッコミ?」


「はい」


「我々の行動を」


「言葉を」


「全部、“ズレている”と」

 グラディオは、まっすぐ言った。


「結果」


「私は、自分が

 どれほど恥ずかしい存在だったかを理解しました」

 円卓の一角で、誰かが小さく震えた。


「や、やめろ……」


「そんなこと言うな……」


「設定が……!」


「世界観が……!」

 厨二病患者たちが、

 明確に動揺し始める。

 アストラルは、初めて険しい顔をした。


「……つまり」


「Eランク冒険者モブは」


「敵ではない、と?」

 グラディオは、首を横に振る。


「いいえ」


「天敵です」

 静寂。


「我々は彼女の前では必ず“正気”に引き戻される」


「……それ、最悪じゃないか」


「はい」

 グラディオは、はっきり頷いた。


「漆黒の闇同盟は」


「彼女にとって――」


「ボケです」

 その瞬間。


 円卓のあちこちで、焦りが爆発した。


「どうする!?」

「治療されたら終わりだぞ!?」

「厨二が剥がされる!!」

 アストラルは、歯を食いしばる。


「……認識を改める」


「Eランク冒険者モブ」


「彼女は――」


「戦力ではない」


「敵だ」

 遠く。

 同じ頃。

 モブは、ギルド前で掲示板を見ていた。

「……次の依頼」


「薪集め、か」

 今日も、平和だった。


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