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エピローグ:英雄のその後と、変わらない日常

 魔王討伐から、一年が過ぎた。

 俺――勇者ユウキは、英雄として世界中から称えられ、歴史の教科書に載るような人物になってしまった。銅像まで建てられたらしいが、恥ずかしいから見に行っていない。

 王様からは「国の好きな土地をどこでもやろう」と言われたが、俺は王都の外れにある、小さな農地をもらうことにした。豪華な城より、土いじりをしている方が、俺には性に合っている。

 そんな俺の元には、今も様々な依頼や陳情が舞い込んでくる。しかし、大抵のことは、俺の優秀すぎる仲間たちがうまくさばいてくれていた。


 リリアは、その類稀なる魔法の才能を開花させ、「大賢者」として王立魔術院のトップに就任した。今では、彼女が新しい魔法の体系を作り上げている。時々俺のところにやってきては、「ユウキさんのあの魔法、どういう理論なんです!?」と目を輝かせながら質問してくるが、俺にはさっぱり分からない。


 ガレスは、その武勇と人望を買われ、王国騎士団の総長になった。「伝説の傭兵隊長」として、彼の名は兵士たちの憧れの的だ。彼は今でも、毎朝俺の家の周りを警備するのが日課になっている。「ユウキ殿の平穏こそが、世界の平穏なのでな」と真顔で言うが、ちょっと大げさだと思う。


 セレーナさんは、実家のアルストロメリア家を継ぎ、その聡明な頭脳で領地を驚くほど豊かにした。今や「最も民から愛される領主」として有名だ。彼女は時々、採れたての野菜をカゴいっぱいに持ってきて、「ユウキ様、これ、お口に合いますでしょうか?」と嬉しそうに微笑む。


 そして、アイリス王女は、父である国王から実権を譲り受け、若き女王として国を導いていた。彼女の的確な政治手腕により、王国は史上最も平和で豊かな時代を迎えている。「聡明なる女王」として、国民からの支持は絶大だ。

 そんな彼女も、時々お忍びで俺の畑にやってくる。そして、決まってリリアと張り合うのだ。

「ユウキ、私が作ったパイよ。食べなさい」

「まあ女王陛下!ユウキさんには、私が淹れたハーブティーの方が合いますわ!」

「なんですって、リリア!?」

「なんですの、女王陛下!?」

 二人が俺を挟んで火花を散らすのは、もはや日常の光景だ。俺は「二人とも、ありがとう。どっちも美味しいよ」としか言えない。俺のこの鈍感さが、二人の好意に全く気づいていないことが、奇跡的な平和を保っているのだと、ガレスはしみじみと言っていた。


 俺自身は、相変わらず自分の力を無自覚なままだ。

 今日も、畑の邪魔になっていた巨大な岩を、指一本で隣の山まで弾き飛ばしてしまった。

「うーん、この世界の岩は、やっぱり脆いなあ」

 そんな俺を見て、畑仕事を手伝ってくれていた近所の子供が、目をキラキラさせて叫んだ。

「すっげー!ユウキにーちゃん、やっぱり世界一の英雄だ!」

「ははは、違うよ。ただの農家のおじさんだって」

 俺は笑って子供の頭を撫でた。

 英雄?救世主?そんな大げさなものじゃない。俺はただ、この世界で、大切な仲間たちと、平穏に暮らしたいだけだ。


 ふと空を見上げる。どこまでも青く、澄み渡った空だ。

(元の世界に帰れる日は、来るのかな。まあ、でも……こっちの生活も、悪くないか)

 俺の無自覚な行動は、これからもきっと、新たな伝説や、世界の変革を生み出していくのだろう。

 いつか俺が、このとんでもない力の正体を自覚する日が来るのか。

 それとも、このまま「無自覚な英雄」として、のんびり生きていくのか。

 それはまだ、誰にも分からない。

 俺の異世界での物語は、どうやらまだ、始まったばかりのようだ。

 まあ、なるようになるか。

 俺は大きく伸びをして、再び鍬を手に取った。最高の野菜を作る。それが、今の俺の一番の目標だ。

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