第7章:陰謀と無自覚な解決
セレーナさんの案内で、俺たちはアルストロメリア領へと向かった。道中、彼女から盗賊団についての詳しい情報を聞く。彼らは非常に統率が取れており、まるで軍隊のような動きをするらしい。
「裏にいるのは、おそらく、我がアルストロメリア家と対立している、隣の領地のバルトロ辺境伯でしょう。彼が領地を混乱させ、その隙に利権を奪おうとしているに違いありません」
セレーナさんは悔しそうに拳を握る。なんだか、会社の派閥争いみたいで面倒くさそうな話だ。
「なるほど。じゃあ、そのバルトロさんって人のところに行って、やめろって言えばいいんですかね?」
俺の単純な発想に、セレーナさんとリリアは呆れたようにため息をついた。
「ユウキさん……そんな単純な話ではありません。証拠もなしに乗り込めば、こちらが悪者になってしまいます」
「まずは盗賊団を叩き、彼らとバルトロ辺境伯の繋がりの証拠を掴むのが先決です」
ガレスが冷静に言う。なるほど、順序が大事なのか。社会人としての経験が、こういう場面で少しは役に立つかもしれない。
俺たちは盗賊団のアジトがあるとされる、領内の森へと足を踏み入れた。
「ここからは慎重に行動しましょう。見つかれば……」
セレーナさんが注意を促したその時、俺の足が何かに引っかかった。
「おっと」
地面に張られていた細いワイヤーだ。次の瞬間、俺たちの周囲から無数の矢が放たれた。
「伏せて!」
ガレスが叫び、セレーナさんをかばう。リリアは防御魔法を展開しようとする。だが、それらは全て杞憂に終わった。
「あー、もう、危ないなあ」
俺は面倒くさそうに、飛んでくる矢を全て、素手で掴み取っていた。まるで、ゆっくり飛んでくるボールをキャッチするような感覚で。
「…………」
「…………」
「…………」
まただ。またこの沈黙。いい加減慣れてきた。
「えーっと、敵の罠にかかったみたいだけど……大丈夫そうですね。先に進みましょう」
俺が何事もなかったかのように言うと、三人は魂が抜けたような顔でこくこくと頷いた。
アジトの砦に近づくと、見張りの兵士がこちらに気づいた。
「て、敵襲ー!」
警鐘が鳴り響き、砦からわらわらと盗賊たちが現れる。その数は百を超えているだろう。
「ユウキさん、どうしますか!?」
「うーん、一人ずつ相手にするのは面倒だな……」
俺は少し考えて、足元に転がっていた大きめの岩を拾い上げた。軽自動車くらいのサイズだ。
「えい」
そして、その岩を砦に向かって、デコピンの要領で弾いた。
ゴォォォォッ!
岩は砲弾となって砦に直撃し、轟音と共に砦の門と城壁の一部を木っ端微塵に粉砕した。砦の中にいた盗賊たちが、悲鳴を上げて逃げ惑うのが見える。
「よし、これで入りやすくなった。突撃ー」
俺の号令で、俺たちはもはや砦とは呼べない瓦礫の山へと足を踏み入れた。
アジトの中は、俺の「デコピン」のせいで半壊状態だった。生き残った盗賊たちも戦意を喪失しており、抵抗らしい抵抗もなく、次々とガレスに捕縛されていく。
「さて、親玉はどこかな?」
俺は一人、アジトの奥へと進んでいった。一番豪華な部屋を探せばいいんだろう。そんな単純な考えで、一番大きな扉を開ける。
そこでは、盗賊団の頭目らしき大男が、鎧を着た男と何やら話し込んでいた。
「……だから、バルトロ様からの支援はまだなのかと聞いている!」
「騒ぐな!計画は順調だ。この密書を辺境伯様に届けさえすれば……」
おお、噂をすれば。どうやら、悪巧みの真っ最中だったらしい。
「あのー、すみません。あなたたちがバルト-ロさんの手下ですか?」
俺がのんきに声をかけると、二人はギョッとしてこちらを振り返った。
「な、何者だ貴様!いつの間に!?」
「バルトロ様の名をなぜ知っている!」
二人は慌てて武器を構える。頭目は巨大な斧を、鎧の男は剣を抜いた。
「話が早くて助かります。あなたたちが悪事をやめれば、丸く収まるんですけど」
「ふざけるな!死ねぇ!」
頭目が斧を振りかざして襲いかかってくる。俺はそれをひらりとかわし、彼の後頭部を軽く、ポンと叩いた。
「まずは落ち着いて」
頭目は白目を剥いて、そのまま前のめりに倒れて気絶した。
「なっ……!?」
残った鎧の男は、目の前の光景が信じられないといった顔で硬直している。そして、自分の持っていた密書を懐に隠し、逃げようとした。
「あ、待って。それ、見せてくれませんか?」
俺は逃げる男の前に回り込み、彼の懐に手を伸ばした。
「離せ!」
男は剣を振るうが、俺はそれを意にも介さず、密書をひょいと抜き取った。
「どれどれ……。『アルストロメリア領の混乱に乗じ、麦の独占権を奪取する計画は最終段階にあり』……うわ、すごく悪いこと考えてるな、このバルトロさんって人」
証拠、ゲットだ。
「き、貴様ぁ……!それを渡せ!」
男は血走った目で俺に斬りかかってくるが、俺は面倒になって、彼の鎧を掴んで、そのまま軽々と放り投げた。男は天井を突き破り、夜空の星になった。たぶん。
「さて、と。これで一件落着かな」
俺が密書を片手に部屋を出ると、セレーナさんたちが駆けつけてきた。
「ユウキ様!ご無事でしたか!」
「ええ、まあ。それより、これ。悪巧みの証拠、見つけましたよ」
俺が密書を渡すと、セレーナさんはその内容に目を通し、確信に満ちた表情で頷いた。
「……これで、バルトロ辺境伯の罪を問えます。ユウキ様、本当に、本当にありがとうございます」
彼女は、俺の無自覚な規格外の力によって、陰謀がものの数時間で解決してしまったことに、もはや驚きを通り越して感動すら覚えていた。
こうして、俺は本人のあずかり知らぬところで、貴族間の権力闘争に一つの決着をつけ、その名をさらに国中に轟かせることになったのだった。「あれ?なんかうまくいっちゃったな」くらいの感想しか、俺にはなかったけれど。




