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第4章:最初の仲間と絶望的なまでの認識のズレ

 Aランク冒険者としての日々が始まったが、俺は相変わらず一番簡単な依頼ばかりを選んで受けていた。薬草採取とか、迷子のペット探しとか。その方が性に合っている。

 そんなある日、俺は街の路地裏で、数人のガラの悪い男たちに絡まれている少女を見かけた。

「おい嬢ちゃん、俺たちといいことしようぜぇ?」

「や、やめてください!」

 少女は怯えながらも、手に持った杖を構えて必死に抵抗している。どうやら魔法使いの卵らしい。

「みっともない真似はやめなよ」

 俺は男たちの間に割って入った。困っている人を見過ごせない、いつものお節介だ。

「ああん?なんだてめえ。ヒーロー気取りか?」

 リーダー格の男が、俺の胸ぐらを掴んできた。

「暴力はよくないと思うけどな」

 俺は掴まれた手を、そっと外そうとした。ただ、それだけ。

 次の瞬間、男は「ぐえっ!?」という奇妙な悲鳴を上げて、数メートル後方の壁まで吹き飛んで激突し、白目を剥いて気絶した。

「「「えっ?」」」

 残りの男たちと、助けた少女が同時に固まる。

「……あれ?なんか、すごい勢いで飛んで行ったな。足でも滑らせたのかな?」

 俺が本気で首を傾げていると、残りのチンピラたちは顔を青くして逃げ出していった。我ながら、今の状況はよく分からない。

「あ、あの……!ありがとうございました!」

 助けられた少女――リリアと名乗った――は、キラキラした瞳で俺を見上げてきた。

「貴方、ものすごくお強いんですね!もしかして、高名な冒険者の方ですか?」

「いや、そんなことは……。ユウキだ。ただのしがない冒険者だよ」

「ユウキさん、ですね!私、駆け出しの魔法使いなんです。よかったら、今度お礼をさせてください!」

 こうして、俺はリリアと知り合った。


 その数日後、俺はギルドの依頼で森の奥に生息するという、少し厄介な魔猪まいのししの討伐に来ていた。森を進んでいると、前方から激しい剣戟の音と、獣の咆哮が聞こえてくる。

 覗いてみると、屈強な鎧の戦士が、件の魔猪と一対一で戦っていた。戦士は手練れのようだが、魔猪の突進力に押され、じりじりと後退している。盾には大きな亀裂が入り、今にも壊れそうだ。

「ぐっ……このままだと……!」

 戦士が体勢を崩したその時、魔猪が止めを刺そうと牙を剥いて突進した。まずい。

 俺は考えるより先に、地面に落ちていた手頃な木の枝を拾い、魔猪に向かって投げつけた。

 ヒュッッ!

 木の枝は槍のように鋭く空気を切り裂き、突進してくる魔猪の眉間に、寸分の狂いもなく突き刺さった。

「ブモッ!?」

 巨大な魔猪は悲鳴を上げる間もなくその場に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。

「…………は?」

 九死に一生を得た戦士は、何が起きたのか分からないといった顔で、倒れた魔猪と、木の枝が飛んできた方向――つまり俺がいる方を、呆然と見ている。

「あ、すみません。獲物、横取りしちゃいました?」

 俺は気まずく思いながら、茂みから姿を現した。

 戦士は俺の姿を見ると、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「……今の……貴殿が……?ただの木の枝で……魔猪を……?」

「ええ、まあ。たまたま急所に当たったみたいです。ラッキーでした」

「……ラッキー、だと……?」

 戦士――ガレスと名乗った――は、信じられないものを見る目で俺を見つめた後、深く頭を下げた。

「命の恩人だ。この恩は必ず返す。俺の名はガレス。元傭兵だ。……よければ、貴殿と行動を共にさせてはくれまいか」


 そんなこんなで、俺はひょんなことから魔法使いのリリアと、戦士のガレスとパーティを組むことになった。リリアは俺の強さに憧れて、ガレスは俺の底知れなさに興味を持ったらしい。

 しかし、このパーティ、致命的な問題を抱えていた。それは、俺と二人の間で、絶望的なまでに認識がズレていることだ。

 例えば、オークの群れと遭遇した時。

「ユウキさん、数が多すぎます!一度退きましょう!」

 リリアがそう叫ぶが、俺は押し寄せるオークたちを鬱陶しく思いながら、パン、パン、と軽い平手打ちで次々になぎ倒していく。

「……あれ?もう終わりか。この程度の敵なら楽勝だね」

 俺は「オークって見かけ倒しだな」くらいの意味で言った。しかし、二人にはこう聞こえる。

「「(この数のオークを『この程度』……!?流石はユウキさん(殿)……!)」」

 二人は俺の言葉に感嘆し、尊敬の眼差しを向けてくる。俺は「なんでそんな尊敬されてるんだろう?」と不思議に思うだけ。


 またある時は、リリアの魔法の訓練に付き合った。

「いきます!『ファイアボール』!」

 リリアが放った火の玉は、直径30センチほど。的の木に当たって、少し焦げ跡をつけた。

「どうでしょうか、ユウキさん?」

「うん、すごいすごい。じゃあ、俺もやってみようかな。こうかな?『ファイアボール』」

 俺は見様見真似で、同じように呪文を唱えてみた。すると、俺の手のひらから放たれたのは、直径5メートルはあろうかという巨大な灼熱の球体。それは森の一角を丸ごと飲み込み、一瞬で消し炭に変えた。

「…………」

「…………」

 リリアとガレスは、開いた口が塞がらない。

「うわっ、やりすぎた!ご、ごめん!なんか思ったより大きく出ちゃった!」

 俺は本気で焦って謝る。

「「(……これが……ユウキさん(殿)の……本気……!?)」」

 二人は俺の謝罪を、「力を抑えきれなかったことへの謙遜」と超絶ポジティブに解釈し、ますます畏敬の念を深めていく。

 会話は常にかみ合わない。俺の常識は、彼らの非常識。彼らの驚きは、俺にとっての不可解。

 このすれ違い勘違いパーティは、本人の自覚なきまま、異世界にその名を轟かせる伝説のパーティとなっていくのだった。

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