第5章:ダンジョン攻略と無自覚な伝説創造
リリアとガレスとパーティを組んでからというもの、俺たちはギルドからの依頼を順調にこなしていった。といっても、俺が何かする前に、大抵のことは終わってしまうのだが。
そんなある日、ギルドに高ランクの依頼が張り出された。
「未踏破ダンジョン『オルクスの深淵』の初期調査及びマップ作成。推奨ランクA以上」
「オルクスの深淵……。これまで幾多のパーティが挑み、誰一人として一層目すら突破できなかったという伝説のダンジョン……」
ガレスがゴクリと喉を鳴らす。
「面白そうじゃないか。行ってみようよ」
俺の軽い一言で、俺たちの挑戦は決まった。リリアとガレスは「ユウキさんが言うなら……」と覚悟を決めた顔をしているが、俺はただの探検気分だ。
ダンジョンの入り口は、不気味なオーラを放つ巨大な洞窟だった。
「気を引き締めていきましょう。どんな罠があるか分かりません」
リ-リアがそう言って一歩踏み出した瞬間、彼女の足元の床が抜け落ちた。
「きゃあ!」
「リリア!」
ガレスが叫ぶが、落ちていくリリアの体を、俺がひょいと腕を伸ばして掴み、いとも簡単に引き上げた。
「おっと、危ない危ない。床が腐ってたみたいだな」
俺は事もなげに言うが、ガレスは青い顔で床を調べている。
「腐っている……?いや、これは高度な隠蔽魔術が施された落とし穴だ。なぜユウキ殿は反応できたんだ……?」
俺にはただのボロい床にしか見えなかったんだけどな。
ダンジョンを進んでいくと、次から次へと罠が俺たちを襲う。壁から毒矢が飛んでくれば、俺がクシャミをした風圧で全部明後日の方向に飛んでいき、天井が落ちてくれば、俺が「おっと」と軽く手で支えたらそのまま天井が元に戻った。
その度に、リリアとガレスは驚愕と畏怖の表情を浮かべる。
「ユウキさん、今のどうやったんですか……!?」
「ただの偶然だよ。運がいいだけだって」
「「(偶然で片付けられるレベルじゃない……!)」」
二人の心の声が聞こえてきそうだ。
ダンジョンの途中、強力な魔物の群れに遭遇した。ガーゴイルの編隊が、上空から襲いかかってくる。
「くっ、数が多い!リリア、援護を!」
ガレスが大剣を構え、リリアが詠唱を始める。だが、それよりも早く、俺はうんざりしていた。
「なんか、羽虫が多くて鬱陶しいな」
俺はそう呟きながら、先日リリアに教えてもらったばかりの魔法を試してみることにした。
「えーっと、『ウィンドカッター』だっけ?」
適当に呪文を唱え、手を振るう。すると、俺の手から放たれたのは、もはやカッターなどという生易しいものではない、空間そのものを切り裂くような巨大な真空の刃だった。
それはガーゴイルの編隊を一瞬で切り刻み、さらにダンジョンの壁や天井までをも切り裂いて、遙か彼方へと飛んでいった。
ダンジョン内に、ぽっかりと青空が見える。どうやら、ダンジョンを貫通して、地上まで穴を開けてしまったらしい。
「……あ」
やっちゃった、という顔で俺が二人を振り返ると、リリアとガレスは腰を抜かさんばかりの勢いで震えていた。
「……リリア、今の、魔法か?」
「わ、かりません……。あんな規模の『ウィンドカッター』、古文書の中ですら見たことがありません……。もはや、それは魔法ではなく、神の御業です……」
「また大げさな……。ちょっと力が入りすぎただけだって」
俺の言い訳は、もはや二人の耳には届いていなかった。
そうこうしているうちに、俺たちはダンジョンの最深部らしき場所にたどり着いた。そこは巨大な広間になっており、中央には禍々しいオーラを放つ巨大な玉座が鎮座している。そして、その玉座には一体の魔物が座っていた。
全身を黒い鎧で覆い、手には巨大な戦斧を持った、牛頭の魔物――ミノタウロス・ロードだ。
『我は“深淵の主”。愚かなる侵入者よ、我が領域を荒らした罪、その命で贖うがいい』
ボスが、なんかそれっぽいことを言っている。
「ユウキさん、あれがここのボスのようです!私が魔法で動きを止めますから、ガレスさんは攻撃を!」
「おう!」
リリアとガレスは死を覚悟した表情で武器を構える。しかし、俺はそんなことよりも、一つ気になっていることがあった。
「なあ、あいつ、俺たちの帰り道、塞いでないか?」
そう、ミノタウロスがいるのは、俺たちが入ってきた扉の真正面。あいつをどかさないと、外に出られない。
『フン、小細工を!喰らえ!』
ミノタウロスが巨大な戦斧を振りかざし、俺たちに襲いかかってきた。
「うわ、話聞いてないし。邪魔だって言ってるのに」
俺は面倒くさくなって、突進してくるミノタウロスの巨体に向け、軽く手刀を放った。空手チョップみたいな、そんな感じだ。
シュッ。
俺の手刀は、音もなくミノタウロスの鎧を切り裂き、その屈強な体を、豆腐のように真っ二つにした。
真っ二つになったミノタウロスは、何かを理解する間もなく、左右に分かれて崩れ落ち、光の粒子となって消えていった。
しーん……。
広間に、気まずいほどの沈黙が訪れる。
俺は自分の手を見ながら呟いた。
「あれ?なんか思ったより切れ味良かったな。こいつの鎧、見かけ倒しだったのかな?」
その言葉を最後に、リリアとガレスは完全に思考を停止した。二人はただ、ブルブルと震えながら、まるで神か悪魔でも見るかのような目で、俺のことを見つめているだけだった。
こうして、前人未到のダンジョン『オルクスの深淵』は、探検気分の男とその仲間たちによって、たった半日で攻略された。そして、ユウキという冒険者の名は、「手刀でエンシェント級の魔物を一刀両断する理不尽なまでの強者」として、新たな伝説の1ページを刻むことになったのである。本人は全く、これっぽっちも、気づいていないが。




